「……繰り返す。こちらは
英語の音声が直ぐ側で聞こえる。
「ん、んん……」
直後、ロックオン警告が鳴る。
「!」
「! お、俺も失神してたのか……?」
後ろで
だが、それより問題は、今、皐月をロックオンしている未知の戦闘機にある。
「最終警告だ。こちらは
見れば、前後を未知の戦闘機に囲まれている。
前進翼、と呼ばれる前方に翼を向けた特徴的な戦闘機だ。これだけ特徴的な形状の戦闘機であれば知っていてもおかしくないはずだが、瑞穂も有輝も知らない戦闘機だった。
また、尾翼についた川に見立てたようにも見えるNのアイコンは全く見覚えがない。
「どうする?」
「応答するしか無いだろう」
そういって、有輝がコンソールを操作。呼びかけてくる周波数に合わせて通信に応じる。
「こ、こちらは、航空自衛隊浜松基地所属の生徒会機である。敵対の意志はない。直ちにロックオンを中止されたし」
「
「何って、日本の軍隊だよ。こちらは
「日本に固有の軍隊はないはずだ。どこの
「め、メガコープ?」
聞き覚えのない単語に有輝は思わず目眩を覚える。
「そ、そうだ。俺達はゲートに突入したんだ。分かるか? ドラゴンを吐き出すゲートだよ」
一度無線のマイクをオフにし、念の為、瑞穂に尋ねる。
「ゲートは分かる。ゲートに突入したの? それは知らないけど……」
「お前が失神した後だったからな。皐月のやつ、無茶しやがって。……とにかく、ここはゲートの向こうなのかもしれない。尋ねてみよう」
再び、マイクをオン。
「俺達は真珠湾上空に展開されたゲートを越えてきたんだ。ドラゴンを吐き出すゲートだ」
「ゲート? ドラゴン? 何を言っているんだ? それに真珠湾だって? ここはサンフランシスコだぞ」
「サンフランシスコ!?」
有輝は驚愕するが、そう言われてみると、右前方に見える赤い橋はかの有名なゴールデンゲートブリッジのように見える。
「おい、これ以上問答してると……」
「そうだな。流石に世界樹の上空を飛ぶのはまずい。ここで落とすか」
皐月のコンピュータが後方の機体が機関砲発射口と思われる扉を開いたことを警告する。
「まずいぞ」
「私達の使命は生存。一佐も一尉もそう言っていた」
「おい、まさか何者かも分からないやつとやり合うつもりか?」
「そう。
赤いボタンを押し、近接戦闘モードを起動。
不明機のミサイル発射より早く、皐月が
「皐月、
即座に
対する不明機もさるもの。素早く
【> I have control.】
突如、皐月が操作権を奪って左へ急旋回。瑞穂も有輝も思わぬ動きに悲鳴を上げる。
「なんなの!?」
「どうやら、皐月に命を救われたらしい。なんだありゃあ、機首から光を放って翼が熱された。レーザー兵器か?!」
「レーザーってSFとかに出てくる奴?」
「一応自衛隊でも実用化は進めてるけどな、あんな航空機に搭載できるもんじゃないはずだ」
一体どういうことだ、と呟く有輝。
「そんな旧式機で、
そんな声が聞こえてくる。
旧式機? 最新鋭のスーパーラプターBlock13を指していう言葉としてはこれほど似つかわしくないものもない。
不明機二機が皐月に機首を向ける。
皐月はオートマニューバで加速し、飛んで来るレーザーを回避。
「なぁ、嫌な予感がしてきたんだが。ゲートの向こうは未来だった、とかそんなことないよな?」
「分かんないよ」
皐月は有人機としては他の追随を許さないほどのマニューバで不明機からの攻撃を回避し続けているが、不明機のレーザー射撃が時折被弾しており、翼がかなりやられている。
何せレーザーは文字通り光速で飛ぶ。それは格闘戦を行う距離おいては射撃即命中を意味する。本来、回避など望めない武装だ。
それを可能にしているのは、敵のレーザー発射口が機首に搭載されているために、機首を避ける機動を取ることでなんとか回避出来ているに過ぎない。
皐月であればこそ可能なことで、瑞穂にも困難であっただろう。
「チッ、無人機を出すぞ」
「
だが、それも間も無く限界が訪れる。
「なんだありゃ、まずいぞ、挟まれる」
四方に四機。全員、こちらに機首を向けている。レーザー発射口が開く。
「前方のNile社軍機に告ぐ。直ちに攻撃を中止せよ。直ちに攻撃を中止せよ」
だが、それより早くそんな通信が聞こえてくる。
「なんだ、何者だ!?」
「こちらは、
「はっ、Gougle社様がNile社の庭で何をしている!」
