三郎太くんと一緒に仲良くジムの掃除をした。
終わったら逃げるように三郎太君は帰っていった。
「愛想が無いなあ」
「まあ、そりゃね」
ミカリさんが笑って言った。
「しかし、ゴリラちゃん達、三郎太の巨体を軽々と振り回してパワーあるね」
「まあ、ゴリラだからね」
「私も持ち上げられるかな」
ミカリさんは巨体とはいえ、女子だしね、上がる上がる。
「ゴリ太郎」
『ウホウホ』
ゴリ太郎がミカリさんの腰あたりを持ってヒョイと持ち上げた。
「わあ、すごいっ、毛深い、ふかふかだね」
『ウホ!』
鼻の下を伸ばすんじゃありません、ゴリ太郎。
というか、女性を抱くのにそれではないなあ、お姫様抱っこやろうがい。
『ウホウホ』
それもそうだという感じでゴリ太郎がミカリさんを持ち直し、お姫様抱っこをした。
「わあっ、こんなの初めてっ」
ミカリさんが頬を赤らめてそう言った。
「嬉しい、ありがとう、ゴリ太郎ちゃん」
『ウホウ!』
ゴリ太郎め、締まらない顔をするんじゃありません。
ミカリさんはゴリ太郎の首に手を伸ばして顔を近づけて、頬にチュウをした。
『ウッホー!!』
『ウホウホ』
ゴリ次郎がうらやましそうである。
俺もうらやましいが、ミカリさんを抱き上げるパワーは無いなあ。
ゴリ太郎はミカリさんを丁寧に床に下ろした。
「いやあ、私さあ、小学校の頃からでっかくてさ、女の子みたいな扱いされたのが初めてで、ちょっと照れたね」
ミカリさんの頬が赤くて、なかなか可愛らしい。
「いつでもやってあげますよ」
「あはは、ありがとう、ヒデオ。というか、今度一緒に潜ろうよ」
「いいですけど、何階ぐらいですか」
「いま、ムラサキとチャムスと、あと三人で三十階台後半あたりでレベル上げしてるよ」
それはかなり深いね。
「そこまで深ければ、ケインさんのレベル上げできますかね?」
「あー、ケインは五十階台で養殖されてたからねえ、三十あたりだと」
「変にレベルが上がっても大変なんですな」
「そうそう、良い機会だから、『サザンフルーツ』とユカリと一緒に迷宮慣れさせてやってよ。【剣術】さえ生えればレア剣持ちだから戦力になるんだけどなあ」
「今はだめ?」
「正直邪魔」
ケインさんが迷宮で使い物になるようにしないとなあ。
ドアを開けて、チョリさんと配信冒険者の一群が入ってきた。
「あ、ヒデオ、おはようー」
「チョリさんおはようございます」
俺が後の配信冒険者を見ているのをチョリさんは気が付いた。
「あ、これ、私の浅層用のパーティ『チョリズ』よ。バンドメンバー兼任なの」
「あ、深い所は別なんですか」
「深い所は山下さんとかミカリさんとかと組んだ『ハミングバード』ってユニットになるわよ」
迷宮深度で、いろいろと編成を変えてくるんだなあ。
浅いあたりは余裕があるからバンドマン兼任の配信冒険者ユニットなのか。
「今度、ヒデオも『ハミングバード』の方に入ってよ」
「スケジュールが合えば」
「よし、約束よっ」
そう言って、チョリさんはジムの端に行き、『チョリズ』さんと編成の打ち合わせを始めた。
冒険じゃなくて楽曲の方だね。
「色々な職務があって面白いなあ」
「アイドル事務所周りの冒険配信は面白いよ」
ミカリさんがにっこり笑って言った。
ジムから出て、さて、何をするかなと思って居ると上の階からケインさんが降りて来た。
「あ、ヒデオ、おはよう」
「おはようございます、ケインさん」
「ちょっと、僕さあ、ヒデオに相談があるんだけど、良いかな」
「お聞きしましょう」
「んじゃ、喫茶店でも行こうか」
「はい」
俺達はリーディングプロモーション支社のあるビルを出て、喫茶室ルノアールに入った。
コーヒーでも頼んでおくかな。
「相談というのはだね……」
「はい」
「剣術を覚えたいんだよ」
「それはよろしいですな」
「『サザン』やユカリとか、ヒデオと組んで色々と活躍しているのを見てさあ、僕はあまり活躍できないんだよ、配信動画をチェックすると、コメントが『ケインじゃま』『ケイン正直いらねえ』ばっかりでさ、うん、これじゃ駄目だって」
「配信でそんなコメントがついてたんですか」
「ヒデオはIT苦手だなあ」
ケインさんが来たコーヒーをすすって目を笑わせた。
配信動画って後でチェックできるのかあ、しらなかったよ。
「ヒデオとの狩りの動画は結構リスナーが多くて宣伝になるんだ、だから、後輩の女の子に比べて活躍が薄いとね、困るのさ」
「それはそうですな、じゃあ、道場とか行かれるんですか?」
「いや、川崎大迷宮には浅い階で初心者向けに剣術道場が開かれているらしいんだ、まずはそこ行ってから、本格的な修行を考える感じでさ」
「そんな道場が迷宮で、行きましょうか」
「今日やってるらしいんだ、一緒に来てくれるかい?」
「良いですよ、ケインさん」
予定には無かったが、ケインさんと迷宮に入る事になった。
初心者剣術道場ってどんな場所なんだろうなあ。
なんだか楽しみだ。