『熟練度が一定に達しました。【魔力操作Lv5】が【魔力操作Lv6】、【炎初級魔法Lv2】が【炎初級魔法Lv3】、【小鬼王剣術Lv2】が【小鬼王剣術Lv3】になりました。』
──あれから、どれくらいの時間が経っただろうか?
ボス部屋の中では時間の流れが分からない。
感覚的には1日くらい? でも、それを確かめる術はない。
このままこの部屋に閉じ込められていると考えると気が狂いそうになるかと思ったが以外にも楽しい。前世も部屋に引きこもっていることが多かったし、今は鍛えれば鍛えるほど目に見えて成長しているのが分かるから前向きに考えることができている。
炎初級魔法はLv3に到達し、新しい魔法を2つ習得した。
1. 炎槍
- 炎球を槍の形に変えたもので、貫通力と威力が向上している。
- より装甲のある相手の防御を突破するのに適した魔法になった。
2. 炎壁
- 炎の壁を自分の周囲に生成する防御魔法。
- 相手の攻撃を焼き尽くしながら防ぐことができる。
- 攻防一体の技で、応用次第でさまざまな使い道がありそうだ。
──これで、次に冒険者が来ても前回より優位に戦えるはず。
それに……俺には、一つ秘策がある。
「……ふふ、楽しみだな。」
──次の戦いで、それを試してみる。
――――――――――――――――――――
──ダンジョン第十階層・ボス部屋前──
「お前ら、準備はいいか?」
「おう!! 当たり前だろ!」
「グダグダ言わずに、さっさと行くわよ!」
「……うん、準備万端だよ。」
俺たちは、この新しくできた迷宮で一旗揚げようとしている、しがない冒険者パーティーだ。
前衛で剣を振る俺。
盾で皆を守るゴードン。
後方から攻撃魔法で援護するサーヤ。
そして、教会の聖徒であり回復魔法を使うアイラ。
攻防一体、バランスのいいパーティーだと自負している。
それにしても……今日もアイラが可愛い。
「……階層守護者を倒した後、告白でもしてみるか?」
ぐふふ、と鼻の下が伸びそうになる。
──いやいや、いけない。
そんなことは
俺たちにとって、新しくできた迷宮の守護者なんて取るに足らない相手だ。迷宮がどれだけ成長しているかは守護部屋までの階層数で分かる。この迷宮はまだ十階層分しかないので出てくる
とはいえ、油断は大敵だ。気を引き締めていこう。
「よし!! じゃあ行くぞ!」
俺は重々しい扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く。
そして、そこにいたのは──
──はぁ?!何もいない。
「……どういうことだ? モンスターがいねぇ!?」
不意を突かれ、思わず気が緩む。
すると──
「はぁーい、こんにちは。そして──
──死ね。」
扉の陰から、禍々しい炎球が放たれた。
──轟ッ!!
「なっ──!?」
ボスが奇襲だと?!
――――――――――――――――――――
──俺の秘策とは、これだ。
この部屋の扉は内側に開く構造になっている。
そして、この部屋は冒険者が扉の前に立つと灯籠に火が灯る仕組みになっている。
つまり──
そのタイミングで扉と壁の間に潜り込めば、ボス部屋に入ったのに目の前にボスがいない、という状況が作れるのだ。人間は思いがけないことがおきると思考が止まりがちだ。その隙をついてやれば簡単に崩すことができる。
「卑怯だって?」
チチチ、バカ正直に正面に立って待っているボスなんて、いるわけないだろう。
それに、卑怯と言うなら──
「大人数で袋叩きにしようとするのも卑怯だろ?」
うん、正論だな。
冒険者たちは、俺が突然現れたことに驚いている。
その隙に、俺の炎球が炸裂。
──ゴォォォッ!!
