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超能力者たち、03__四人目・襟森美咲

「集まったな。では、始めよう。ミッションスタートだ」



 部活のメンバー全員が一室に集められている。超能力者全員集合だ。良くわからない会議が始まったが、しかし誰も何も言わない。やるべきことは皆、既に分かっているということだろうか。では、初心者の俺に対して分かるように説明してほしい。



 会議冒頭、俺は部長に促されて転校生のような挨拶を軽くした。挨拶の内容はどうでもいいので割愛する。



 初めて全ての超能力者と顔を会わせたことになる。誰が誰だかわからない。俺以外自己紹介をしない。集まった意味は?



 躑躅森はスクリーンの前に仁王立ち。やはりこれは何かの会議なのだろうか。それとも発表会だろうか。何か企画のプレゼンだろうか。何も聞かされていない新入りには見当がつかない。ミッションと言った。何かするんだろうが、できれば新入りのために丁寧に説明してほしい。



 何も知らない俺は、知るために質問をする。



「ミッションって何ですか?」


「そう、ミッションだ。超能力者の我々にしかできないミッションだ」



 良くわからない。答えになっていない。秘密会議のように仰々しく集められたが、結果から言うと部長からは何も発表はなかった。



 超能力者面々は腕を組んだり、にやりと笑ったり、足を投げ出したり、表情が読めなかったり、笑顔の可愛い女の子だったり。漫画やアニメならば、強キャラ達を予感させる様な雰囲気だったが俺はそんな雰囲気など要らないから説明が欲しかった。ただただ振り回されているだけである。本当に、俺に何をしろというのだ。



「以上、解散。健闘を祈る」



 健闘は祈るものではなく、期待するものだ。それでは自分には関係が無いように聞こえるぞ。躑躅森。



 会議室に集められて秘密の会議が行われるはずが、俺の挨拶だけで終わってしまった。何かミッションがある事だけは分かった。超能力が関係していることは、それぐらいは予想できた。全員集めたのなら、せめて何か言えよリーダー様と思った。初心者に優しくしないとどの界隈も発展しない。話についていけない俺は置いてけぼり状態。やむを得ず襟森を捕まえて話を聞いた。他に言葉を交わしたことがいる人間がいない。それこそ、まずは自己紹介から始めなければいけなくなる。個別に全員にやるのが面倒だから集めてやるんだろ、普通。



 襟森えりもりの話によると、これから起こる不幸を止めるために未来を封印するのかミッションだという。なるほど。超能力らしいと言えばらしい。そしてそれは襟森が主軸となるのだろう。そのような能力だと言っていた気がする。



 不幸を止めるため。これは一見人助けのように聞こえるが、視点を変えればその対象者の未来をひとつ閉ざす事でもある。起こり得たはずの世界を選べなくなることを意味する。果たしてどちらが不幸なのか。俺たちが一方的に不幸な未来だと言うのは、それは正しいのだろうか。誰にとっての不幸で、誰が不幸で、それは総じて不幸だと言えるのか。俺はすぐにその様な事を思い、漠然と思い描いていた超能力者に対するヒーロー観に苦虫を噛み潰して親指で塗りつぶしたような気持ちになった。



 加えて、俺の超能力はスカートめくりである。今回の任務の役には立ちそうにない。不参加か。



 ミッションはすぐに実行に移された。準備をする時間も、考える余裕もなかった。俺は参加だった。現場経験のためだと思えと言われたが、自分の任務に活かせるかどうかも何をやるのかどうかも分かっていないミッションを現場経験とするのは無理がある。何を学び、何を糧とするのか。全部だ、みたいなパワハラ部活なのか。この休暇部は。



 部長には手ぶらで良いと言われたので、そのようにした。余計な物を持ち込んで支障をきたしてはいけないことぐらいは分かる。邪魔をしないように経験しよう。



 襟森は現場に着くと辺りの警戒を仲間に任せ、その場にある物に幾つか触れて確かめていた。未来を封印するため、思い出(記憶)の物を探しているのだろうか。



「これだ。うん、きっとだけど……たぶん、これ」


「おい、それで。そんなので大丈夫なのか。本当に、それで合っているのか」


「うん。触れば分かるから、だから間違いないと思う。でも、未来なんて私にも分からないけど」


「そうか。でも、お前は超能力者なんだろう」


「うん。もう実績が何件もある。言い逃れできない」


「そうか。じゃあ、早急に退散しよう。俺もあまり長くここに留まりたくない」



 今回のミッションの現場は女子更衣室だった。授業中のため、生徒がここに来る可能性は低いがこれは犯罪じゃないのか? 仮にも、休暇命令の期間中だ。実刑待ったなし。やはりこのミッションに俺は不要であった。なぜこんなリスクしないことをあの部長は命じたのだ。現場研修のつもりだとしても、これは何の経験にもならない。盗みを企てるつもりのない俺に下見は必要無い。



