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第97話 色んな人に怒られた

「え、村田さんに式神を一匹渡してしまったのかい? それはあまりにも人が良すぎではないかな、ヒデオさん」

「いやあ、ゴリ太郎が清明さまに村田家に下賜されたと聞きまして、それならしかたがないかなあって」


 夕食の席である。

 箱膳に美味しいお料理が入り、ビールなども頂いて楽しく食べていたのだが、志保里ちゃんが、東郷のお爺ちゃんにゴリ太郎譲渡の事をチクリましたです。


「江戸時代になにかあって、丸出家に二匹伝わって、それから代々継いできたのは丸出家だから、いまさら村田家が欲しいと言っても、もう遅いと思うのだが」

「いやあ、私では護法童子にパワーアップできませんから、ゴリ太郎も強くなって使われた方が幸せかなあとも思いまして」

「ヒデオさんは……」


 朱雀さんが呆れたような声を出した。


「うん、お姉ちゃん、ヒデオさんは良い人すぎて心配」

「後で村田家に事情を聞かねばなるまいなあ、なぜ今式神が必要なのか」

「Dダンジョンじゃないんですか? 透明のゴリラがいれば、難波迷宮で活躍できますし」


 志保里ちゃんのお父さんの義男さんがそう言った。

 そういえば、伝統だからって渡したけど、今のご時世だと、護法童子を退魔には使わないのか。

 村田さんはDチューバーになるのかねえ。


「ヒデオさんもアイドルの護衛のお仕事があるのに、大丈夫ですか?」

「まあ、ゴリラたちが一人も居なくなったら困りますが、ゴリ次郎がいますし」


 あと、モグもいるから。

 そうか、『|魔物使いモンスターテイマー』になって魔物のシモベを増やしたらいいのかな。


「お義父さん、村田家がなぜ江戸時代に丸出家に制多迦童子せいたかどうじを渡したのか、記録はありませんか」

「戦争で資料が散逸してしまってなあ、細かい所は解らぬよ。宗家でも解らぬようだ」


 義男さんは入り婿なのか、奥さんが東郷のお爺ちゃんの娘さんっぽいね。

 奥様の芽衣子さんは、はんなりした京都美人だねえ。

 朱雀さんや志保里ちゃんによく似ている。


「ヒデオさんのパワーアップになるかもと思って京都にお誘いしたのに、逆にパワーダウンさせてしまって、ごめんなさい」

「ああ、いいんだよ、朱雀さんのせいじゃありませんし」

「ヒデオさん、あとで宗家に抗議しておきますから、式神は村田家から返してもらいましょう」

「いえ、その、大元の人が村田家に下賜したのですから、良いのですよ、村田さんも何かに使うのでしょうし」

「もー、ヒデオおじさんが良い人で困っちゃうよっ、家の名折れよお爺ちゃん!」

「いや、志保里ちゃん、そんなに言わなくても」

「村田家に納得のいく式神が必要な理由があれば良いのですが、どうしても帰ってこないのであれば、そうですね、ヒデオさん用の防具を一つ作りましょう」

「あ、良いですねお義父さん、私も頑張らせていただきます、神降ろし装備をヒデオさんにあげましょうよ」

「いえいえいえ、そこまでなされてはこちらが困りますよ、私が判断したのですから」

「いや、これは東郷家の責任でもありますので、どうかそこを一つ、宗家に言って帰ってくれば良しですよ」

「本島に申し訳ございません」


 気軽にゴリ太郎の帰省をゆるしたのに、なんだか大事になっちゃったなあ。

 申し訳の無い事だ。


 その後りっぱな檜造りのお風呂を頂いたあと、客間で寝た。

 ゴリ太郎がいなくてゴリ次郎だけだとなんだか寂しい感じはしたけれども、まあそのうち慣れるだろう。


 翌日は朝から陰陽道の宗家へ挨拶につれて行ってもらった。

 こっちも広いお屋敷で格式があるね。

 まあ、陰陽師の本部が近代的なビルだったりすると興ざめだからね、やっぱりお屋敷が良いね。


 大広間に集まった和服の皆さんの前で、ご挨拶である。


「さあ、みなさん、関東から我々陰陽家の仲間、丸出家の人間が帰ってきましたぞ」

「丸出英雄でございます。今日はご先祖に縁のある皆様にお会いできて、とても光栄で嬉しく思っております」

「おうおう、よう帰りなすった、お帰りなあ、丸出さん。後のが式神かいな、一匹だけだが……」


 上座の和服のお爺さんがにこやかに笑ってそう言った。


「なんだか、村田家の七郎さんが返せって言って、制多迦童子せいたかどうじは持って行ってしまったらしい」

「え、なんでや? 前鬼後鬼二体を伝えていたのは丸出家さんやろ、なんで村田が?」

「清明さんに下賜されたから、返せと言ってたようで、丸出英雄さんは人が良いから、素直に渡しなすったようですな」

「なんやろうか、今時式神持って。難波ダンジョンでも行きなすったか?」

「前鬼いうたら清明はん由来の特級式神やし、相当強いやろうなあ、なんぼ江戸まで自分の所で伝えてはったからというて、返せ言うのはなあ」


 上座のお上品な感じのご婦人が不満そうに言った。


「村田家の人間は来て無いのか? 話聞こうやないか」

「村田家の跡継ぎは、しばらく会合に来てはおりまへんで」

「七郎さんは当主かえ?」

「まだ当主ではなかったような、お父はんがまだ当主やろうな」


 ああ、なんだ、陰陽師の宗家に黙って、七郎さんの独断で返却してくれとお願いしたのか。

 なんとなく、雲行きが怪しいな。

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