「技術試験機だと? こんな百年以上前の機体で何をしてるんだ」
四機は直ちに皐月の包囲を中止、こちらに接近しつつある、機体を包囲するように飛ぶ。
「それに答える義務はない」
何やら新たに来た機体と揉め始めたらしい。
皐月の情報収集ユニットの光学系で捉えたところによると、新たに来た不明機は先ほどの不明機と良く似ている。違うのは後退翼、つまりよく見る後ろ向きの翼であると言う点だ。
と思った次の瞬間、後退翼が変形し、前進翼へと変化した。
こうなると尾翼が鮮やかな四色で塗り分けられている部分でしか見分けがつかない。
「なんだありゃあ、ってか今、スーパーラプターを百年前の機体って言ったか?」
ってことは単純に考えても今は二一二〇年代ってとこか? と有輝。
「そんなことより、新しく来た機体、皐月のことを自分の技術試験機だって言ったよ。怪しすぎる」
【> Yes. The newly arrived fighter is the master of dragons.】
そこに皐月が警告を発する。新たに来た戦闘機はドラゴンの主だ、と。
「こりゃ、逃げるっきゃないな」
「逃げるってどっちに?」
「うーん、市街地上空で戦うのはこっちが悪者になる。海上に逃げよう」
「了解」
燃料が気にかかるが、とにかく逃げるために
「あ、待て。逃すか!」
包囲されていた方の不明機が
「逃さないのはこっちだ。追撃するぞ」
「
皐月は最高時速に近い速度を出しているが、ドラゴンの主と皐月が呼んだ不明機はそれに追従してくる。
「嘘だろ、どうやって熱の壁を越えてるんだ」
「ゴーグル
こちらが皐月だと知っている。友軍だと信じたいところだが、皐月は敵だと言っていた。
「皐月を信じる」
「あぁ、異論はない」
瑞穂は一瞬も迷わず、皐月を信じると決めた。有輝もそれに頷く。
「どういう事情かは知らないが、技術試験機とやらはお前達にも馴染む気はないらしいな」
尾翼にNと描かれた二機が尾翼が四色に塗り分けられた一機に追いついてくる。
「改めて警告する。ここはNile社の管制空域である。直ちに武装解除し、我が方に帰順せよ」
「断る。平和ボケのNile社に用はない」
尾翼が四色に塗り分けられた一機の方がミサイルを放つ。それは空中で無数に分裂し、尾翼にNと描かれた二機に迫った。
対する尾翼にNと描かれた二機は回避マニューバ。その間に尾翼が四色に塗り分けられた一機の方はまっすぐ加速し、さらに皐月に迫る。
「こいつ、
尾翼にNと描かれた二機の方が驚愕しつつ、レーザー射撃で尾翼が四色に塗り分けられた一機を狙う。
「まずいぞ、これ以上アフターバーナーは続けられない。燃料が保たないぞ」
「あの怪しい奴に帰順するしかないの?」
有輝の警告の瑞穂が弱気な声を出す。
「いや、よくここまで耐えてくれた」
「正面から戦闘機! いずれもライトニングⅡに見える」
一斉にミサイル発射。
皐月をスルーして、後方の尾翼が四色に塗り分けられた一機に迫る。
「!」
後方の尾翼が四色に塗り分けられた一機、回避に移行。その隙を逃さずさらにその後方の尾翼にNと描かれた二機がレーザー射撃。尾翼が四色に塗り分けられた一機が撃墜される。
「Nile社軍機へ、こちらは
「なんだと、一介のPMCが俺たちメガコープ軍に要求するってのか?」
「おい、スカイ・ライトニングといえば、WoS事変の時に大きな活躍をした立派なPMCだ表立って敵対するのはまずい」
「……了解した。引き返す」
不明機が引き返していく。
「あー、こちらの声が聞こえるだろうか。こちらはイーグル・ワン。君達との関係については、今は敵でも味方でもない、と言っておこうか。だが、我々と君達は見たところ共通の敵を持っている。また、貴機へ修理補給の用意もある。一度艦の上で話が出来ないだろうか?」
ライトニングⅡらしき機体から通信。
「どうする?」
「従わなければ海水浴だ。ここは従うしかないかもな。皐月、こいつらはドラゴンとは関係ないのか?」
【> Yes. Only Gougle Inc. controls the dragon.】
「ドラゴンを操るのはGougle社だけ、か。ゲートの向こう側については皐月の方が詳しいらしいな」
「じゃあ、皐月を信じて追従しよう」
「分かった。皐月よりイーグル・ワン。そちらに追従する」
こうして、皐月は新たな世界で飛び始めた。その先に何が待つのか、まだ知らないままに。