「青龍。あのドラゴンはどういう存在なんだ?あれも超能力の一種なのか?」
学校の隣にある温室は学校の施設……と言うことになっているらしい。都合が良いことに、その地下施設が休暇部になっている。地下は広く、明るくジメジメや非清潔は見当たらない。とても現代的で綺麗だ。
幾つか部屋があって、そこを各自割り当てれているのでプライベートも確保されている。
中心に大広間がある。学生食堂に近い。お屋敷のような厳かな雰囲気はなく、多くの学生が利用していれば賑やかなのだろうと想像できる空間だった。ここには七人しかいないが。
大広間に躑躅森がメンバーを呼び集めた。議題は姿を見せた青い龍。先ほどの俺の質問に躑躅森が答えた。
「青龍はすべての超能力の根源だと言われている。人間に超能力を与えたのが青龍だと。一人目、最初の超能力者である柚子莉葉がここを去る前に言い残した。概ね間違いないと思っているよ」
違う質問をする。
「あと、なんでもいいけど、その何人目って重要なの?超能力者は超能力者じゃないのか?同じ超能力者だと思うのだが」
「いや、同じではない。超能力者と一括りにしてるのは
「うるさい!ルモイじゃないし!有留萌(ありとももえ)だし!!」
有留萌。またひとり名前を知った。うるさいやつだと、そう思った。
カテゴリー化してはいけない。区分して、決めつけては行けないってことか。それは確かに。俺も言い渡されたこの能力の事を何一つ知らない。昨日の今日だ。まだ使っていない。俺は自分が超能力者だとは思っていないが、きっとすぐに思い知ることになるのだろう。
青龍を見た。
俺はあの龍を知っている。平凡な高校生活に現れるはずがない存在を、その存在の龍を知っている。知っている? あの龍は根源である以上に、もっと違う存在理由があるのではないか。俺の能力にも意味はあるのだろうか。しかし、仮に俺の能力が「手を使わずにスカートめくり」で間違いがないとしたら、それは誰かにやって良いものだろうか。倫理以前に、それは小学生レベルのイタズラではないか。休暇部の誰かにスカートを履かせて試験するか。
「番号をつけているのは超能力が青龍から与えられた物だと仮定している事も関係している。どのような能力がいつ発現したのか把握しないといけないからね。順番は大切だ。歴史の教科書だと、年代と出来事はセットでしょ。当事者であるにも関わらず、僕らは何も分かっていない。超能力は正体不明で未知の現象。国の研究機関に送られて解剖、解析、調べられる、のは嫌でしょ。勘づいている通り、生徒会は保護もしている。生徒会長は超能力者ではないけど、超能力者の事を良く知っている。どうしてだかは、知らないけどね。だから八城君は例外を除いて数え、八番目なんだよ」
「例外?」
「ほら、生徒会にいただろう。体温計で超能力を計る能力の子が。あれは例外。超能力というより、感知能力に近いと推測している。最初はこれも超能力なんじゃないかって思ったけど、生徒会長が違うって言うんだ。だから違うんだろうね」
「それは、道具の能力ですか。彼女の能力ですか」
「さあ。それが分からないから例外にしている。あの道具、計測器がなければ彼女は一般生徒だからね。保留だ」
生徒会の女子。確かに、いきなり体温を測ってきた。そして「スカートめくりが超能力」だと言った。彼女が能力者ではないとするなら、あの測定機が特別なのかと思うのが自然。もちろん、道具を調べても良く分からなかったから保留、例外としているのだろうけど。
「分かった。ありがとう、部長」
「それはよかった」
「お話終わった?ねえ、八城くん、お弁当を取りに行こう?」
可愛い声が俺を呼ぶ。振り返る。
そこにいたのは、生徒会の数えで言うと四人目。名前は襟森美咲。俺は今のところ、部長以外では彼女としか話をしていない。俺はコミュ障だったんだな。
「弁当?みんな集まったんだ。これから青龍の話をするんじゃないのか?あれがラスボスなんだろ?」
「まあ、それは部長たちが何とかするから。ご飯食べよう」
「俺は何も知らない。情報を手にする為にも話を聞いておきたかったんだが」
「みんなはもう食べたって。ほら」
飯って。時間、早くないか? さっきミッションやったばかりだろ。まだ夕方……じゃないな。随分と経過している。そうか、だから都合が良いのか。狂いそうだ。
「じゃあ、お前から話を聞こう」
「え?青龍の事は何も知らないよ?」
「じゃあ、襟森。生徒会って何なんだ?俺たちを匿っているんだろうけど、やっぱりあれが黒幕か?」
彼女は首をぶんぶん振って否定する。
