朝、いつものようにミキちゃんのモーニングコールで起きてリーディングプロモーションの支社へと出勤した。
支社のアイドル溜まりでは、『サザンフルーツ』と、魔女っ子アイドルユカリちゃん、チョリさんが待っていた。
「おはよう、お待たせしたかな」
「ううん、大丈夫、後はケインさんが来れば全員ね」
チョリさんがにっこり笑ってそう言った。
ケインさんが遅れているのか。
護衛は山下さんとムラサキさんが居て、しらない黒ずくめのほっそりした青年がいた。
「榊原チャムスだよ、ヒデオさん、よろしく~」
「魔法使いの人ですね。よろしくお願いします、丸出英雄です」
俺はチャムスさんと握手を交わした。
配信冒険者には魔法とか使える人がいるから凄いよね。
「やあやあ、おはよう、遅くなってごめんね」
勇者ケインさんが入って来た。
これで全員だね。
みんなでエレベーターに乗って地上に下り、駅前の複合商業施設の地獄門を目指す。
さすがにアイドルたちが歩いていると目立つね。
「ムカデ嫌いなんですよ、護衛たのみますね、ヒデオさん」
「任せといて、ユカリさん」
「ややや、ユカリちゃんがヒデオを狙っているよ」
「ヒデオさん、別にサザンの物じゃあ無いでしょう」
「それでも、最初に知り合ったのは私たちだから」
色々と縄張りとか、占有権とか在る感じね。
俺はあんまり女の子に取りあいされた事が無いので新鮮だなあ。
「ムカデ部屋ってムカデが沢山居るんですか」
「居るっていうか……、部屋中ムカデだよ、
ムラサキさんが説明してくれた。
うはあ、それは凄いなあ。
「基本的には火炎魔法などでムカデの数を減らして走ってオーブに触れて戻りますね」
チャムスさんが説明してくれた。
「オーブに触れればいいんだね」
「はい、一度でも触れば扉を開くコードが魔力で体に書き込まれるようですよ」
なかなかエグい仕掛けなんだなあ。
ゴリラ達は二頭いるのだから、アイドルを間に挟んで輸送したら安全にムカデの群れを越せないかな?
とりあえず行ってみて試さないとね。
「ムカデ部屋はなかなか越せなくてねえ」
「まだ行って無かったんですね、ケインさん」
「そうだね、あまり必要を感じなかったんだ、でもヒデオが守ってくれるからさ、この僕も決心したんだよ」
「そうですか」
まあ頼りにしてくれているのは嬉しいね。
駅に入り、陸橋を使って西口に渡った。
今日も朝から人が多いなあ。
「あ、勇者ケインよ」
「リーディングプロモーションの人達だねえ」
「ヒデオが居るわ、きゃー、ヒデオ~~」
ヒデオ……、他にヒデオがいるのか後を振り返って確かめてしまった。
「あんたよ、ヒデオ。ファンに向けて手を振って」
「え、でも、俺はおじさんなのに、ファンとかおかしい」
ヒカリちゃんはしかめっ面をした。
「馬鹿ね、透明ゴリラの件とかで超バズってヒデオは超有名人なおじさんなのよ」
「えーー」
信じられないなあ、どこか別のヒデオさんへの歓声に違いないんだよ。
「ヒデオって自覚無いのな」
「あんまりDチューブも見なさそうですしね」
護衛のムラサキさんとチャムスさんがそんな事を言っていた。
マジでヒデオファンとか居るのか?
それはあまりに趣味が悪いと思うんだ。
とりあえず、二階の広場に立っている地獄門をみんなでくぐる。
迷宮に入ると、ちょっと温泉ぽい匂いがして、外と一度ぐらい温度が低いね。
一階ロビーの端にあるポータルコーナーに入った。
ここに立っている石碑に手を触れると、別の階へと飛ぶ事が出来る。
フロアボスを倒した配信冒険者しか用が無いので、みんなプロっぽい感じだね。
半グレ系の人はここには来ない感じだね。
みな、ポータルで飛ぶ前にリュックから装備を下ろして着込んでいる。
「ヒデオは装甲つけねえのか?」
「ブレストプレートぐらいですねえ」
俺もリュックから胸当てを出して着けた。
兜とか、籠手とか脚絆とかの装備もあるんだけど、重いからなあ。
ムラサキさんはシュッとしたジャージに胸当て、短剣とバックラーを付けて鉢金を被った。
アイドル達も思い思いの装備を着込んでいる。
基本的にみんな派手だね。
ユカリちゃんは三角帽にエナメル系のローブだな。
チョリさんも羽根つきの帽子を被り、皮鎧、銀色の弓をもってるね。
ケインさんは結構ゴツく甲冑で固めているので着るのが大変そうだな。
「ヒデオヒデオ、背中のヒモを止めてくれたまえよ」
「はいはい」
ケインさんの甲冑の背中のヒモを結んで止めてあげた。
「さあ、行くよ」
山下さんの号令で、順番にポータル石碑を触り、消えて行く。
俺はユカリちゃんの後で石碑に触った。
ブオンと目の前が揺らいで、気が付くと石造りのドーム部屋に居た。
地下十階のポータル部屋だ。
さあ、冒険を始めよう。