「やあ、君が新入りくんだね。はじめまして。私はここを
そこまで言うと、躑躅森戀攣鑾は手を伸ばした。
「ようこそ。休暇部へ」
躑躅森。偽名か。偽物だと分かりやすい名前だ。
この時代では性別、思想の自由から発展して姓名の自由が保証されている。男と名乗っても、女となっても、体や心が相違していても問題はない。夫婦別姓も問題はない。だから、偽名を使うのも問題ない。むしろ、本当の名前『真名』は言わない人が多い。それが保証されている時代だ。自分で偽名を作って名乗ることができる。一応、プライバシー保護のためを目的に作られた法律。もちろん親から名前を授かる基本は変わらない。家庭の事情によってはその限りではないが。
俺はそんなことを思い、彼の……男か女かは分からないがその手を握る。握手。
「部長さんですか。ここは部活なんですか?」
「細かいことは気にするな、少年。部活であっても部活ではなくても、ここは部活ということになっている。ちなみに私は見ての通り女だ。よろしくな」
女だった。背の高い人で、とても凛々しくカッコいい人だとは思った。確かに、よく見れば女性のような顔立ちで美しさも可愛さもあることに気がつく。俺は人を見る目が常に不足していると実感し、ため息を心のなかで吐いた。この人は、この部長さんは見た目だけなら頼りにできそうだ。そう思った。
「
本当はよろしくなんてせずに、すぐにでもこの場を立ち去りたかった。家に帰りたい。……あれ? 俺の家ってどこだっけ。
※ ※ ※
部長の説明によると、俺は八人目の超能力者らしい。部長は一人目の超能力者の発見から数えて二人目。超能力と言っても、俺のように各々どれもぱっとしないモノばかりだとか。どうだか。俺よりはマシだろうと思いたいが。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
「ふーん、なるほどね。そうね、流石にスカートめくりはちょっと酷いね。どう使うんだろ」
まず紹介されたのは、四人目の超能力者と部長が呼ぶ女だった。同じぐらいの年齢か。
彼女は
この部活にはメンバーが七人いるという。一人目の超能力者は訳あってここには居ないらしい。つまり、現時点で確認されている超能力者は八人。外泊が許されるのなら、俺も寮で共同生活みたいなことはしたくない。まだ知らない人間と寝食を共にするのは警戒する。気が張って疲れる。人付き合いは終わりがあるから付き合えるのだ。いつまでも付き合わされるのは、よほどの信頼と親密がない限り簡単には出来ない。その様に俺は思っている。
「まあ、超能力なんて個性みたいなものだから」
「そうか。それは難儀で、厄介な個性だな」
本当、厄介なことだ。あなたは超能力者だから隔離しますと生徒会に゙言われて従わされる個性がこの世の中に存在するとは。生徒会が政府の組織や公安警察みたいな組織なら黙って従うしか無いだろうが、しかし所詮生徒会。何の権利があるというのだ。そしてなぜ、俺はこれに従っているのだろうか。
こうして同じ超能力者を自称する人間に゙会ったわけだが、会ったからこそ、俺はますます信じられなくなった。聞くに、全員同じこの学校の生徒じゃないか。そんなわけあるか。人口何十億もいるのに、そんな都合のいいことあるかよ。
「厄介、ね」
彼女は呟く。どうやら俺が「厄介」と言った事に対して疑問を持ったようだ。いや、同意したのか。
「私の能力は思い出を消す能力。つまり、思い出の物を消す事ができるの。簡単に言うと、未来を封印する能力だよ」
これもなかなか厄介でね、と彼女は言ってはにかんだ。
彼女は明るくて、ニコニコ笑っていて、人当たりの良さに不自然さを感じられない。素直で優しく人が良いのだろう。いや、諦めて受け入れているのか。
思い出、記憶の物を消して未来を封印する。過去ではなく未来を。
彼女は四人目の超能力者。名前は襟森美咲(えりもりみさき)。俺が黙視した一人目の超能力者。