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第8話 【着火】マンは侯爵軍を発見する

 さて、朝起きて、レイラさんに部屋の鍵を返して、ギルドの酒場で朝ご飯を食べた。

 ハムとフライエッグ、そして黒パン。

 素朴だが美味しいね。


 どどどとフロルたちがやってきて、掲示板から薬草採取の依頼票を取って、こっちに来た。


「ハカセー、行こうぜーっ」

「おはようみんな」

「「「おっはよーっ!!」」」


 みんなで受付カウンターに行く。

 今日もレイラさんは三白眼で圧が強いなあ。


「おはようございます」

「おっはよー、レイラねえちゃん、今日も薬草採り」


 フロルがカウンターに依頼票を出した。


「はい、あとみんなのEランクカードが出来ているわよ」


 レイラさんはカウンターに五枚のカードを出した。

 色は緑色だ。


「やったぜーっ!!」

「うおお、E級、本職の冒険者だーっ」

「(仮)が無くなったわーっ」

「やったーっ」


 みんな大喜びだな。

 私も釣られて嬉しくなる。


 掲示板には依頼票が貼ってあって、沢山の冒険者がそれを見ていた。

 E級の依頼は、街の掃除とか、ドブ掃除とか、生活系の依頼が多いね。

 薬草採りはD級でもある。


 ゴブリンを倒せとかの討伐系の依頼はD級より上からのようだ。


「気を付けていってらっしゃい。あとぽかぽか草原にアルモンド侯爵家の軍隊が来るかもしれないわ、見たら門番さんに知らせてね」

「軍隊ですか?」

「ええ、隣の領の大貴族の私兵よ」

「アルモンドは迷宮都市が欲しいんだっ、それで色々と嫌がらせをしてるんだぜっ」


 チョリソーがそう言った。

 事情通なのは盗賊の本能というべきかな。


「迷宮都市はどこの所属ですか?」

「王家直属都市よ、だから心配しないで良いわ」


 王領だったのか。

 たしかにこれほどの資源を生み出す迷宮都市が貴族の手に入ったら利益が凄い事になるだろうな。

 アルモンド侯爵はおこぼれが欲しいのかもしれない。


「行こうぜ、ハカセ、今日は午前、昼間、午後と三回納品したいっ」

「沢山依頼を果たすと沢山ギルドポイントが貰えて、級が早くあがるのよ~」

「ああ、なるほど」


 たしかに依頼書の最後に、貰えるギルドポイントの記載がある。

 級によって特権を与えてやる気を出させるのか、なかなか上手いやり方だな。

 ちなみにC級の特権は、ギルド宿、ギルド酒場での割引らしい。

 D級はダンジョンに入る権利獲得だ。


「それでは行ってきます」

「いってらっしゃい」


 レイラさんに見送られて、私たちは冒険者ギルドを出た。


 迷宮都市は朝から凄い人出であった。

 沢山の冒険者が街を無秩序に行き交っている。


「入管は夜やってないから、旅人が朝にどばっと入ってくるのよ」

「田舎者は騙しやすくってカモなんだぜっ」

「チョリソー、それは筋が通らねえっ」

「優しくしないと駄目なんだよう」


 子供達の善悪も色々なのだなあ。


 入城してくる人波をかき分けるようにして街門にたどり着く。


「おう、ハカセ、今日もロルフたちと薬草採りかい?」

「ええ、しばらくは銀のグリフォン団に付いて迷宮都市の歩き方を学ぶつもりですよ」

「ああ、それがいいや、あんまり早くD級になってダンジョンに行っても死ぬだけだからなあ」

「気を付けます」


 冒険者カードを見せて、街の外に出る。

 見渡す限りの大草原、ぽかぽか草原だ。


「いよっし、十時までみんなで薬草採取、ハカセがエリシアにファイヤーボールを教えるのは、その後、みんな頑張って薬草を採ろう。スライムが出たら大声を出す事、狼や熊が出たら全速力で街に逃げる事、いいなっ」

「「「「おーうっ」」」」


 さっそく薬草を採り始める。

 今日は良い天気でちょっと暑いぐらいだな。

 薬草を入れる袋もギルドで買った。

 丁寧に根元から切れ目を入れて、十本溜まったら紐でくくって袋に詰めていく。


「スライムだーっ」


 チョリソーが大声を出した。

 彼の近くで青いスライムがびょいんびょいんと跳ねていた。


「うーーーらっ!!」


 フロルが駆けよってスライムを蹴った。

 ボイーーンとスライムは遠くに吹っ飛んでいった。


「倒さないの?」

「剣が錆びるから、倒しても赤字なんだ」


 スライムの体液はネバネバしていて、金属に付くと腐食する。

 倒したところで小指の先ぐらいの小さい魔石しか取れないので研ぎ代と見あわないのか。

 なるほどなあ。


 せっせと薬草を採る。

 みんなも真面目に採取をしている。

 子供なのによく働くなあ。


「あ、軍隊」


 ふいにラトカが顔を上げて草原の遠くを指さした。


「あ、軍隊だ」


 確かに街道を整然と軍隊が歩いてくる。

 甲冑がピカピカ光ってなんとも威圧感がある。


「チョリソー、番兵さんに知らせてこい」

「オッケー、行ってくんよっ」


 チョリソーがダダッと門に向けてダッシュしていった。

 足が速いなあ。


「どうするの、帰る?」

「良い天気なのにムカつく、もっと近づくまで薬草を採る」

「わかった~」


 リーダーがそう判断するなら、そうしよう。

 たしかに、軍隊が来たから帰るでは、ギルドポイントが貯まるまい。


 薬草を採っていると、チョリソーが番兵さんを連れて戻って来た。


「よく知らせてくれた、偉いぞお前達」

「街道から離れて、あっちで薬草を採ったら駄目かい?」

「うーん、街に戻って欲しい所だが、お前達も生活があるからな、兵隊が寄ってきたら街に逃げるなら、許可しても良い」

「ありがとう、おっちゃん」


 フロルを先頭にして、街道を離れた方へと移動した。

 振り返ると、軍隊の中に立派な馬に乗った髭の中年男が見えた。

 あれが、アルモンド侯爵かな?

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