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迷宮育ちの最強ゴブリンが綴る冒険譚
迷宮育ちの最強ゴブリンが綴る冒険譚
アラクネ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年04月15日
公開日
7.3万字
連載中
気がつくと、俺は異世界のダンジョンの中にいた。 しかも、人間ですらなく、ゴブリンの王"ゴブリンキング"になっていた。 「勇者とかじゃなくて、モンスター転生……?」 そう思ったのも束の間、俺はダンジョンの"ボス"として、侵入者たちに命を狙われることになる。 「なら、俺は生き残る為に誰よりも強くなってやる」 圧倒的な鍛錬と知恵、そして戦いによる進化── 魔法、剣技、罠、戦術を駆使し、次々と冒険者たちを返り討ちにしていく。 戦えば戦うほど、俺は強くなった。 やがて、ダンジョンそのものが進化し、俺のボス部屋はまるで魔王の玉座のような空間へと変貌。 さらに俺は、眷属を召喚し、迷宮の環境を自在に操る力を得る。 だが、その成長はダンジョンの中だけに留まらなかった。 『育成システムの完了を確認しました。ステータスが消失します。新たに人物譚が与えられます。  焔雷鬼王が条件を満たしました。  神命・愚者フールが与えられました。それに準拠した【啓示】【権能】【神装】を獲得しました。  これにより主要登場魂格が揃いました。  神が紡ぎ人が織りなす叙事詩 《エピクル・デオルム》を開始します。』 誰よりも自由に、誰よりも強く、運命さえもねじ曲げて──迷宮育ちの最強ゴブリン、今度は異世界で暴れ回る!!

第1話  可愛いお姫様か幼馴染が欲しいです

──目覚めると、そこは"未知"の空間だった


 ひやりとした冷気が肌を刺す。  


 瞼を開くと、見たこともない光景が広がっていた。  


 石造りの壁がぐるりと円形に囲む広間。  

 天井は高く、まるで大聖堂のように静寂が支配している。  


 火の消えた灯籠が等間隔に並び、壁の隙間から差し込む青白い光が部屋を淡く照らしていた。  

 正面には、豪華な彫刻が施された椅子が一つ。  

 まるで──王の玉座のように鎮座している。  


 そして、部屋には扉が一つ。  


 それも、無骨で重厚な、まるで牢獄の門のような威圧感を放つ扉だ。  


「……ここはどこだ?」  


 反響する自分の声が、やけに低く響く。  


 ──違和感。  


 違和感が凄まじい。  


 "何かが決定的におかしい"。  


 俺は慌てて記憶を辿る。  

 最後に覚えているのは──夜、塾帰りの帰り道だった。  


 信号のない横断歩道を渡る時、後ろからくる車に気づかず……  


 ──ドンッ!!  


 衝撃と鈍い音。  


 そこまで思い出した瞬間、全身の血が一気に凍りついた。  


「ま、まさか……」  


 心臓が早鐘を打つ。  

 ありえない考えが頭をよぎるが、それを認めるわけにはいかない。  


 俺は、死んだ……?


 馬鹿な。  

 そんなこと、あるはずが──  


「いやいや、ないない。そんな漫画みたいな展開が──」  


 無理に笑おうとしたが、言葉が喉の奥で詰まる。疑いを振り払おうとするほど、現実の異常さが突き刺さる。  


 この空間も、光も、匂いも、すべてが異質。  


 嫌な予感が、確信へと変わり始めていた。  





「とりあえず、落ち着け……。まずは、自分の体を確認しろ……」  


 深呼吸をしながら、震える手を見下ろす。  


 ──緑色。  


 は?  


 いやいやいや、俺の肌は普通の日本人と変わらないはずだ。  


 だが、今目の前にあるのは……  

 まるで爬虫類のような緑色の肌。  


 手だけじゃない。  

 腕も、足も、胸も──全身が緑色になっている。  


 心臓が跳ね上がる。  


「ちょ、ちょっと待て……」  


 思わず顔を触る。  

 ゴツゴツとした感触、ザラついた皮膚。  


 自分の腕を掴むと、信じられないほどの"硬さ"を感じた。  


 そして、さらに異変は続く。  


 ──筋肉。  


 バッキバキに割れた腹筋。  

 異様に発達した上腕筋と大胸筋。  


 以前の俺は、筋肉とは無縁のぽっちゃり体型だった。  


 それが今では、ボディービルダーすら裸足で逃げ出しそうなほどの超マッチョ体型。  


 な、なんだこれ……  


「な、何がどうなってるんだ……?」  


 焦燥が喉の奥で渦巻く。  

 状況が理解できない。  


 これは夢か?  

 それとも幻覚か?  


 ──いや、"現実"だ。  


 肌の感触も、筋肉の重みも、鼓動の高鳴りも、すべてがリアルすぎる。  


 そんなはずはない。  


 俺はただの高校生だった。  

 昨日まで普通の生活をしていたはずなのに


 ……いや、違う。  


 "昨日"なんて、もう存在しない。  


 だって俺は──  


 死んだのだから。  


 その事実が、"スッ"と頭の中に入り込んできた。  


 不思議と、受け入れてしまう自分がいた。  


 そして、次の瞬間、確信に至る。  


 ──俺は異世界に転生した。  


 しかも、"モンスター"として。  




 ラノベ好きの俺は、異世界転生を何度も夢見ていた。  


 剣と魔法の世界。  

 圧倒的な力を手にし、王道の冒険を繰り広げる。  


 可愛い幼馴染に慕われ、姫に召喚され、  

 勇者として魔王を倒す──  


 ……だが、この現実はどうだ?  


 ──可愛い幼馴染?いない。  

 ──召喚してくれた王女?いない。  

 ──勇者?違う。  


 俺は、"討伐される側"だ。 


 勇者が倒すモンスター。  

 冒険者に討伐される"経験値"。  


「……ふざけんな」  


 笑えない。  


 転生するなら、せめて人間がよかった。  

 せめて、倒される側じゃなくて倒す側になりたかった。  


 なのに、俺は──  


 ──"モンスター"。  


 狩られる存在として、転生してしまった。  


 俺は苦々しく息を吐いた。  


「……今後、どうすればいいんだ?」  


 考えても答えは出ない。  


 とにかく、この空間を調べるしかない。  

 まずは情報を集めて、この世界のルールを知ることが最優先だ。  


 俺は意を決して立ち上がった。  


 その瞬間──  


 ボッ……!!  


 火の消えていた灯籠に、一斉に炎が灯った。  


「なっ……!?」  


 ゴゴゴゴゴゴ…… 


 重々しい音が響き、正面の扉がゆっくりと開く。  


 嫌な予感がする。  


 そして、予感は的中した。  


 扉の奥から、5人の人間が姿を現した。  


 男3人、女2人。  


 ──冒険者たちだ。  


 先頭には巨大な盾を構える戦士。  

 その後ろには両刃剣を持った剣士と短剣を持った盗賊。  

 最後尾には杖を持った魔法使いと、弓を引く射手。  


 戦闘の準備は万端。  


 彼らの目は──"俺を討伐する"と決めた者の目だった。  


 背筋が凍る。  


 分かっていたはずなのに、現実として突きつけられると、思わず息が詰まる。  


 ──俺はなんだ。  


 討伐対象として、ここにいるのだ。  


「……マジかよ……」  


 俺は小さく呟いた。  


 ──これは、最悪の異世界転生だ。

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