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014 夢の箱

014 夢の箱



 ――「蓮さま~! 伊織さま~! 大変です! 食堂に来てください!」――



 次の朝、ヴィクトリアが大騒ぎで書店に駆けこんできた。わけを聞くと、どうやら冷蔵庫に入れていた食材が増えているという。



「本当だ……増えてる」


「でしょう?! 増えてますよね?!」


「そうなん? 私、昨日こっちにおらんやったけん、なんのことやら……これ、増えたん?」


「絶対増えてます! なんででしょう……は! も、もしや……こ、小人さんがいれたんでしょうか?!」


「いや、それはないでしょう。小人さんに知り合いいないし、小人さんに何のメリットもないだろ。え? そもそもヒズリアに小人さんいるの?」


「いえ、いません」


「なんだよそれ」


「そういうおとぎ話があるだけです」


「ああ、そういう事ね。俺たちの国にも小人のおとぎ話あるよ。まあ、とにかくもう一度確認してみよう」



 ヴィクトリアは冷蔵庫の中をもう一度確認する。木の実の数を数え直し、何度も確認するが、確かに昨日入れた数より増えている。



「チエちゃん、これ、どう思う?」


《恐らく、これも食堂の恩恵のひとつではないでしょうか。稲荷神社の|手水場《ちょうずば》のようなものかもしれません》


「なるほどな」


《それに……少し気になることがあります。法則を知るためにも観察してみませんか?》


「わかった」



 こうして、増える冷蔵庫の謎を探るべく、俺たちの観察の日々がはじまった!




 ◇     ◇     ◇




 ――【観察初日】――



 現時点でわかっているのは、冷蔵庫に入れた木の実やキノコが増えていることだ。増えたのは各食材が一つずつ。なぜ増えるのかは、食堂の恩恵によるものだと考えた。問題はその法則性だ。


 検証の為、いくつかのものを入れてみることにした。


 ヴィクトリアの携行食をひとつと、俺たちが狩ってきたウサギの魔物だ。



「じゃ、じゃあ……ヴィクトリア……お、お願いします!」


「かしこまりました! 立派なウサギです!」



 ヴィクトリア曰く、ウサギの魔物はやはり食べられるそうだ。



 ――ダン! ダン! ドン! ザッザッ……



 さすが料理人。ヴィクトリアはバッサバッサとウサギをさばいていく。



「ヴィ、ヴィクトリアちゃん……す、凄いねぇ……」


「あ、ああ……」



 俺とばあちゃんは食堂の外でぶるぶると震えていた。しかし……本当だ。ヴィクトリアの言う通り、ウサギ肉になったウサギは『食識の眼ガストロヴィジョン』で見てみると、かなり栄養価の高い上質な肉だった。


 それと、食材以外のものも増えるか検証するために、江藤書店の本を一冊入れてみる。


 この状態で一日様子を見てみよう。



「小人さん! よろしくお願いします!」


「いや、だから多分違うって」


「蓮ちゃん、いいけん言わせとき。女の子の夢、壊したらいかん」




 ――【観察二日目】――



「蓮さま! 木の実とキノコがまた増えてます! 各種一つずつ! 小人さん律義!!!」ヴィクトリアが嬉しそうに報告してきた。いや、小人さんじゃないって。


 しかし、昨日入れたウサギ肉と携行食と本は増えていない。なぜウサギ肉と携行食は増えなかったのか。もしかして……加工が影響しているのか?


 ここで考えられる仮説は、次の通りだ。



 ・簡単な食材しか増えない。(未加工の自然な形の食材が対象)

 ・最初に入れたものしか増えない。

 ・増える数は一つずつ。



 さらに検証するために、まずは『最初に入れたものしか増えないのか』を調べることにした。



「蓮さま、なぜ木の実とキノコを取り出すのですか?」


「ああ、これでさ――」



 俺は木の実やキノコを取り出し、冷蔵庫の中身をウサギ肉、携行食、本の3種類にした。


 もし、この状態で木の実やキノコが出現していたら、最初に入れたものしか増えない可能性が高い。




 ――【観察三日目】――



「蓮ちゃん蓮ちゃん! ウサギ肉が一つ増えたばい!」



 ばあちゃんが嬉しそうに尻尾を膨らませ報告してきた。


 木の実やキノコは出現していなかった。これで『最初に入れたものだけが増える』という仮説は消え、食材であれば、加工していても増えるようだ。


「おかしい……そんなはずは……」とヴィクトリアは懐疑の目で冷蔵庫を見つめている。


 よく見ると、目の下にくまができている。こいつ……小人さんに会いたいばかりに一晩中見張ってたな。



「でも、携行食は相変わらず変わりがないねぇ。なんでやろうねぇ」



 そうだ。加工しても増えるなら、なぜ携行食は増えなかったのか。ウサギ肉と携行食の違い……



《加工の手間が関係するのかもしれませんね》



 なるほど。加工に時間がかかるものほど、増えるのに時間がかかるということか? 携行食は複数の食材や調味料を組み合わせて作られているため、解析が複雑で時間が掛かるのかもしれない。要検証だ。


 改めて、木の実とキノコを戻してみることにした。




 ――【観察四日目】――



 木の実とキノコが一つずつ増え、ウサギ肉もさらに一つ増えた。そして、ついに携行食も増えた。


「わー! また増えた! 今夜はパーティーばい!」とばあちゃんははしゃいでいる。


 やはりそうだ。携行食が増えるのに時間がかかったのは、加工の手間の分、解析に時間がかかったのだ。


 そして、ウサギ肉が2日連続で増えたのは、食材の解析が完了したため、増産出来るようになったのだろうと俺とチエちゃんは考えた。明日、携行食が増えれば、その説はほぼ間違いないだろう。


 本に変化はない。この時点で食材以外のものは増えないと結論付けた。



「な、なんで?! 冷蔵庫の扉にもたれ掛かってたのに……いつの間に」



 おい、ヴィクトリア、もうそれ小人さんの邪魔してるだけだから。というか、いい加減寝なさい。死ぬよ?



