「ご馳走様でした。」
私たちは、マスターさんに深く頭を下げた。
(私も…飲みたかった…!)
エレンの残念そうな声が脳内に響く。
「いいってことよ!
ミルサーレ村を助けてくれたんだ。これでも足りないくらいだ!」
マスターさんは豪快に笑い、
ふとミストさんに視線を向ける。
「それにしても……青髪の嬢ちゃんは、やたら酒につえーんだな!!?」
「いや〜酔ってますよぉ??」
ミストさんがにこにこと答える。
……えっ?
全然、いつも通りだけど。
顔だって、全く赤くなってない。
そんなやりとりを交わしながら、
私たちは酒場を後にした。
「気をつけてな!
またいつでも来てくれ!」
マスターさんが、背中越しに声をかけてくれる。
私はもう一度、深く頭を下げた。
正式に“聖女”と呼ばれるようになったとしても――
こうして出会う、人の優しさ。
温かい声。
心からの笑顔。
私は、これらを何より大切にしたい。
そう、強く思ったのだった。
⸻
「さぁ! 調査を再開しましょう!」
ミストさんが元気よく声を上げる。
「話を聞いた感じだと……ピクシーが、鍵を握っていそうだよね。」
「そうですねぇ。
でも、ピクシーは妖精ですから――
そんな簡単には見つからないと思いますけど。」
そう――妖精。
妖精も、元は“魔物”だったと言われている。
魔物が、何らかの祝福を受け、
人を助ける存在――妖精へと変わる。
そんな奇跡は、稀に、けれど確かに存在するとされている。
「それじゃあ、また聞き込み調査ですっ!!」
ミストさんは、勢いよく通りへと足を向け、
道行く人に元気に声をかけていく。
「こんにちは〜! 一つお伺いしてもいいでしょうかっ!??」
──
それから十数人目…。
「こんにちは。ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、もちろん。なんだい?」
落ち着いた様子の男性だった。
「ピクシーについて、なのですが……」
その言葉に、男性の眉がぴくりと動く。
「……ここは昔から、ピクシーがいるって噂だからね」
「はい。ですので、ピクシーについて調べたいなと思いまして」
「なるほど。
ピクシーに何かをするわけじゃないんだね?」
男性の問いに、
私とミストさんは顔を見合わせてから、揃って答えた。
「はい! どんな生物なのか、
気になるだけですので見るだけですよ!」
実際のところ、
町に満ちている瘴気は微弱なもので、
それが“妖精”由来のものであれば――
本来、放っておいても大きな問題はないはず。
でも、だからこそ。
念のために、一度ちゃんと確認しておきたかった。
「……そっか。
ピクシーなら、この町の風車に住んでるよ」
ついに――
ピクシーを“知る人物”と出会うことができた。
「風車……!」
ミストさんが、なにかを察したように目を細める。
「ありがとうございます!」
私が頭を下げると、
男性は少し微笑みながら、こう言った。
「ちなみに……僕も、一緒に行ってもいいかい?」
「もちろん!!」
ミストさんが、即答でそう返した。
その返事の早さに、男性もわずかに驚いたようだったが、
すぐに頷いた。
そして――
私たちは、
この町の“風車”へと向かって、静かに歩き出した。