深淵の国での、魔神との戦いから1週間後。
俺たちは、エルドの街に凱旋した。
街の人たちからは、お祭り騒ぎで出迎えられ、エルドランド国王からは勲章を貰った。
俺たちは、エルドランド王国の英雄になった。
でも、ケンタがいない喪失感は消えない。
今でも、俺の隣にケンタがいるような気がすることがある。
その後の俺たちは、と言うと。
キャスは、アンヌ王女直属の護衛になった。お転婆なアンヌ王女の相手に苦労しているみたいだ。それでも、最近はアンヌも王女としての自覚を持ち始めたらしい。
ミカは、魔王の城に戻った。でも、今でもエルドランド城に入り浸っているらしい。アンヌ王女の教育係もしていると聞いた。魔王が教育係ってのもどうかと思うが、適任だとも思う。
ハックは、自分の家に帰って、隠居生活を楽しんでいる。悠々自適の生活だ。なんだか羨ましくもある。
リリアは、故郷の集落に戻って、ミルド村や他の村との交易の窓口をしている。ケンタがいなくなって、一番寂しい思いをしているのはリリアだろう。
俺(ゴラム)は、ガルム師匠のもとで修行のやり直しをしている。もう一度、戦士として鍛え直してもらうつもりだ。
今でも、ガルムヘルムのドラゴンの牙に仲間が集まることがあるけど、その場にケンタがいないのは、正直言って寂しい。
ケンタは、元の世界でどんな暮らしをしているんだろう?
俺たちのことなんか忘れて、楽しくやってるんだろうか?
ケンタと旅をしたあの日々が懐かしい。
日本、現代。
「閉館します。起きてください。」
肩を叩かれて、ハッとして体を起こした。
「すみません!」
僕は、慌てて身支度して図書館を出た。
それにしても、妙にリアルな夢だったな。
リアル過ぎて現実だったみたいだ。
それから、大学の授業中も、友達と遊んでいても、家にいる時も、頭の片隅には、いつも異世界での冒険のことがあった。
ふと思い立って、日記代わりに、頭の中にある異世界での冒険のことをノートに書いてみたら、手が止まらなくなった。
まるで溢れるように言葉が紡ぎ出されていく。もはや、日記というより、長編のファンタジー小説のようになっていた。
自分で書いた文章を読み返してみると、まるで実体験のように記憶が甦ってくる。
夢と現実の区別がつかなくなってるのか?少し心配になってきた。
僕は、異世界の夢を封印して、現実の世界を生きる決意をした。
数冊の日記を記したノートは本棚の奥にしまった。
それから数か月。
大学3年になり、就職活動がはじまって、慌ただしい日々が続く。
異世界の冒険や日記のことなど、すっかり忘れていた。
「また、お祈りメールか。」
スマホの通知は、不採用通知の山だ。
いい加減、嫌になってくる。
「異世界でも、どこでも良いから、人生やり直したいよ。」
一人で愚痴を言っていたら、あの日記のことを思い出した。
確か、本棚の中にしまったはずだ。
あった。
ノート5冊の長編。
「ダメ元で、何かの小説のコンテストにでも、出してみようかな?」
気分転換に一度読んでみるか。
僕は日記を読み出した。
突然の異世界転生、
仲間との出会い、
数々の冒険、
魔王との交渉、
魔神教との戦い、
魔神との決戦・・・
「リリア、、、」
気がつくと、僕の瞳から涙が溢れ出していた。
リリアにもう一度会いたい。
僕の居場所は、日本じゃない、エルドランドが僕の居るべき場所だ。
涙が手に落ちた。
すると、僕の両手が光り出した。その光は、次第に全身に広がっていく。
目の前が真っ白になった。
眩しくて、僕は目を閉じた。
ゆっくりと目を開けると、
そこは、空気の澄んだ森の中。
異世界での冒険の数々が、映画のフラッシュバックのように浮かんでは消えていく。
目の前に見覚えのある赤いロングヘアーの女性がいる。
僕は、溢れる涙を止められなかったけど、精いっぱいの笑顔で彼女に向かって言った。
「ただいま。」
彼女は瞳を潤ませながら、微笑んで言った。
「おかえり。」
<おわり>