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第59話 H社 たまご飛行機シリーズ ゼロファイター 零戦 その1

「あれ?電話がかかってきてた」

仕事が終わり、ユニフォームから私服に着替えながらスマホをチェックしていた僕は、着信ありの表示に誰からの電話かを確認する。

電話番号は、星野模型店だ。

つぐみさんのスマホでも、美紀ちゃんのスマホでもない。

店の固定電話からだ。

確か、以前商品の取り寄せで登録して以来の電話だったので少し驚いた。

何の用事だったんだろう。

取り寄せも予約もしてなかったし。

それに個人的に連絡取りたいんなら自分のスマホでかけるだろうし…。

しばしの間考えるも何も思いつかない。

まぁ、こういう場合は行ってみるに限る。

どうせ、今日はお店には行くつもりだったしな。

そんな事を思いつつ私服に着替えてしまうと、車に乗って模型店に向ったのだった。


「えっ、僕に作り方を習いたいだって?」

お店について話を聞いた僕が発した言葉がこれだった。

なんでも、今日の夕方、真島徹くんがお店に来たらしい。

かなり悩んでいるような感じだったので、心配してつぐみさんが声をかけた。

最初こそ言いにくそうだったが、最終的には相談と言う形で聞き出すことに成功した。

実はこの前の日曜日に試合があって、駄目元で応援に来て欲しいといったら本当に来てくれたうえに、さらに手料理食べたいといっていたらお弁当まで作ってくれたらしい。

すごくうれしくて、うれしくてたまらなかったらしい。

だから、美紀さんに何かお返しをしたいんだけど、学生、それも受験生でバイトも出来ないしも使えるお金なんて微々たるものだ。

だからなにかいいものがないか悩んでおり、お姉さんなら美紀さんの好みもわかると思うのでお願いしますと言われたそうだ。

まぁ、その気持ちはすごくわかるぞ。

僕だってつぐみさんの手料理初めて食べたときは、猛烈に感動したからな。

ただ、僕のために料理を作ってくれる。

それがあんなに感動するものだとは思わなかった。

ましてや、仮採用とかいろいろ言われて、もしかしたらろくに相手にされていないのかもと不安に思っていたりする相手が、文句を言いつつも言ってたとおりに応援に来てくれて、その上手作り弁当ときたら、もうね、たまらないと思うのよ。

おっと、脱線してしまった。

ともかくもそういうことらしい。

そして、つぐみさんも迷ってどうしょうかと思っていたら、頭に浮かんだのが僕が作ったデフォルメたまご飛行機だった。

あれなら、お金もそんなにかからないから学生でも手が出るし、以前僕が作ったものを美紀ちゃん物欲しそうに見ていたしということでいいんじゃないかなとつぐみさんが徹くんに言うと、徹くんもかなり乗り気だった。

しかし……。

問題が一つあった

実は徹くんプラモデル作ったことがないらしい。

うわー、いるんだね、そういう子が…。

僕らの世代なら、普通にほとんどの男の子が一度は模型とか作ったことあるんだけどな。

僕なんかはそう思ってしまうが、徹くんの話だと模型作ったことがないのが普通といわれてしまった。

もちろん、その言葉に、つぐみさんはすごくショックを受けたのだが、何とか必死に耐えたそうだ。

あはははは。

その場面が目に浮かぶようだ。

そして、最初は徹くんは僕に作って欲しいと思っていたらしいが、それを即効でつぐみさんが却下する。

さっき言われた事を根に持ってというわけではないが、つぐみさんは「自分の手作りを渡すからうれしいし、思いも伝わる」と言い聞かせて徹くんに自分の手で作ったものをプレゼントする事を承諾させたらしい。