「と、とりあえず、最後にもう1日観察してみよう」




 ――【観察五日目・最終日】――



 木の実とキノコは相変わらずひとつずつ増え、ウサギ肉、携行食も一つずつ増えた。これで『食材の分析に時間がかかる説』はほぼ確定だ。


 これで冷蔵庫の法則が大まかに分かった。



【食堂の冷蔵庫】


 1、食材のみが増える。

 2、入れた食材は一つずつ増える。

 3、増えるのは中に入っているものだけ。

 4、増えるためには解析が必要で、その速度は食材種類による。



 という結論だった。さらに詳しいことは、他の食材を使っておいおい検証してみよう。



「すごいねぇこの冷蔵庫! どんどん食材が増えるばい!」


「ふ、ふふふ……そうですね……私たち料理人にとっては、夢のような箱ですね」


「え? ヴィクトリア、小人さんは?」


「いやですよ~。さすがに私も小人さんじゃないって最初から気づいてましたよ~。ふふふ……」



 嘘つけ! 目の下のくま、さらにえぐい事になってるじゃないか! 三徹かました後によく言えるな、その台詞!



「でもあれやねぇ。新しい食材は一度手に入れんと増やせんのやろう?」


「だな。食材の新規開拓はする必要があるな。だがな……これで俺たちは飢えることがない!」


「「だははは!」」「ふふふ」



 俺とばあちゃんはこの時のんきに高笑いしていた。だが、チエちゃんの一言で俺たちは凍り付くことになる。



《蓮さま、伊織さま、ヴィクトリアさま、五日間の観察ご苦労様です。おかげで、様々な情報が得られました。ありがとうございます》



 チエちゃんの声が重い。なんでだ? こんな素晴らしい冷蔵庫が手に入ったのに。



《蓮さまと伊織さまに質問します。この冷蔵庫の動力は、どこから来ていると思いますか?》


「え? 動力? 電気じゃないの?」


「そらそうやろ。電気がなからな動かんめえもん」


《そうなんです。私ももっと早くに気付くべきでした。あまりに当り前過ぎて、見過ごしてしまいました。勝っちゃん食堂の冷蔵庫……それに、江藤書店の座敷の電灯……電気が無ければ動きません》


「江藤書店の電灯?」


《ええ。伊織さま、蓮さま、この商店街のどこに電気があるんですか? 電線も電柱も転生していません》


「「え? 転生してない?」」



 俺は食堂の外を見回した。本当だ……電線も電柱もない。



「え? でもコンセントは」


「蓮ちゃん、これ」



 ばあちゃんが冷蔵庫のコンセントを手に持ち、眉をひそめている。



「コンセント、刺さっとらんばい」


「え? じゃあ、なんで動いてるの???」



《蓮さまが触れた瞬間、冷蔵庫は起動しました。それを疑問に思い、数日間観察してみた結果、確信しました。この冷蔵庫は……永久機関です》


「「「永久……機関?」」」


《ええ、外部からエネルギーを受け取らず、無限に働き続ける装置のことです》


「え? 何それ、めっちゃいいじゃん!」


《良いどころか大問題です! この冷蔵庫だけでなく……恐らく、この商店街にある家電製品は全て永久機関の可能性があります! これは、この商店街の未来を揺るがす、大変危険な事態です! 今からすぐに会議を開きます!》


「「「ええ~~~?!」」」



 こうして俺たちは、大狸商店街の未来を占う、町内会議を行うことになった。





 ――――――――――――――

 新たに分かった、増えた恩恵


 商店街の恩恵 その1


 江藤書店

 店主:江藤伊織

 名称:知恵の宝庫

 能力:

 ・念話:脳内で完結する通信を実現。バージョンアップにより念話のチャットルームが開設。これにより他店主も念話に参加できるようになる。



 商店街の恩恵 その2


 勝っちゃん食堂

 店主:ヴィクトリア

 名称:増える冷蔵庫

 能力:入れた食材が増える。

 【法則】

 ・食材のみが増える。

 ・入れた食材は一つずつ増える。

 ・増えるのは中に入っているものだけ。

 ・増えるためには解析が必要で、その速度は食材種類による。


 特記事項:

 ・永久機関の可能性がある

 ――――――――――――――






 ⛩――【勝っちゃん食堂・厨房にて】――⛩


 ……なんで、おいらが食材増やさなあかんの?

 この猫娘、なんであの箱に張り付いとるん?

 食いもんの匂いがするから、箱の中みたいんやけど。


 めっちゃ徹夜するやん。

 箱の中の食いもん、盗られへんやん。

 マジで邪魔やわ~あの猫娘。

 なんか料理しながら、ずっとあの箱みとるやん。


 いや、もう寝りって! もう三徹目やで?

 死ぬでほんま! ん? なんやこの匂い……

 お、こんなところに美味そうな料理が!

 ん? なんやこの紙……


 ――【小人さんへ】――


 新作の料理です。よかったら食べてください。

 あと、お仲間の小人さんたちに


 ・大狸便り(ブックマーク登録)

 ・大狸基金(♡応援、★★★評価)

 ・目安箱(応援コメント、レビュー)


 ――のご協力、お願いします!――


 なんや……今時おいらたちの事信じとるやつ、おるんやな。

 料理……ありがたく頂いていくで! ほなさいなら!


 ⛩――「信ずれば 君のもとにも こびとさん」――⛩






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