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第28話 宇宙軍士官はストーキングされる


 ――瀬田谷ダンジョン五階層


 現在、瀬田谷ダンジョンは十階層まで開放されている。


 未討伐ながら十階層にもダンジョンボスが確認されているので、ダンジョンはまだ下に続いているのだろう。だが、現時点における確認できる最下層は十階層だ。


 ゆえに指標として四階から六階層を活動拠点としている冒険者パーティーを中堅と呼んでいる。おおよそこの階層辺りから難易度もぐっと上がるので注意が必要である。


 なんせ一階層下るごとに魔粒子マノンの大気中濃度が高くなり、それと共にモンスターやトラップが凶悪なものになっていくのだから。


 同時に現れるモンスターの数も増え、特殊な能力や武器を所持していたりやスキル、魔法を使用してくる。


 トラップもより巧妙になっていく。中には致死性のものやモンスターと連動コンボするような嫌らしいものまで出現する。


 それらに対抗するには、同時に多数のモンスターと戦闘できる戦闘力、罠を看破したり索敵の為のスキル、長期戦闘に必須の回復スキルがなければならない。


 それらの能力を一人で賄うのは不可能。だから、四階層より下へは最低でも前衛職二人、後衛職二人の計四人以上のパーティーで挑むのが常識である。


 間違ってもたった二人で挑むような場所ではない。そんな愚か者はすぐ死の洗礼を受けダンジョンに飲み込まれて……


ゴブリン闘士グラちゃん頂き!」

「あっ、ユイずるいぞ!」

「へっへーん、早い者勝ちだよーだ」

「そっちがその気なら……ハイオーク二体撃破!」


 ……飲み込まれてしまうはずなのだが、モンスターの大群が数秒ごとに削られていく。強力なモンスターがまるで有象無象の雑兵扱い。三十体以上いたはずが気が付けば十体ほどになっていた。


「これでスコア勝負は俺の勝ち確だな」

「ズッコーイ、今の光子拳銃フォトンブラスター使ったでしょ」

「悔しかったらユイも使えば良いだろ」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

「おい、それ光子短機関銃フォトンS . M . Gじゃないか!!」


 ――ドガガガガガガガガガガッ!!!


 それも茶髪ショートの美少女が持つサブマシンガンから連射された孔子弾丸フォトンバレットに薙ぎ倒されていく。


「ボクの勝ちぃ♪」


 明るく活発そうな美少女が無邪気に飛び跳ねて喜ぶ。周囲はは穴だらけの死体が山と積み重ねられ、凄惨な光景であったが。


「約束通り何でも一つお願いを聞いてもらうからね」

「ダメダメ、S . M . Gサブマシンガンは反則だって」

「えーっ、使って良いって言ったじゃん」

「俺が許可したのは拳銃ハンドガンだ」

「同時に剣と銃を使うの難しいくてボクには無理だよ」

「だいたいS . M . Gはエネルギー消費量が大きすぎなんだから使用禁止」

光子手榴弾フォトングレネードを使わなかっただけ感謝してよ」

「それこそダメに決まってるだろ」


 凶悪なモンスターが蔓延はびこるダンジョンは一瞬の油断で命を落とす。そんな場所で二人の男女がぎゃいぎゃい言い争っている。とてもモンスターの大群を一蹴したばかりには見えない。まるで緊張感のないこの二人はもちろんアルトとユイだ。


「それじゃ次で決めようぜ」

「オッケー、オッケー」


 アルトとユイは憐れな獲物を探すべくナノモニターにマップを出した。これはモンスターや冒険者の位置も色違いの光点で表してくれるレーダーの役割も果たしてくれる。


「おおー、まだまだうじゃうじゃいるねぇ」

「七階層レベルのモンスターも数体いるな」

「それじゃあ次は……あっ!?」


 どの集団に仕掛けようか物色していたが、突然ユイが声を上げた。


「アルト、冒険者のパーティーがこっちに向かってきてる……あと二、三分ほどで鉢合わせエンカウントするよ」

「こいつらは……」


 アルトは接近してきている冒険者を示す青い光点をタップする。すると、サッと光点の情報が展開された。


「ジョリーロジャーズ所属の『クロスボーン』か」

「美羽の資料によると、ボク達を狙ってる連中の一つだね」


 どうやら例の逆恨みしている中堅パーティーらしい。


「こいつらを避けるとなるとモンスターの群れの方へ突っ込まないといけないのか」


 クロスボーンとは逆側のモンスターを示す赤い光点をタップすると、名前と暫定ステータスが表示される。


「しかも、まだボクらが戦った事のない相手だね」

「七階層のミノタウロスか」


 ステータスだけを見れば問題とならない戦闘力である。恐らく瞬殺は可能だろう。


「どうする? ミノタウロスを手早く片付けて距離を取る?」

「いや、手こずってクロスボーンの奴らに後背を取られる可能性がある」


 だが、ミノタウロスがどんな能力を持っているか分からない。もし時間をかけてしまえば最悪の場合、挟み撃ちされる可能性がある。両方を相手取っても勝てるとは思うが、アルトとしてはできうる限りリスクは避けたい。


「じゃあ、不可視invisibleモードを使ってやり過ごす?」


 不可視モードとは現在アルトとユイが着用している戦闘用宇宙服space combat suitの機能の一つである。外部からほぼ見えなくなるステルス機能の事だ。


 この戦闘用宇宙服は宇宙服ではあるが、高い防弾・防刃性能に加え耐衝撃性や耐熱性があり、戦闘服としても優秀だ。しかも、ヘルメットも被れば水中戦や毒ガスなどにも対応できるので、環境変化やトラップにも有用だと判断してダンジョンに潜る際は着用している。


「それも考えたんだが……」

「何か問題があるの?」

「クロスボーンの軌跡を見てみろよ」


 ユイはクロスボーンをタップして過去の移動ログを確認した。


「分かれ道でも迷いもせず俺達のいる方へ最短で向かってるだろ?」

「もしかしてコイツらボクらの位置を把握してるの?」

「その可能性は高いな」


 記録を見れば何度も分岐点があるのに、クロスボーンはまったく逡巡を見せずに真っ直ぐアルト達に近づいていた。


「手段は分からないが、何らかの方法で俺達のいる場所を索敵できると思った方がいい」

「こいつらもボク達みたいに偵察用ドローンを持ってるのかな?」

「いや、俺達のようなステルス機能はこの時代の科学技術では再現できないだろう」

「じゃあ、やっぱりスキルか魔法かな?」

「恐らくな」


 現段階ではスキルや魔法はまだ情報収集中の未知の力。アルト達の科学技術がどこまで通用するのかが不明である。


「今はまだあまり手の内は晒したくない。奴らがどこまで俺達の状況を把握しているか分からないが、こっちから逆に向かっていけば意表をつけるかもしれない」

「少なくともミノタウロスミノちゃんと挟み撃ちにされるのは避けられるね」


 アルト達の方から近づけば、相手も警戒して手を出しづらいはずだ。


「だけど、美羽の話だとコイツらっておバカさんみたいなんだよねぇ」

「切羽詰まってるくせに、俺達に復讐を考えるような奴らだからな」


 足下に火がついていながら、消火よりも放火してまわるのを優先しているようなものだ。まともな神経の持ち主とは思えない。


「コイツら何も考えずに襲ってくるかもよ?」


 ユイの懸念に対し、アルトはニヤリと笑いを返した。


「まあ、その時はクロスボーンの奴らに高い授業料を払わせてやるさ」


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