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第23話 エピローグ




深淵の国での、魔神との戦いから1週間後。


俺たちは、エルドの街に凱旋した。

街の人たちからは、お祭り騒ぎで出迎えられ、エルドランド国王からは勲章を貰った。

俺たちは、エルドランド王国の英雄になった。


でも、ケンタがいない喪失感は消えない。

今でも、俺の隣にケンタがいるような気がすることがある。





その後の俺たちは、と言うと。


キャスは、アンヌ王女直属の護衛になった。お転婆なアンヌ王女の相手に苦労しているみたいだ。それでも、最近はアンヌも王女としての自覚を持ち始めたらしい。


ミカは、魔王の城に戻った。でも、今でもエルドランド城に入り浸っているらしい。アンヌ王女の教育係もしていると聞いた。魔王が教育係ってのもどうかと思うが、適任だとも思う。


ハックは、自分の家に帰って、隠居生活を楽しんでいる。悠々自適の生活だ。なんだか羨ましくもある。


リリアは、故郷の集落に戻って、ミルド村や他の村との交易の窓口をしている。ケンタがいなくなって、一番寂しい思いをしているのはリリアだろう。


俺(ゴラム)は、ガルム師匠のもとで修行のやり直しをしている。もう一度、戦士として鍛え直してもらうつもりだ。


今でも、ガルムヘルムのドラゴンの牙に仲間が集まることがあるけど、その場にケンタがいないのは、正直言って寂しい。


ケンタは、元の世界でどんな暮らしをしているんだろう?

俺たちのことなんか忘れて、楽しくやってるんだろうか?


ケンタと旅をしたあの日々が懐かしい。









日本、現代。


「閉館します。起きてください。」


肩を叩かれて、ハッとして体を起こした。

「すみません!」

僕は、慌てて身支度して図書館を出た。

それにしても、妙にリアルな夢だったな。

リアル過ぎて現実だったみたいだ。


それから、大学の授業中も、友達と遊んでいても、家にいる時も、頭の片隅には、いつも異世界での冒険のことがあった。





ふと思い立って、日記代わりに、頭の中にある異世界での冒険のことをノートに書いてみたら、手が止まらなくなった。

まるで溢れるように言葉が紡ぎ出されていく。もはや、日記というより、長編のファンタジー小説のようになっていた。


自分で書いた文章を読み返してみると、まるで実体験のように記憶が甦ってくる。

夢と現実の区別がつかなくなってるのか?少し心配になってきた。


僕は、異世界の夢を封印して、現実の世界を生きる決意をした。

数冊の日記を記したノートは本棚の奥にしまった。





それから数か月。


大学3年になり、就職活動がはじまって、慌ただしい日々が続く。

異世界の冒険や日記のことなど、すっかり忘れていた。


「また、お祈りメールか。」

スマホの通知は、不採用通知の山だ。

いい加減、嫌になってくる。

「異世界でも、どこでも良いから、人生やり直したいよ。」

一人で愚痴を言っていたら、あの日記のことを思い出した。


確か、本棚の中にしまったはずだ。

あった。

ノート5冊の長編。

「ダメ元で、何かの小説のコンテストにでも、出してみようかな?」

気分転換に一度読んでみるか。

僕は日記を読み出した。



突然の異世界転生、

仲間との出会い、

数々の冒険、

魔王との交渉、

魔神教との戦い、

魔神との決戦・・・


「リリア、、、」

気がつくと、僕の瞳から涙が溢れ出していた。

リリアにもう一度会いたい。

僕の居場所は、日本じゃない、エルドランドが僕の居るべき場所だ。


涙が手に落ちた。


すると、僕の両手が光り出した。その光は、次第に全身に広がっていく。

目の前が真っ白になった。

眩しくて、僕は目を閉じた。








ゆっくりと目を開けると、

そこは、空気の澄んだ森の中。

異世界での冒険の数々が、映画のフラッシュバックのように浮かんでは消えていく。


目の前に見覚えのある赤いロングヘアーの女性がいる。


僕は、溢れる涙を止められなかったけど、精いっぱいの笑顔で彼女に向かって言った。


「ただいま。」


彼女は瞳を潤ませながら、微笑んで言った。


「おかえり。」








<おわり>






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