後衛の女2人が炎に包まれる。 後衛から狙うのは常識だな。脆い上に後々残しておくと厄介だからな。 ゴキブリと同じだな、よく燃えている。
「サーヤ! アイラ!! 大丈夫か!?」
「おい、ジョン! 余所見するな!」
前衛の剣使いは、致命傷を負った2人に気を取られている。
だが、盾使いは違う。
この状況でも、俺の動きを冷静に読んでいる。
「チッ……やっぱり、盾使いは厄介だな。」
大剣を振り下ろすが、盾使いがすかさず割り込んで阻止。
そのまま、剣使いとの連携で俺の攻撃を封じにかかる。
──戦況は膠着状態。
やはり、こいつらは強い。
盾使いは、俺の渾身の一撃を受けてもびくともしない。
剣使いの剣技も、前の冒険者より格段に鋭い。
ここに後衛の2人が加わっていたら、かなり苦しい戦いになっていた。
「……仕方ない、一旦距離を取るか。」
俺は大きく距離を取り、立て直しに入る。
向こうも、一息入れているようだ。
そういえば──【
「ケン、落ち着け。二人はもうダメだ。俺たちだけでどうにかするしかない……。」
「クソッ……二人の仇だ!! 絶対にぶっ殺してやる!!」
──おうおう、物凄い殺意だこと。
「いいぜ、受けて立ってやるよ……!」
俺は大剣を構え直し、次の一手を狙う。
仕切り直しても、依然として戦況は膠着状態だった。
──だが、このまま続けば先に倒れるのは相手だろう。
すると、剣使いが盾使いに向かって叫んだ。
「ゴードン、俺のスキルで決める! だから10秒、時間を稼いでくれ!」
「分かった。できるだけ早く頼む。」
──なるほど、痺れを切らして大技で決めるつもりか。
剣使いは俺から距離を取り、スキル発動の準備に入る。
逆に盾使いは、俺を通さないと言わんばかりに、どっしりと構えている。
「……この時間が、俺の攻め時だな。」
相手は、俺が言葉を理解できるとは思っていない。
つまり、作戦が漏れていることに気づいていない。よくアニメでも敵の前で大声で味方に作戦の指示を出している姿をみることがあるがあれはアニメだからだ。現実でやるやつは間抜けだ。
「悪いが、そのスキルは使わせねぇよ。」
俺はゴードンの足止めを受けながらも、体内の魔力を循環させる。
魔法の発動には準備が必要だ。
だから、タイミングを読み先手を取る必要があった。
──相手も、俺が魔法を準備していることに気づいた。
「まずい! こいつ、魔法を撃とうとしてる!!」
焦ったように距離を詰めてくるが……
遅いな。俺の発動のほうが早い。
『炎初級魔法――――――炎壁』
ゴォッ!!
俺の炎壁が燃え上がり、盾使いの四方を囲う。
──これが、俺の対盾使い作戦だ。
盾使いは防御に優れている分、機動力が低い。
だから、炎壁で囲ってしまえば、ほぼ脱出不可能だ。全身鎧は熱を逃がしにくいので火攻めが効果抜群だと古今東西決まっている。
「くそっ……!!?」
苦しそうな声が炎壁の向こうから聞こえてくる。
あとは、あの鎧ごと蒸し焼きにしてやればいい。
「そんな……ゴードンが……クソ、クソ、クソ……!!」
剣使いは震えながらも、俺に向かって剣を構えた。
マズい、スキルが発動する。
「食らいやがれ!! ランスハット流剣技――――雷撃疾閃!!」
──バチィィィンッ!!!
視界が雷光に包まれた瞬間、激痛が走った。
「──ッ!!?」
見下ろすと、俺の左腕が一本、持っていかれていた。
とっさに相手が剣を構えた時に、体を投げ出して回避しようとしていた。
だが、そうでなければ──
「……今頃、俺の首から上が無くなってたな。」
剣使いは、勝ちを確信したのか油断している。
──今だ。
「が……あぁぁぁッ!!!」
斬られた腕の激痛を押し殺し、俺は一気に距離を詰めた。
今ここで殺さないと、もう一度あの剣技を撃たれる。
剣使いは、慌てて態勢を整えようとするが、遅い。
とっさに防御しようとしているが、体勢を崩したまま防げるほど俺の大剣の一撃は、軽くない。
──ズバァァッ!!
衝撃に耐えきれず、剣使いの体が崩れる。
「ぐ……は……」
最後に見せたのは、悔しさの滲む顔。
だが、次の瞬間──
俺の大剣が、剣使いの身体を袈裟斬りにして、真っ二つにした。