「いや、いや。それはたぶん違うよ。サポートしてくれているんだよ。良い人たちだよ。食事も生徒会が用意してくれているんだ。私達が仕事をして、その報酬に貰うの。仕事は生徒会から回ってくる。それに、私のことは美咲でいいよ」
「そうか。では、次から美咲と呼ぶ。それにしても、生徒会の都合によって都合が良いように俺達は扱われているんだな」
ここまで聞いたこと、得た情報は全て生徒会長がここまでの超能力者騒動の全容を把握している事を指し示している。生徒会長は何者なんだ。何をするつもりなんだ。早いところ家に返してくれ。
また、ここにいる超能力者たちは部長への信頼が大きい事も分かった。その部長が生徒会を信頼している。ここの部員は生徒会を味方だと、そのように決めているようだった。生徒会長。この休暇部に超能力者を纏めて隔離していると言えば聞こえは悪いが、青龍や好奇心と畏怖だけの大人達からの保護だとすれば納得できるか。生徒会長は青龍の事をどこまで知っているのだろうか。もう一度会って話をしたい。
置き配の弁当を取り、中央学食広場の椅子に座る。どうにも広くて、落ち着かない。食べながら美咲と話を続けた。
「私の能力は誰かの大切なモノや思い出の品を無くすことなんだ。簡単に言うと、未来を封印する能力。あれ、これは教えたっけ?」
「ああ、聞いた。良くはわかっていないが」
「たとえば、子供の頃からのぬいぐるみとか、片思いの人に拾ってもらった消しゴムとか、受験のお守りにするほど書き込んだノートとか。モノの存在を消し去ることで、その人の未来運命を変える。これが私の能力。運命を左右するモノが、誰にでも一つはあるんだ。本人は気が付かないけどね」
「誰かの大事なものを紛失する。悪質な能力だな。そこまでして、他人の運命を変える必要があるのか」
「スカートめくりよりマシだよ!」
彼女は、少し憤慨しながら続ける。
「なにも悪い結末ばかりだってことはないよ。良い運命にするためのミッションだもの。その人にとってはきっとそれが良い事になると私は信じている」
「そうか。美咲に与えられた生徒会からの仕事は、指定されたモノを消すことなんだな。その理由も結末も知らされずに」
「まあ、そうだね」
何かが消えて運命が変わるというのならば、今の俺としてはこの厄介な超能力が消えてなくなればいいと素直に思う。厄介なことに巻き込まれたものだ。本当に。
「超能力、か……」
彼女の能力は聞く限りきっと不幸な超能力だ。自分を幸せにできない超能力であれば、それはきっと不幸しか生まないのだろう。誰かの為になっても、自分のためになるとは限らない。超能力というぐらいだ。代償は何か払うのだろう。それが自分を犠牲にしてまで手にする価値のある超能力なのかは、本人次第だろうけど。それこそ、他人の幸不幸は誰かに決められる物ではないのと同じように。
自分の不幸。それは、誰かの蜜。不幸は蜜の味。
これは例えでは無い。世の中の仕組みのひとつに、ひとりの人間に与えられた幸福の容量は決まっている仕組みがある。幸福ゲーム。誰かを不幸にすれば、その分自分の幸福ポイントが貯まる考え。もちろん、その幸福ポイントは使わなければ意味がない。失効、無効、不足。大事にその時を待っていたらいつの間にかゼロに。幸福を使えなかったことは、不幸だ。これで誰かにポイントが貯まる。いつか報われる日が来ると信じている人は、自分の幸福ポイントの数が分かっていない。使えばいいのに。期限切れで失効し、誰かにポイントをあげる。自分から動かないと未来は掴めない。運命を変えることができない。そういう常套句に繋がるというわけだ。こんな仕組みは現実には無いけど。少女漫画読者に対してなら効きそうな空論。あってたまるかよ。幸福ゲームも超能力も。
襟森美咲の能力が未来と運命を強制的に変え、本人が望むであろう世界へと導くのだとするなら。この幸福ポイント制度が実在すると仮定すると、この超能力の結果がハッピーエンド固定のために強制的に容量が上限に達して使用したことになる。対象者の幸福ポイントが不足していても、きっと運命を変える物を消すことで偽物のポイントを補充して幸せゲージがフルに。強制執行した。物が消えることは対象者本人以外の人間が不幸になることを意味する。対象者の未来を約束されたものにするために、代わりにどこかの誰かを不幸にした。幸福ポイントを強制徴収するために。きっとそれが彼女なのだろう。超能力の代償は超能力者の不幸かもしれない。本当に超能力があるとすればだが。
誰が不幸で、誰にとっての幸福で、何が幸福と不幸を決めるのか。無論、この時の俺は知る由もない事だが、この日の深夜に己が超能力者である事を認めざるを得ない状況になることをここで述べておく。次は超能力の本領発揮。会敵だ。