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第35話 パスコードは霊界発信、魂シェアハウスOL、ロック解除で真実も開けました!

ところが、彼が手に取ったのは凶器ではなかった。差し出されたのは、黒いスマートフォン──ララ様のものと思しき携帯電話だった。


「……これは?」

「拾ったんだよ……まぁ、綾坂さんの気味の悪い話も、これが伊集院さんのスマホだとして、本当にロックを解除できるなら──少しは耳を傾けてやってもいい」


『ラ、ララ様?』

『ええ、間違いないわ。わたくしのスマホよ。パスコードは──』

『……分かりました』


すかさずその数字を入力する。指が震えそうになるのを堪えながら、私はパネルをタップした。


──ピロン。


ロック解除の音が鳴り、画面が明るく光った。表示されたのは、ララ様らしき女性の笑顔の写真。

確かに彼女が言っていたとおりだ。


「部長、解除しました」


私は無言のドヤ顔で、スマホの画面を彼に突きつける。


「……な……っ」


部長の顔がみるみる青ざめていく。目を見開き、口元が引きつる。


「こ、こんなバカな……」


それでもなお、食い下がろうとした。声が震えながらも、彼は必死に言葉を絞り出す。


「ま、待て。そ、それは、もしかして……伊集院さんから生前にパスコードを聞いてたんじゃないのか?君は、もともと彼女と親しかったんじゃ……」

「違います」


私は即答した。彼の動揺を逃さないよう、鋭く視線を突き刺す。


「私はララ様と生前に一度も会ったことはありません。このスマホの存在も、さっきまで知りませんでした。パスコードは──今、彼女の魂から聞きました」


「は……はあ!?そ、そんな話があるわけ──」

「じゃあ、なぜ私がロックを解除できたのか、説明してみてください。部長」


沈黙が落ちた。空気が凍る。


彼の喉がごくりと鳴るのが、はっきりと聞こえた。


「……まさか……。本当に……霊が乗り移って……」


やがて彼は、力が抜けたように、その場にへたり込んでしまった。

まるで膝の骨が砕けたかのように、がくりと崩れ落ちる。


「綾坂さんに……ララが……」

「はい。ララ様は、私の中におられます。いえ、正確には〝共に生きて〟います。さきほどのパスコードも、彼女から直接教えてもらいました」

「……そうか……それで……似ているんだな。前の謝恩会の時……一瞬、ララかと思った……」

「外見も、少しずつ彼女に似ていったようです。特に……胸とか……」

「えっ?」

「何でもありません」


部長は、しょんぼりと視線を落とした。だが次の瞬間、ゆっくりと顔を上げ、力ない声を絞り出した。


「……ララと、話を……させてくれないか」

「分かりました。少しお待ちくださいね」


私は心の中で問いかける。


『ララ様、話してもよろしいですか?』

『……いいわ。だけど言いたいことは一つだけよ』


「部長、ララ様からの伝言です」


彼は顔を上げて私を見つめる。私は静かに言葉を伝える。


「迷惑以外の何者でもない。さっさと自首しなさい──だそうです」


しばしの沈黙。彼の顔が苦悶に歪む。そして、崩れるようにうなだれた。


「……すまない……私は……君に狂ってしまった。刺したのは、セクハラがバレるのが怖かったからじゃない。そこまでして私を拒絶したことが──許せなかったんだ……」


「……」


「ララ……本当に申し訳なかった……。これから、警察へ……自首する」


よろよろと立ち上がり、会議室の扉に手をかける。


──その瞬間。


「門前部長、ちょうどいい頃合いですね」


扉の外には、人事労政グループのメンバーが待ち構えていた。この中には元警察官の姿もある。


「あなたの出向は取り止めとなりました。これから警察へ同行していただきます」

「……分かりました」


両側から腕を抱えられ、彼は一歩一歩、重たい足取りで去っていった。


「綾坂さん、ご協力ありがとうございました」


扉が閉まり、静寂が訪れる。


はぁ……。


緊張が一気に解けて、私は壁にもたれかかってしまう。


『花、ありがとう。怖かったでしょう?』

『……無我夢中でした。あ、そうだ。ララ様のスマホ、私が持っててもいいんですか?』


『ええ。好きにして。もうわたくしは使えないし』

『じゃあ……ちょっと、見せてもらいますね』


気になっていたホーム画面の写真。ララ様の素顔を初めて見られるチャンス──と思った、のに。


──え?これ、私じゃない!?


表示されていた写真は、確かにララ様のはずだった。だけど、どこからどう見ても「私」、綾坂花だった。


『ララ様……この写真って……?』

『わたくしの写真よ。何か問題ある?』

『い、いえ……でも、これ、私の顔としか思えないんですが……?』

『うふふ。だから言ったでしょう?わたくしたち、元々よく似ているのよ』


え?いやいや、憑依されてから変わったんじゃなかったの!?胸も、顔も、雰囲気も!


『まぁ、胸はわたくしの影響かもしれないけど、それ以外はそんなに変わってないと思うわ』

『そ、そんなバカな……』


もしかして、私は最初から……ララ様と、そっくりだった?

それとも──もっと別の意味が?


『ララ様……本当にたまたま私を見つけて、体に入ったんですよね?』



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