その日のうちに早速自分の分を購入し、家で組み立ててみる。
もちろん、接着はしなくてマスキングテープを使った仮組みだ。
作るだけなら三十分もかからない。
じっくりと模型を観察する。
思ったよりも主翼が長いな。
尾翼も結構長いし。
その反面、垂直尾翼はこのままの高さで問題ないな。
胴体はほとんど手を入れないでもよさそうだ。
このままでも十分丸いし、加工しょうとしたら手間がかかるのがすぐにわかる。
ならば、やはり主翼と尾翼を削りこみ、丸い感じをより強くするといいと判断する。
まずは主翼と尾翼のパーツのスジ彫りを薄め液で薄めたパテで埋めてしまう。
そして、ドライヤーでさっと乾かすと、800番の耐水ペーパーで一気に削ってスジ彫りを消した。
そしてまた本体に付けてみてどれくらいで切断するか決める。
垂直尾翼との大きさの兼ね合いもあるから尾翼は三分の一程度削れば十分だと思う。
ただ、ちょきんと直線に切断すればいいのではないので、油性ペンで切るラインを描いてみる。
ゆっくりとした曲線を描きながらも違和感がないようにしなければならない。
ふむ。尾翼はこんな感じていいか。
いろんな角度で見てみて、違和感がない事を確認する。
よし。次は主翼だ。
こっちが問題で、短すぎるとずんぐりむっくりになってバランスがおかしくなる恐れがある。
しかし、ここはあえて短めにして丸っぽさを追求してみたらと考え、油性ペンで半分ほどで切断した場合の翼の形を書き込む。
ふむふむ。なかなかいい感じだ。
しかし、これだと主脚が翼より長くなるな。
リアルならありえないことだが、別にリアルに作るつもりはない。
マスコットとか、かわいさを追求するならこれはこれでありか。
うーむ……。
少し悩んだが、踏ん切りをつけることにした。
プラモデル用のノコで印を大雑把につけたところから切断する。
そして、左右の翼の長さを同じにして先を丸くなるように少しずつ切り落としていく。
その後は、切り口をヤスリがけして曲線をきれいにしていく。
そして仮組み。
実にいい感じだ。
翼が短くなった分、胴体の丸っぽさが際立っている。
もちろん、かわいさもよくなっていると思う。
よし。これでいこう。
まずは写真を撮る。
そして翼の形の型を取っておく。
紙に翼を載せてざっとだが模りを残す。
こういうのがあったほうが、削る時はここまで削ればいいという目安になるしな。
しかし、ここで問題が発生する。
切り落とした翼の先の部分が、厚いという事だ。
プラモのままだと、少しずつ細くなっていたのだが、半分程度で切り落とした為、先端が厚くなってしまっている。
ヤスリで削って少しずつ細くする事はできるが、プラモ初心者がやるのは結構難しいかもしれない。
それに時間がかかる。
なら、先端の部分付近のみを削って少し薄く丸くしてみたらどうだろうか。
少しやってみる。
おっ、これはいけるぞ。
短時間で違和感がなくなる。
よしこれでいくか…。
この調子なら、明日にでも仮組み状態のをつぐみさんに見せられるな…。
そう思いつつ、その日の夜は作業を進めていった。
翌日夕方。
仕事が終わった後、星野模型店に行くと前日仮組みしたたまご飛行機の零戦をつぐみさんに見せた。
見た瞬間、動きが止まるつぐみさん。
目はたまご飛行機に集中している。
かなり真剣な表情で、何か言うのをためらわれる雰囲気だが、そのままという訳にはいかないので、軽い感じで声をかける。
「はははは……。翼端を切り落として加工しただけだけど、どうかな?」
そう言った瞬間、かばっとつぐみさんの顔が迫って目の前にあった。
いや、びっくりするし、心臓に悪すぎますよ。
いきなりは……。
まぁ、いきなりじゃなきゃいいんですけどね。
そんな僕にお構いなく、つぐみさんは興奮気味に言う。
「かわいいです。すっごく、かわいいです」
目が少し怖い。
なんか血走っているような気もするし。
「な、なんで2回も言うの?」
思わずそう聞くと「大事なので2回言いました」という返事が。
はい。お約束ですね。
しかし、つぐみさん、テンション無茶苦茶上がってませんか?
勢いに圧倒されつつも何とか口を動かす。
「と、ともかく、これでいいよね」
「はいっ。ばっちりです。ところでこの翼の大きさなんですが……」
上目遣いで僕を見るつぐみさん。
多分、そう聞いてくると思いましたよ。
そう思って準備していた一枚の紙を出す。
それは製作途中の写真や翼のサイズなんかを入れて、文章で加工の説明を記入しているものだ。
まぁ、改造のための簡単マニュアルと言ったところだ。
それを受け取り、食い入るようにしっかりと目を通すつぐみさん。
「ほら、徹くんにわかりやすいようにね」
プラモ初心者なので多分口で言ってもわかりにくいかもしれないので念のためのものだ。
「すごくわかりやすいです。これなら初心者の方も作れると思います。ところで、えっとですね」
つぐみさんがじっとまた上目遣いで僕を見る。
その様子はリスを思い出させる。
実にかわいい。
「ああ、それは別に自由に使ってもらって構いませんよ。別に何枚も印刷できるので新しく印刷したのを徹くんに渡せばいいだけなので
「では、いただきます。後ですね、これって、他の人に教えては駄目ですか?」
そう聞いてくるつぐみさん。
ふむ。
他に活用できるようなら別に使ってもらっても構わないからなぁ。
「どうぞ。活用できるようなら使ってください。その方が僕としてもうれしいです」
そう言うと、つぐみさんはにこりと微笑んで頭を下げた。
「はいっ。活用させていただきますっ」
その声は実にうれしそうだった。