十数年ぶりに地元に帰った来た僕は、愛車の軽でのんびりと街中を走っていた。
もっとも、実際に住んでいるのはちょっと離れた海岸線の町で、今走っているのはその隣の市内。
近所にはコンビニくらいしかないため、昔からどうしても隣の市へ買い物に行くのが当たり前となっていた。
昔なら電車かバスといったところだろうが、今はもう二十歳を過ぎて免許持ちであるから車で来るのが手っ取り早い。
そういうわけで、ぶらりと車で街中をうろうろしているわけだ。
車も少なく、少しぐらいゆっくりしたスピードでも問題ないしね。
ともかく、そんな感じで街の中を走っているのだが、久方ぶりの街中は以前に比べるとかなり寂れている感じだ。
まぁ、郊外に大型店舗が立ち並び、街中の商店は潰れてしまうという問題はここでもはっきりと出ていた。
「寂しいなぁ……。ああ、あの店も潰れてる……」
なんとなく口からそんな言葉が漏れる。
そんな中、十字路を右に曲がった時だった。
普段ならそのまま直進だが、懐かしさについつい曲がってしまっていた。
そして目の前に飛び込んできたのは年季の入った小さな看板。
二階建ての建物の二階の壁に取り付けられていた本当に小さな看板。
それには『星野模型店 すぐそこ左』と書かれていた。
あれ?こんなところに模型店なんかあったかな。
思わずそんなことを考え、少しスピードを落として周りをきょろきょろと見渡す。
まぁ、対向車も、後ろから来ている車もないから大丈夫だろう。
そんなことを思いつつ、確認していく。
すると住宅が立ち並ぶ中、三台程度の駐車スペースがある2階建ての建物があった。
大きさはそれほど大きくなく、造りは周りの建物とよく似ており、もしかしたら住宅を改築したのかもしれない。
ともかく気になった僕は、ゆっくりと駐車スペースに車を止める。
車を出ると鍵をかけて建物を見上げる。
一階が店舗になっており、一部の壁がガラスになっている。
そこには昔の模型店では当たり前だったが、ガラスの棚が並んできちんと作られた模型がいくつか並んでいる。
船もあれば、飛行機もある。戦車もあれば車もある。よく見たらキャラクターものやアニメのロボットものある。
どうやらいろいろな種類の模型を扱っているようだ。
そして、壁にはプラモデルメーカーの名前といっしょに正規取扱店の印らしい認定書みたいなものが貼り付けてあった。
まさに、昔懐かしい模型店と言う感じだ。
「ああ、懐かしいなぁ……」
思わず言葉が漏れる。
もっとも知っている店だったわけではない。
ただ、昔行っていた近所の模型店はこんな感じだったなぁと思ってしまっただけだ。
昔、近所に模型店があったころ、そう中学生時代までは模型製作が趣味だった。
当時は、趣味には何と言われ、何のためらいもなく読書と模型製作と言い切れていた。
しかし、高校になり、周りにそういう友達がいなくなると模型製作と言いづらくなった。
当時の高校の同級生にとって模型製作はとてもお子様の遊びという感覚だったのだろう。
さらに、周りの「おもちゃばかり作ってないで勉強しなさい」とか「いつまでおもちゃ作ってるのよ。いい加減大人になりなさい」といった言葉が拍車をかけた。
その結果、僕は模型製作と言う趣味を止めてしまった。
そしてそのまま月日は流れ、大学に進み、今やれっきとした社会人となっていた。
だから本当なら通り過ぎるべきだろう。
一度は捨てたものだ。
しかし、自分の中で当時の悔しさが鎌首を持ち上げてくる。
それと同時に「別にいいじゃないか」とか「もう社会人なんだしさ」そんな声が聞こえてくる。
つまり、今の自分と昔の自分が鬩ぎあっている感じといったらいいのだろうか。
ともかく、店の前で出来上がっている模型を見ながらどうしようか迷っていると、中にいる人と目が合った。
清潔な感じてショートに切りそろえた黒髪、大きめの目に黒縁の眼鏡が特徴的で、美人ではないがどちらかというと顔が整っていると言う印象だ。
もっとも、アンバランスな大きな黒縁眼鏡でせっかく整っていると言う感じも吹き飛んでしまっているが…。
ぺこりと彼女は頭を下げて微笑む。
思わず僕も釣られて頭を下げた。
こうなった以上、もう店に入らず帰るという選択肢はない。
仕方ないな。
そう思いつつ、少しわくわくしているように感じたのは気のせいでないだろう。
多分、こういうきっかけを僕は待っていたに違いない。
そう思うことにすると、僕は店のガラス戸に手をかけた。
すーっと息を吐き、僕はゆっくりとガラス戸を開けて、店の中に一歩を踏み出したのだった。