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第3話 彼女の視点


「行くわよっ!」


「行かないっ!」


 少女と少年たちが二人、学校から帰る道中、交差点の端で言い争う。


 行き交う車から出る騒音に、負けず劣らずの声量でだ。


 真夏の暑さと、蝉が鳴き声を上げる中、いったい何を二人は争って言っているんだろうか。



「行くの」


「行かねぇって」


 言い争う中学生の男女二人。


 一人は黒髪の少年で、もう一人は赤みがかった金髪で長い髪をした少女。



「このヤンキー女、髪は染めてるし、目にはカラコンなんか入れやがって」


「この髪も瞳も元からだって言っているでしょ、あんた何度私が外国から来たって言ったら分かるのっ?」


 少年は、悪態を吐き、少女はぶちギレて反論する。

 彼と彼女の口喧嘩は、更にヒートアップする。



「どうですかねぇ? 向こうの人だって髪染めたりカラコン入れますからねえ、本当は黒髪黒目なのに外国人だからって染め……」


「しつこいっ! キモ・ゾンビ・オタ引きニート」


 ゴンッと頭を叩かれて、うずくまる少年。


 少女は彼の頭を拳で、ゴツンと叩いた。



「うぐぅぅ」


「さあ観念して早くしなさい」


 少年の黒髪を掴み、引っ張っていく少女。

 少年は無理矢理、歩かされて連れて行かれる。


 ~~と言うより、強制連行されているようにも見える。

 もちろん、少年は激しく抵抗して踏ん張るのだが。



「さぁ~~登校の時間よっ!」


「あっちょっと待って嫌だ、学校何か行きたくないっ!」


 少女が再び、無理矢理に少年を引っ張って行こうとすると、彼は必死で抵抗するが。



「うるさっ!! あっ猫が車に……」


 少女は少年に対して、そう言うが。


 ふと道路を見ると、黒い子猫が大型トラックに引かれそうになっていた。



「にゃ………………」


「大変」


「あぶねぇ」


 それを見て、少女と少年はもう少しで引かれてしまうと、黒い子猫を心配する。



「助けなきゃ」


 ーーと、言いながら猫に向かって、一直線に走っていく少女。


 そして、子猫を歩道に投げて助けたが、少女の眼前には白いトラックが。



「あっ!?」


 引かれると思う少女。そして少女の前に立つ少年。


 これじゃ、僕はしにましぇ~~んじゃねぇかと少年が思った刹那。


 二人は目を瞑ると。



(……あれれ……)


(……なんだ……)


 目を開いた、少年と少女は見知らぬ、暗く広い洞窟みたいな空間の中にいた。



「どこなの…………ここ?」


 彼女は、考えるが答は出ない。


 隣の彼に聞いても、答えは同じだろうと思った彼女は、一応質問してみる。


 しかし、彼は首を振るだけだ。



「知らない」


 と答えた……その後に。



「ひょっとしたら、ここは死後の世界なのかも知れない?」


「死後の世界?」


 嫌だ、何で中学三年生で死ななきゃいけないの。


  ーーと考えている内に、どこからか何人かの足音が聞こえてきた。


 二人が足音のする方を振り向くと。



「ガアァァガアアァァッ!」


「グオオォォォォ」


 咆哮を上げるゾンビが現れた。


 それも、一体や二体ではない、たくさんのゾンビ達がこちらに向かってくる。



 その場に、へたりこみ動けなくなる私。


 当然だ……トラックに引かれて死後の世界に来たんだ。


 地獄の亡者に喰われるなんて、いったい誰が思うだろうか。

 ……もう全て終わりだ。



 …………と思ったが、彼が言った。



「いけっ! ここは俺がなんとかする」


 そう言いながら、彼は勇敢にも石を拾い、ゾンビの群れに向かって投げ始めた。



 そして。



「何やっているっ早く行くんだっ!」


「貴方はどうするのっ!!」


 彼の言葉に私は、ハッと我に帰り、直ぐに気力を取り戻し立ち上がる。



「何とかするさ、とにかく逃げろ。後から必ず追い付くから」


「わかった絶対よっ! ……絶対ねっ?」


 彼の言葉に、私は踵を返し、走りながら逃げる。


 その後、直ぐに彼へと振り向く。



 彼は、お茶碗くらい大きい石を振り回し、ゾンビの頭を叩いていた。



 一、二体ゾンビは倒れるが、まだ沢山のゾンビが後ろにいる。


 さらに、奥の通路から、ゾンビ達がどんどんやってくる。


 これじゃ彼は……いや、絶対に大丈夫だ。

 彼は、後から必ず来てくれる。


 今は突っ走らなきゃ、私は走る、どこまでも。



「ハァハァ」


 息が切れ、白い息が出る。

 さらに咳き込む程寒い。


 あれから、かなり走って遠くまで来た。


 ここは何かの城かな。


 地下道みたいな場所で柱が六本も見える。


 そして、彼方此方あちらこちらに瓦礫の山が散乱している。


 は…………ゾンビだ、はやく隠れなきゃ。


 私は、崩れた瓦礫の後ろへと素早く身を隠す。



「アア、アアァァァァ」


 ゾンビは一人だけらしく、私の姿を見つけたが、来たときには既に見失っていた。


 だから、首を振りながら周り見回しつつ、私を探しているらしい。


 正直、はやく他所へ行ってくれないかな……と思う。

 それに、私の額からは冷や汗が流れる。


 たった数十秒しか時間が立ってないのに、かなり緊張感を感じる。



「アアァァァァ~~~~」


 数分後、ゾンビはやっと行った見たいだ。


 そう判断した私は、これからはうまく隠れたりしながら、彼と合流することにした。


 道は長いし、安心も出来ないだろうが、それでも今の私は行くしかなかった。

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