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八重山昔話「フカに助けられた男」

 むかしむかし、黒島くろしまに「モーイ」と呼ばれる男がいました。

 モーイは家を建てる木を切るために、ふね西表島いりおもてじまに向かいました。


 ところが、海に出て間もなく、急に天気が変わって大嵐おおあらしになりました。

 モーイの舟も大波にさらわれて、どんどん流されていきます。

 やがてモーイが乗る舟は、遠い見知らぬ無人島に流れつきました。


「ここは一体どこなんだろう? ああ腹が減った。何か食べ物を探そう」


 人間がいない島で、モーイはなんとか生きようと食べ物を探します。


 山には食べられる木の実がありました。

 モーイは山で動物をつかまえたり、海で貝や魚をとったりして食べました。


 そうしてしばらく暮らしたある日のこと。

 モーイが海に出て貝をとっていると、1ひきのフカが寄って来ました。

 フカは背中を見せながら、モーイのまわりを泳ぎます。


「どうした? 背中に乗れというのかい?」


 モーイは、フカが「背に乗れ」と言っているように思えてきます。

 フカはモーイがその背に乗ると、すごい速さで沖に向かって泳ぎ出しました。

 それはまるでモーイをどこかへ連れて行こうとしているようでした。

 モーイはフカに任せて海を進みます。


 やがて、フカが進む先に、島が見えてきました。

 モーイはその島の風景に、見おぼえがありました。

 よくよく見るとそれは、自分の生まれた黒島だとわかりました。


「ありがとう! お前はオレを家に帰らせてくれたんだな」


 モーイがお礼を言うと、フカは海へと帰っていきました。


 その後、モーイは家族のもとへ帰り、ふしぎなフカの話をしたそうです。

 家族はモーイの帰りを喜び、フカに助けられた話は広まり、琉球りゅうきゅうの王様にまで伝わりました。

 王様はぜひ本人から話を聞きたいと言い、お城にモーイを招いてお酒やごちそうをふるまってくれました。

 首里には、モーイが王に会っている様子を絵にしたものが残されているそうです。


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