015 緊急町内会議~前半~
――《それではこれより、大狸商店街の緊急町内会議を開催します。進行は私、知恵の宝庫が行います》――
ヴィクトリアが仲間になって数日後。俺達は急遽、チエちゃんの発案により、これからの大狸商店街について話し合いをすることになった。というのも、食堂の冷蔵庫が『永久機関』であり、それが商店街の未来を脅かす存在だからだそうだ。
「はい! 議長! 質問してもよろしいですか!」
《はい。伊織さま、どうぞ》
「この冷蔵庫のどこが悪いんですか! 止まらないし、食材も増やす! へはは! 良いこと尽くめじゃありませんか!」
ばあちゃんが変にテンションがあがってる。本当はこういうのが好きなのか。生前の町内会議では物静かに座ってただけなのに。猫かぶってたのか。いや、狐か。
《それを説明するにはまず、この世界のルール、主に魔法体系について知ってもらわなければなりません。少し長くなりますが、みなさん、頑張ってついてきてください》
「「「お願いします!」」」
《先日、私はヴィクトリアさまから寄贈された魔導書を基に、この世界の魔法体系について学びました。
この世界の魔法には属性があり、大まかに五行属性『木、火、土、金、水』と、『神聖・闇』属性があります。
この考え方は私たちの世界の五行、つまり古代中国発祥の五行と酷似していますが、その内容は中国の五行ほど複雑ではありません。
これらの魔法を使用するには精神力、つまり魔力を消費します。過度に使うと魔力が尽き、強い倦怠感や昏倒といった、身体への影響が出る恐れがあります》
「使いすぎたら、バタンキューって事ですね! 議長!」と、ばあちゃんはすっかりノリノリだ。
まあ、こういう積極的な質問者がいると、周りが黙っていても議論が進むから助かる。少しうるさいけど。
《そうです。また、精神と身体は密接に連動しており、精神が病むと身体にも不調が現れます。闇魔法はこの原理に干渉し、主に精神に攻撃を加えることで、心身に深刻なダメージをもたらします》
「議長! それは呪い、丑の刻参りみたいなものですか!」
《そうですね。似ていますが、闇魔法はもっと直接的で、効果が強力です。逆に神聖ま――》
「議長! 神聖魔法はどんな仕組みですか!」
《は、はい……えー、神聖魔法は、闇魔法とは逆の働きを持ちます。神聖魔法は精神を通じて身体の傷や病を癒す力です。いわば、『病は気から』を逆手に取り、『気の力で病を癒す』ものです。そのため、神聖魔法は闇魔法を封じる効果も持っています》
「なるほど! そうやないかな~とは思っていました! あい! 分かりました!」
やっぱりうるさいな。落ち着けばあちゃん。
《また、五行魔法には、|相生《そうしょう》と
「
《要は属性同士の相性です。相生は、属性同士が互いに助け合い、力を増幅させる関係を示し、相克は、属性同士が互いに抑制し合う関係を示します》
「なるほど……」
《そしてこの互いに干渉しあうバランスが、このヒズリアにおける魔法の力、力場を安定させる要因となっています》
「力場か……ねぇ、そのバランスが崩れるとどうなるの?」
《過度に一属性の力が強くなりすぎると、魔力が溢れ暴発する可能性があるとされています》
「暴発! なんか怖いな」
《そのバランスが崩れるギリギリのラインは『魔力の臨界点』と呼ばれています。ただ、文献によると、臨界点はよほどのことがない限り起こりえないとのことです。過度に心配する必要はありません》
「臨界点ね。一応覚えておくよ」
《では、この世界の魔法体系をまとめると……》
――――――――――――――――――――
【五行魔法】
・木属性:植物や自然を操る。自然との調和、成長を司る。土に強く、金に弱い。
・火属性:火を操る攻撃的な属性。破壊力が強いのが特徴。金に強く、水に弱い。
・土属性:大地や岩石を操る。防御や補強に優れている。水に強く、木に弱い。
・金属性:金属を操る。鍛冶や強化に特化している。木に強く、火に弱い。
・水属性:水を操る。治癒や浄化、流動性を持つ。火に強く、土に弱い。
【その他の魔法】
・神聖属性:精神を介して身体を癒す。闇魔法に強い。
・闇属性:精神や身体に負の影響を与える。神聖魔法に弱い。
――――――――――――――――――――
以上が、この世界で使われている魔法の基本的な体系とその相関です》
「ふーん……なるへそ」
あ、ばあちゃんのテンションが明らかに落ちた。飽きたな。
「はぁ~。ヴィクトリアちゃ~ん。なんか、魔法って難しいねぇ」
「え? ええ、そうですね。私も独学だったので、ここまで詳しくは」
そうか、ヴィクトリアが寄贈してくれた魔導書……自身で購入したものって言ってたな。
「なぁ、ヴィクトリア。魔導書って高価なものなんじゃないのか? 本当に寄贈していいのか?」
「え? も、もちろんです! お気になさらないでください!」
