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超能力者たち、05__四人目・襟森美咲

 割り当てられた部屋に入った俺は自分の体をベッドに放り投げた。硬いベッドだ。まずは柔らかい布団とベッドを生徒会に要求しよう。



 暇をつぶすにも、気分を転換するにも、ここには何もなかった。あるのは学校に持ってきていた教科書とノートと、既に読み潰している文庫本が一冊。標準装備なのか、風呂シャワーは無駄に広い。後で使おう。



 部屋も広い。ひとりで使うのには十分すぎる。超能力者待遇だろうか。必要であれば拡張できると部長は言っていた。そんな事ができるのか。いや、超能力者なら簡単にできるのか。



 不便はさせないとあの生徒会長は言った。だからと言って、生徒会に要求すれば何でも三十分後にお届け……とは行かないだろう。やはり一度家に帰って必要な物を取りに……。あれ、家ってどこだっけ? あれ、なんで俺は自分の家が分からないんだ? これも超能力の副作用か? 仕方がない。とりあえず着替えと、そうだな暇つぶしに文庫を三冊を生徒会に頼んでおこう。新刊一冊と絶版二冊。両方用意できるのか、あの生徒会を試してみよう。



 それにしても超能力者を一箇所にまとめて管理するなんて。超能力者を生徒会や学校側が恐れている事が筒抜けだ。超能力者側としては、ミッションを消化するのために統率が取れていたほうが良いのだろうが、わざわざ寝食を同じ建物にするだなんて。俺は共同生活が苦手なんだ。



 超能力者達は青龍が元凶だと言った。しかし俺が今考えている黒幕、元凶は生徒会と生徒会長だ。言い掛かりをつけてきたのも、温室の地下という監獄に収容されたのも生徒会長の意見が正しい事が前提。もしこの世界に超能力者がいたとしても、超能力があったとしても、それは俺とどんな関係がある。俺が超能力者である根拠はあのひみつ道具・体温計しか示していない。衣食住が自由というのは生活すべてを支配、管理されている事になる。俺は奴隷ではない。支配者の管理下に置かれて反抗しない人間がどこにいる。俺に自由を。超能力なんて、いらない。



 まだ初日。情報が多くて疲れた。休もう。明日から陰謀を暴くことにしよう。



 その夜は、浅い睡眠になった。



 理由は深夜に一回、叩き起こされたからである。




 ※ ※ ※




「深夜だぞ。これが超能力者の日常なのかよ。人道って言葉はないのか。トラブルが起きれば深夜だろうと叩き起こす。あんな独居房みたいなところで寝泊まりさせる。それと、俺の能力はゴミみたいな超能力なんだから呼ぶなよ。必要ないだろ。寝かせてくれよ」


「あら。いい部屋だと思うけど。自分の好みに、現実ならお金が掛かりすぎて実現できない素敵な内装改装し放題。可愛くするのも、アンティークに落ち着くのも。使っている家電は全部高級家電。慣れれば快適だよ」



 襟森。今夜も一緒のようだ。



「男ならともかく、改造前の初期仕様でアレは女子にキツイだろ。せめてビジネスホテルぐらいのセッティングにすべきだ」


「あら。生徒会にお願いすれば、ビジネスホテルになるよ?」


「あのな」


「しっ。ほら、始まるよ」



 愚痴も言いたくなる。しかし、止められてしまった。今は深夜二時半。やはり、こんな時間にスカートめくりは必要ない。 



「な、なんだよコレ」



 静かに、目の前の空気が揺らいでいた。次第に炎のように揺らめく黒い影が、影の生命体が目の前に現れて立ち塞がった。輪郭はぼやけていて不定形。振り返ると背後にもいる。挟まれた。



 これが今回の目標か。対象がモンスターみたいで分かりやすくなったが、このメンバーに攻撃系超能力者なんて居たのか?



「それで、どうするんだよコイツら。俺は武器を持っていないぞ」


「安心して。超能力者は各固有スキルと別に、全員が魔法銃を作れるの。消費物だから、一度使ったら消えて無くなるけど。作った後は六時間経たないと新しい銃を作れないから注意してね。ほら、手を握ってから開くの。漢字が一文字手の甲で光って、それが銃になる。その文字は超能力者によって違うんだ。何を意味するかは調査中」



〉私は〝星〟だよ。



 そういうのは早く言ってくれ。それだけで自分が超能力者だと証明できるじゃないか。



 俺はどこかで自分が超能力者ではないと思いたかった。まだ普通の人間サイドだと思いたかった。しかし、現実は酷。手を握り、開けばその手には銃がある。光った漢字は……〝玄〟? 



 この銃はあまりにも異質で異様。俺が超能力者であることを証明してしまった。それにしても、この銃って。



「おい。魔法銃って、ほぼ普通のハンドガンじゃないか。実弾みたいだぞ。こんなの、日本で撃っていいのかよ。深夜だとなおさら音が響くぞ」


「それは、ほら、吾野くんがいるから」


「ああ、なるほど」



 隠蔽の超能力者。何かと便利だな。



「うてー!」



 俺と襟森が引き金を引く。



 俺は止むなく、必死にその影目掛けて撃ちまくった。拳銃なんて握ったことも、撃ったこともなかったので不安だったが意外と何とか撃てる。魔法銃だ。色々と簡略化してバカでも撃てる仕様なのだろう。それに弾は無限。チートだな。



「くっそ、効いているのかコレ」



 影に弾は命中していた。通り抜けることもない。しかし、影はゆらゆらとその場を動かない。立ち塞がっているだけだ。



「時間稼ぎだよ。魔法が使えるようになるまでのね」


「魔法?」


「言ったでしょ、これは魔法銃。魔法が使えるの。休暇部は部長を含めて全員火の属性。何らかの炎魔法が撃てる。どう?超能力バトルっぽいでしょ」



 いや、これでは超能力バトルではなく、どちらかと言えば魔法バトルだろ。



「通常攻撃を百回撃つとゲージが溜まる。それを確認したら赤い弾が装填されるから撃つ。直撃した影は炎に包まれて炎上。消滅するわ。だから、今は牽制球のつもりで撃ちまくって」


「分かった」



 やがてゲージが溜まる。赤い弾が装填された。



 緊張。



 顔に相当する部分に撃てば良いのだろうか。そう思って銃口を向けたが逡巡、結果銃口を下げた。炎上して消滅すのなら確実に当てることが大事。敵のど真ん中目掛けて狙って撃った。目標は炎上。襟森の言う通り、燃え尽きた。



 敵はもう一体いる。やられる前にやる。それぐらいは言われなくても、聞かなくてもわかる。すぐに振り返り、通常攻撃から始めた。



 これが超能力者である事を自覚し、向き合うことになる超能力者としての一発目。俺はこの現実を受け入れる気にはなれなかったが、これが現実かよ、と諦めて受け入れるしか無かった。



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