「そういうわけなんで、日曜日の指導、お願いできないでしょうか」
僕は間宮館で南雲さんにそう言って頭を下げた。
「そりゃ構わないが、その男、東山俊樹さんだっけか」
「ええ。そうです」
「腕はどれくらいなんだ?」
「まぁ、並程度だと思います。小学生から中学生ぐらいにプラモデルは何個か作ったらしいので、何とか作れてますよ。ただ、問題を上げるなら……」
僕がそこまで言うと、南雲さんが察したように続きを言う。
「塗装か?」
「そうですね。コックピット周りは自分も手伝ったんですけど……」
「ああ、パイロットがってわけか」
図星を指され、頭をかく。
「はい。東山さんはパイロットをどうしても乗せたいらしいんですけど、自分がパイロット塗るのが苦手なんで……」
「わかった。日曜日はそのあたりの指導をするか。で、時間は?」
「夕方の十七時から閉店の二十時ぐらいまでですね」
「いいぞ。しっかりやっておこう。ところで……」
ニタリと南雲さんの顔がにやけた。
「今度の日曜日、友人の結婚式に、つぐみちゃんと招待されたって?」
「ええまぁ。二人でということですから」
「ほうほう……」
ニヤニヤ笑う南雲さん。
「まぁ、友達がそんなんだからな。お前も考えておく必要はあるよなぁ」
その言葉でピンと来た。
「どこまで知ってるんです?」
南雲さんがいやらしい表情を浮かべる。
「やっと一線越えて、つぐみちゃんの部屋に止まって朝帰りしてるって事は聞いてるぞ。特にここ最近は毎日だったな」
頭を抱えた。全部ばれている。
「つぐみちゃんはどうだったよ?」
顔が真っ赤になっていくのがわかる。
まぁ、男だからそんな話もするだろうとは思っていたが、彼女が出来て実際に話すとなると実に恥ずかしい。
「す、すごくいいですよ」
「そうかぁ。でもな……」
南雲さんの目がすごくいやらしく細くなる。
「これからいろいろ覚えていくとな、もっとよくなるぞ」
想像しているのは、僕とつぐみさんが絡み合っているシーンなのは間違いないだろう。
なんか悔しいので言い返す。
「南雲さんこそ、どうなんです?」
「ああ、秋穂か?」
一瞬、真顔になった後、思い出しているのだろう。
今までにないほどだらしなくていやらしい顔になった。
「あいつは、最高だぞ。俺の為の女って実感してる。普段はあんな感じだがな、ベッドの中では実にしおらしく、それでいで激しくてな…。ふふふふっ」
なんか惚気始められた。
確か結婚してもう何年も経っている筈だ。
なのに新婚のような甘さ加減である。
なんかそういうのは、第三者としてはうっとうしい反面、好きな相手がいる者として見た場合。実に羨ましい。
だから思わず聞いてみる。
「秘訣って何かありますか?」
「秘訣か……」
考え込む南雲さん。
「そうだなぁ…。相手が惚れられる自分を維持していくこと。それと全てを曝け出して話し合う事だな」
「なるほど……」
「まぁ、これが正解だとは思わんけどな。俺達の場合は、結婚する時に決めたんだ。隠し事はなしにしょう。何でも話し合おう。それに、相手を惚れさせる努力をしょうってな」
そこで南雲さんは笑う。
「まぁ、喧嘩なんかもするけれど、おかげでうまくいってるよ」
「実に参考になります」
「まぁ、お前らもがんばれよ」
「はい」
僕はそう答え、少し冷えたコーヒーを飲み干した。
「その時の彼がすごくかっこいいんです」
私がそう言うと、秋穂さんがニヤニヤと笑う。
「な、なんですか?」
「いやね、まさか、つぐみさんから惚気話を聞かされるとはねぇと思ってね」
そう言われ、はっとした。
私、今、惚気話をしていただろうか?
私はただ、偶々秋穂さんがお店に来たので、南雲さんを日曜日の夕方にお借りしますと連絡していただけなのに。
それでどうしてそうなったかの説明をし、彼が私をかばってくれた上に、「この店を馬鹿にする人は、誰だって僕は許さないっ。絶対にだっ」って言った時の話をしていただけだ。
「もしかして、思いっきり惚気てました?」
秋穂さんは苦笑して頷く。
あああっ……。
頭を抱えた。
そんな私を秋穂さんは、楽しそうに見ていった。
「今、すごく幸せ?」
その問いに私は即答する。
「はい。すごく幸せです」
「ふふふっ」
「えっと、何かおかしかったですか?」
「今、すごく女の顔になってたわよ」
慌てて自分の顔を手で触りまくる。
「女の顔って……」
「彼、よくしてくれる?」
私は真っ赤になりながらも頷く。
「でもね、これからいろいろ覚えていくとね。もっとよくなるわよ」
一気に体温が上昇し、湯気でも出そうに顔が熱い。
「でもね、これで安心して手を抜いたりしたら駄目だからね。常に女を磨きなさい。相手を一生惚れさせる気でね。それと隠し事はなしにしときなさい。隠し事があったほうがいいと言う人もいるけど、相手の事をよく知らないで信頼関係を生まれないと思うからね。だから、うちでは隠し事はなしよ。うふふふ」
結婚してもう何年か経ってるはずなのに新婚のように熱々の秋穂さんが言うと実に説得力がある。
「はいっ。がんばります」
私は思わずそう返事をしてしまっていた。