《ヴィクトリアさま、大切な魔導書ありがとうございます。この魔導書、何度も読み返されてますよね? 高度な言語で記されているにもかかわらず。本の記憶から、あなたの学ぼうとする気持ちが流れ込んできました》
「え? ええ……でもなかなか難しくて。むしろ、こうやってチエさまに教えていただく方が何倍もためになります! ありがとうございます!」
《お任せください。ヴィクトリアさまのお気持ち、決して無駄には致しません。ちなみに、ヴィクトリアさまは火と水の属性を持っていますよね?》
「はい。どちらも戦闘に使えるほど強くありませんが」
《火は水に弱い属性ですからね。相克の関係になってしまいます。ですが、この二つの属性は料理には欠かせない魔法でもあります。戦闘には不向きな組み合わせかもしれませんが、料理人としては最適な組み合わせといえるでしょう。素晴らしい素質をお持ちです》
「あ、ありがとうございます」とヴィクトリアは嬉しそうに頬を赤くしている。
「はい! 議長! 私は? 私の属性もお願いします!」と、ばあちゃんが復活した。
《伊織さまは、木属性と神聖属性を持っていらっしゃいます。これら二つの属性は打ち消しあうことなく作用するため、相性の良い組み合わせでしょう》
「ふふふ~ん。そやろそやろ」と、ばあちゃんは得意げに、ちょっと腹立つ顔をしている。やめなさいその顔。
《そして問題は蓮さまです》
「え? 俺?」
《はい。蓮さまの魔法属性は……雷です》
「かみなり?」
《蓮さまは先日のウサギの集団との戦闘で、最後の一撃において雷撃を発動しております》
「ああ、あれか。自分でも無我夢中で、何をしたのかあんまり覚えてないんだ」
《正確には、雷撃から発生した電磁波による、身体の超加速での打撃です》
「ちょ、超加速……! か、かっけえ」
「あんときの蓮ちゃん、凄かったもんねぇ! ぶるん!って動いたもん。ぶるん!って」
《蓮さまが雷属性をお持ちなのは、恐らく前の世界での死因が原因でしょう》
「ああ、感電死ね」
雨に濡れてお参りしてたら、灯籠の漏電で感電死って……我ながら情けない死にざまだ。現世の連中、絶対笑ったやついるって。
《そして雷は本来、中国の五行において木属性に分類されます》
「およ! 木属性?! 蓮ちゃん、私とおんなじやん~! ばあちゃん嬉しか~!」
《ですがこのヒズリアでは、雷はどの属性にも割り当てられていません》
「な~んね違うんね、紛らわしい! ぬか喜びたい!」
《す、すみません……》
「ばあちゃん、言い方!」
「ぶう、蓮ちゃんと一緒と思ったんに」
「チエちゃん何も悪くないよ! ありがとう! 続けて!」
《はい……えー、これには訳があるのですが……ヴィクトリアさま、これについてどう思われますか?》
「え、えっと、雷属性を使う人なんて聞いたことがありません。それに雷は……」
ヴィクトリアの顔に戸惑いの色が浮かび、言葉を探しているようだった。
《この世界ではそもそも電気が使われていません。それには文明の発展度も関係していますが、根本的な理由があります。それは電気――すなわち雷が『神の力』として畏れられているからです》
「神の力? え? 雷が?」
《はい。雷は人知を超えた現象とされ、不可侵のものとされています。ちなみに、こちらの世界で落雷の事を、神の鉄槌『|神槌《しんつい》』とも呼ぶそうです。そんな力を操るということは……》
「……神への冒涜ってこと?」
《その通りです。そのため、雷属性の術式研究はほとんど進んでいません。これが魔法体系の説明と、雷属性がどこにも分類されない理由です。少し長くなりましたが、ここからが本題です――》
「いーーー! その前に議長! いったん休憩しましょう! 頭がパンクしそうです! それに、このテンション疲れました!」
《それは伊織さまが勝手に……ふう、仕方ありませんね。少し休憩を取りましょう》
「ありがとうございます! ヴィクトリアちゃん、携行食のナッツバーと薬草茶をお願いします!」
ばあちゃんの集中力が限界なので、俺たちは休憩を挟むことにした。
雷属性。
衝撃の緊急町内会議、後半戦が始まる。
⛩――【休憩中・みんな大好きナッツバー】――⛩
「このナッツバー、めっちゃ美味しいんよねぇ!」
「へへっ、これ……私が小さい頃から得意なお菓子なんです!」
「へぇ~! 小さい頃から!」
「私の生まれ故郷のノルドクシュ、冒険者が集まる酒場が多いんです。木の実のおつまみが安くて人気で……」
「はぁ~、それを買って作りよったん?」
「買う??? いえ、冒険者さんって喧嘩っ早いから、よくテーブルをひっくり返すので……落ちたのを這いつくばって拾ってました!」
「はいつく?! ひろ……うん……あ……なんか、ごめんばい……」
――こんなヴィクトリアちゃんが働く大狸商店街★――
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「うん! 上出来! 今日も美味しい!」
⛩――「たくましき 子猫の頃の ヴィクトリア」――⛩