「早く出よう」


「大丈夫、まだ誰も来ないから」


「まだってことは、もうすぐ来るってことだな?」


「まあ、なんとかするから」



 俺と襟森の他に、このミッションにはもう一人メンバーがいる。入り口近くで警戒しているのは三番目の超能力者。吾野あがのが周囲を警戒している。確か彼の能力は何かを消すことだったか。隠蔽する事だったと部長は言っていたか。それなら、なんとかなりそうだ。



「……終わったか」


「うん、終わった」


「そうか。じゃあ、引き揚げよう」


「うん」


 とある女子のロッカーからとあるモノを処分する。今回の仕事はそういうことだと、襟森は言っていた。



 休暇を名目に集められた超能力者は生徒会から仕事を与えられる。目的は俺たち能力者の能力分析らしいが、どうだかな。現時点では生徒会長が一番黒幕に見える。信用できない。なぜ仕事など、与える。学校を休暇しているのに。



「吾野くんお疲れ。何もなかった?」


「……(コクリ)」



 無口な少年と外交的少女の会話はそれだけだった。



「どうだった?初仕事は」


「いや、よくわからない。俺が同席した理由も判然としない」



 リスクしかない行為だ。何か理由があるんだろうが分からない。しかし、場所を考えてほしいものだ。一発目からこんな世間から顰蹙ひんしゅくを買いそうなところ。まあ、女子のいない更衣室は男子とあまり変わらないということは分かった。配置が違うだけだ。ロッカーの数が少し多く、棚が少し少ない気がする。その程度だ。匂いは敏感ではないのでな。誤差。



 それにしても、これは躑躅森の嫌がらせなのだろうか。何か、超能力者としての意味があるのだろうか。超能力の存在を見せたかったのだとしたら、もう少し分かりやすい人を選んで欲しかった。



「あの部長さんは、今のところ何を考えているのか読めない」


「そうだよね!部長は何考えているか分からない所あるよね。――って、あっ。来たっ!」



 突然だった。更衣室を出て玄関を通り校庭の端を歩いて校門を目指していた時だった。休暇部校舎は校外、隣の敷地にある。一度外に出なければいけない。従って、俺たちは必ずそこを通らなければいけない。そこを突かれた。



 一番に気が付き、声を出したの襟森さんだった。その声を聞くまでもなく俺と吾野さんもそれを目にした。見上げる。大きな、大きな。




 〝敵〟は空からやってきた。




 襟森さんも、吾野さんも。ふたり共にその表情が険しい。



「八城くん。あれが青龍だよ。私たちの敵で、超能力の元凶。あの青い龍が、全部悪いんだ」



 襟森はそれだけ言うと「逃げるよ。急いで」と走り始めた。その素晴らしき太ももの筋肉と、締まった尻が遠くなる速度を上げながらポニーテールを乱して走った。



「何してるの!早くっ!逃げるよ」


「急げ、新入り。あれは勝てない」



 吾野も続いて走り出した。超能力者でも、正面から戦って勝てる相手ではないらしい。奇襲ならばなおさらか。俺もその姿を睨みながら、遅れて走り出す。



 やがてそれは地に四足をつけた。推定三メートル、いや四メートルか。校舎と同じぐらいの大きさだ。



 巨大な青い龍はその立派な髭をたなびかせて、こちらをじっと見ていた。青く色をなびかせる太い胴と左右へ静かに揺らす紺碧こんぺきの尾。どこまでも青く、美しく、優雅で青い。海よりも。空よりも。宝石よりも。原色でも無く、淡くも無く、青と人間が定義する前の青色。青い、龍。



 俺は逃げて走ったが、どうしても気になって一度振り返ってそれを見た。そしてその威圧感に負けて怯んでしまった。また走り出す。足を止めたら、ヤバい。それだけは分かる。



 あれが敵だと、襟森さんは言った。超能力の元凶だとも言った。元凶? 悪の根源で悪役の中心? 超能力の根源ではなく、元凶。



 青龍。



 その龍を目にした時、俺はようやく自分が違う世界に置かれているのだと認識した。おそらく普通の人間にはあの青い龍は見えないのだろう。ついこの間まで、お前は超能力者だと言われるまで俺はこの平地で龍を見たことはなかった。アニメ・マンガでなら腐る程見ているが、拡張現実ではない現実で見たことはなかった。だから、俺はもう、人間ではないのかもしれないと思った。



 青龍あれは確かに俺たちを見ていた。お前たちが相手だぞ、と見下ろしていた。俺の背筋を震わせたのは、逃げられないことが超能力者としての俺が理解したということなのだろう。



 そして、なんとなくだが、はっきりとは見ていないのだが、その青龍の頭上に誰かいたような気がした。龍の角に撫でるように手を置いて、頭の上に立つ女の子。そう、それはなんとなく女の子のように思えた。まさかあんなところに人が、とは思ったが今は逃げることで精一杯だった。




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