そして、僕に作り方を教えるようにお願いしてみるからと言ってしまったそうだ。

話し終わって、大きな黒縁眼鏡の向こう側の少し大きめの目で上目遣いで僕を見るつぐみさんは本当に小動物のようでかわいい。

えーいっ。かわいい彼女のためだ。

一肌脱ぎましょうか。

そう決めた僕は、徹くんに教える事を承諾したのだった。


さて、製作することは決まったが、どのたまご飛行機を使うか。

キットを選択しなければならない。

今、つぐみさんと僕はたまご飛行機が並んでいる棚の前にいる。

ずらりと並ぶたまご飛行機。

実にいろんなものが出ていた。

さて、どうすればいいだろうか。

そう思っていたが、よく考えてみれば、目の前にたまご飛行機シリーズに詳しい人が要るではないか。

わからない事は、詳しい人に聞けばいい。

そういうわけで、僕はつぐみさんに聞くことにした。

「つぐみさん的には、どれがいいと思う?」

僕の問いに、「全部かわいいので、選べません」と即答するつぐみさん。

おいっ。

それでは答えになってないぞ。

思わず心の中で突っ込んでしまう。

しかし、それで済ますわけにはいかないのが辛いところだ。

なら、言い方を変えよう。

「ならさ、今まで作ってきて、どのキットが一番丸っぽかった?」

そう、徹くんはプラモ作りの素人だ。

だから、なるべく手をかけないでデフォルメできるキットが望ましい。

そう聞くと考え込むつぐみさん。

「そうですねぇ……。ジェット機だと翼端や垂直尾翼が尖ってたり平らだから、丸っぽさを求めるならプロペラ機の方がいいかもしれませんね」

そう言ってプロペラ機をチェックしだす。

きちんと一度スイッチが入ってしまえば、彼女の店長モードの選択はかなりいい。

そして、「あ、それがいいか」と言って小さな箱を一つ取り出した。

その白地の箱には、かわいいたまご飛行機と飛行服を来た女の子のイラストが描いてある。


『H社 たまご飛行機シリーズ ゼロファイター 零戦』


その箱にはそう印刷されてあった。

「これなら、翼端も垂直尾翼の先なんかも丸っこいし、何よりパイロットも付いてないから、よりかわいく出来そう」

そう言いつつ、僕に箱を手渡す。

中身を確信すると、確かにこれなら少し削るだけでもかなり印象は違ってきそうだ。

でも問題がある。

「これ、キャノピーの枠を塗るの大変じゃない?」

「ほら、今なら塗料のペンタイプとかもあるから、それだといけそうじゃない?だってリアルに仕上げる必要性ないもの」

そう言われて納得する。

確かにリアルにする必要性はまったくない。

ましてや、SDのたまご飛行機をよりデフォルメするのだ。

以前作ったときのように軽い感じの色合いの方が良さそうだ。

「確かにそれだとかなり負担は軽減するけど、それでも塗るのは大変じゃない?」

その僕の言葉に、つぐみさんはにこりと笑いながら言う。

「でも、少しくらいはがんばっても罰は当たらないと思いますけど……」

確かに。

簡単なものに愛がこもっていないというわけではないし、既製品には愛がこもっていないというわけではない。

ただ、がんばらないと伝わらないものもあるし、伝わるものもより大きくなっていくのは間違いないと思う。

だから、徹くんには少しはがんばってもらう事にする。

そう決めた僕は、つぐみさんにたまご飛行機の零戦を二つキープをお願いする。

もちろん一つは僕が見本用に作り、もう一つは徹くん用だ。

多分、真似て自分も作ろうと思ったのだろう。

二つとは別につぐみさんがもう一つキープしているのを見逃さなかった。

さすがたまご飛行機ラブなつぐみさんである。

そして、次に美紀ちゃんの日程を確認する。

実際に教えるとなると、場所はここの工作室(作業室)でとなるだろう。

しかし、その時、美紀ちゃんがいたのでは、ばれてしまってサプライズ・プレゼントとしての意味はなくなる。

だからなるべく鉢合わせないようにチェックする。

それに、僕の予定と聞いていた徹くんの予定をすり合わせていく。

その結果、運がいい事に、今週なら三日程度スリあわせがうまくいく日があるようだった。

よしそれならその三日間で一気に仕上げて完成させてしまいますか。

そう決めて、つぐみさんに徹くんと連絡を取るようにお願いしたのだった。

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