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神と婚約破棄した最強のおっさん退魔師。~村に縛り付けられて40年、突然自由に生きろと言われてもねえ~
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八月 猫
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月15日
公開日
1.9万字
連載中
西暦2000年。 日本の空から太陽が消えた。

第1話 太陽の消えた日

 西暦2000年7月。

 日本の空から太陽が消えた。


 それはまるで皆既日食のように、徐々に徐々に太陽が黒く欠けていき、それに伴って地平からは闇が空に向かって広がっていく。そして数分ののちには完全に周囲の闇と同化するかのように太陽はその姿を隠したのだった。


 突然の怪現象に空を見上げて戸惑う人たち。

 日食であればすぐに元に戻るはずだが、まるでそのような気配はない。


 太陽が失われて一時間ほどが過ぎた。

 テレビでは政府による緊急会見が開かれ、そこで総理大臣の口から全日本国民が驚愕する信じられないような事実が発表された。


「日食が起こっているのは世界中で日本だけのようです!いえ、現時点で夜の地域もあるので確定ではありませんが、近隣諸国と連絡を取ったところ、少なくともこのアジアにおいて、この摩訶不思議な日食現象が起こっているのは我が国だけということが判明しました!」


「総理!あなたはご自分が何を言っているのか理解されているのですか!」


「そんな馬鹿なことがあるはずがない!」


「それよりもいつになったらこの日食は終わるんですか!」


「気象庁は何をしてるんですか!」


「私は鳥目とりめなんですよ!!」


「あんたはビタミンAを摂れ!」


「お静かに!皆さん落ち着いてください!私も自分がとんでもないことを言っているのは理解しています。しかし、これは紛れもない事実なのです!!人口衛星から送られてきた画像でも確認しました。その画像をご覧ください」


 総理がそう言うと、背後にあった赤い緞帳がゆっくりと上がっていき、そこには大型の液晶モニターが設置されていた。


「これがその衛星画像です!」


「――なっ!?」

「――えっ!?」

「――嘘っ!?」


 モニターに映し出されたのは人工衛星から撮られたアジア全域が映った画像。

 そして本来なら日本列島があるはずの場所が――


「塗りつぶされている……のか?」


「どういうことですか総理!!我々をからかっているんですか!!」


「違います!これは加工して黒く塗りつぶしているのではありません!つまりこれは――太陽が消えたのではなく、日本全土が空からは何も見えない程の深い闇に包まれているのです!」


「どういうことですか総理!!どうして日本が黒く塗りつぶされているんですか!!」


「今説明したよね!?ちゃんと聞いてた!?」


「すいません!!モニターに集中しすぎて聞いてませんでした!!もう一回お願いします!!」


「素直に言えば良いってもんじゃないでしょう……。隣の記者さんにでも後で聞いてください。とにかく!こうなった原因は不明!今後政府は各関係各所の協力を得て、その総力を上げて原因の究明、解決を目指していきますので、それまで国民の皆様は決してパニックにならないよう節度のある行動を心掛けるようお願い申し上げます」


「これって夜勤手当対象になりますか総理!!」


「もうお前は帰れ!!帰ってビタミン摂って寝ろ!!」


 かつて日出ひいずる国とまで言われた日本は、こうしていつ明けるとも知れない夜の国となったのだった。




 日本全土が闇に包まれて一週間が過ぎた。

 一日中日光は当たらず、このままの状況が続けば農作物に多大な影響が出ることは誰もが安易に想像が出来た。


 そして近い将来必ず訪れるであろう食料不足。

 この現象がいつまで続くのかも分からない今、国民の心配の大部分はそこにあった。

 政府はそれに先んじて、諸国に対しての食料援助の要請や希望者の国外移住受け入れについての調整を始める。対策にあたるとは言ったものの、何の専門家に意見を求めても分からないという回答しか得られていなかったからだ。

 つまり長期戦、またはこのまま永遠に夜のままであるという可能性を視野に入れて動かなければならないと判断していた。 


 唯一の救いとしては、今のところずっと夜であるという以外にはっきりとした悪影響が出たという報告は上がってこない。

 まあ体調不良や、精神的に疲労しているという報告は山の様に上がってきてはいたが……。


 それでも時計を元に、人々はそれまで通りの生活を何とか送っていた。


 その時までは――






 太陽が姿を隠して14日目。

 異変は起こった。


「何だ……あれは?」


 最初にそれを目撃したのは一人の仕事帰りのサラリーマンだった。

 彼は仕事終わりに馴染みの居酒屋で一杯ひっかけ、店主に仕事の愚痴を延々と吐き出し、自分だけはすっきりとした気分で帰路についていた。


 駅から徒歩15分ほどの場所にある築30年の安アパートが彼の住処。

 出迎えてくれる家族もいないが、彼にとっては唯一心を落ち着かせることの出来る聖域だった。

 その聖域まであと少しというところで、彼は前方の街灯に照らし出されている不審な人影を発見した。


 その人影は彼に背中を大きく丸めた猫背を向けており、その姿勢のせいもあってか、その身長は小柄な小学生程に見える。


 しかしその上半身は裸で、腰の辺りに布のようなものを巻いただけのほぼ全裸姿。

 当然靴など履いておらず、彼は教科書に描かれていた原始人を思い浮かべた。


 彼は立ち止まり、一瞬今来た道を引き返そうかとも考えた。しかしこの道沿いにある部屋に帰るにはどこをどう回ったとしてもこの道を通り抜けなければならない。ならこのまま進もう。そう考えて、恐る恐る歩き出した。


 近づくにつれて人影の輪郭がはっきりとしてくる。

 やはり身長はそれほど大きくない。


 丸まった背中からは背骨と肩甲骨がはっきりと浮き出して見え、そこから伸びている四肢も骨と皮だけのようにやせ細っている。

 頭髪はそのほとんどがが抜け落ちたかのように少なく、部分的に残っている髪が無造作に垂れ下がっている。


 彼はそこまで認識して、そして同時に強く後悔した。

 なぜ自分は最初に気付いた時点で引き返さなかったのだろうか?

 酒のせいで判断が鈍っていたのかもしれない。


 しかしそんな後悔はすでに遅かった。




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