「あ゙ぁ、腕が、足が。」
佳は机に突っ伏し、悶え苦しんでいた。
「おー佳、大丈夫か。」
炎が近づいて来て、佳に話しかけて来る。
「炎ざん、お疲れ様でず。」
死にそうな顔をして、顔だけ机から持ち上げる。
「だ、大丈夫か。」
あまりに生気がなかったので、思わず心配する。
「いや、大丈夫です。ただ影さんの特訓を受けてただけです。」
プルプル震える腕を無理やり動かし、親指を立てる。
「あぁ、あの影特製鬼畜脳筋イカれ筋トレか。」
微妙な顔をして、炎は一回だけやった時の事を思い出す。
『はいもっと速く、力強く。』
竹刀を地面に叩きつけながら、ビシビシとしごく。
『しぬ、もうむり、ぎぶ。』
半分白目剥きながら、炎はヘロヘロになりながらも歩いて居る。
「アレを、数時間、やっていたのか?」
もう思い出したくないトラウマを思い出しながら、冷や汗ダラダラで佳を見る。
「はい、そうですけど。」
真っ白な顔だけ向けて、答える。
「今度なんか美味いもん奢るよ。」
友人のスパルタっぷりにあまりに佳が可哀想だったのだろう。優しく肩を叩いていた。
数日後
「影、ちょっと佳借りるよ。」
特訓のあと、影といた佳のところへ行き、肩を組んで佳を連れて行く。
「どこ行くんですか。」
汗を拭いていた影は、タオルを椅子に掛け、壁にもたれ掛かる。
「いや、頑張ってる後輩にご褒美を。と思ってね。」
肩を組んだまま、影の方に向き、ニヤリとする。
「私も行きます。どうせあそこでしょ。」
急いでタオルを畳みながら、慌てて言う。
「おう、急げよ。50秒後には行くからな。」
「早いしなんか中途半端だなぁ。」と言いながら服を取りに走る影の背中を見ながら、炎は手を振る。
「しかし、凄いなあ。」
ぽつりと呟く。
「どうしたんですか。」
独り言に反応し、佳が炎を見る。
「あ、いや、影のトレーニングがこんなに続くなんてなと思ってな。」
誤解を解くように早口で答える。
「でも、影さんは何もしないんですよ。」
口を尖らせながら、佳は文句を言う。
「ん?あ〜。」
不思議な物を見る様な目で佳を見たあと、なにかに気づき、苦笑いする。
「それならアイツの嘘やな。多分。」
佳は目を丸くする。
「え、でも、『こんなもん私はできませんよ。』って言ってましたよ。」
メガネをいじる真似をして影の真似をする。
「いやw、アイツはw毎日wもっとwしんどいのwしてるでw。」
佳の影の真似が意外に似ていたので、ツボに入り、笑いながら答える。
「え」
目を点にする。
「まあ、アイツなりの配慮なんだろ。佳がへこまないようにって。」
笑いを収めながら、続ける。
「すまない。少し遅れた。」
着替え終わった影がカバンを持ってやって来た。
「遅い。2分遅刻だ。」
炎が無駄に低い声で面白おかしく言った。
「良し、飯に行くぞ。」
2人と肩を組み、炎は言う。
「こんな感じで使って良いんですね。」
今、僕たちは別の世界に居ます。
「えっと、あっちだったよな。」
炎さんとは地図を見ながら道を探して居る。
「意外とルール緩いんですよ。」
影は珍しく鼻歌を歌いながら歩いている。
「あったぞ。」
お店の方を指さす。その後ろの方には小さく禍々しいオーラを放つ城の様な物があった。
「合ってます、これ。」
遠くに城、目の前に食堂と言う余りにアンバランスな組み合わせに、佳は思わず後ずさる。
「あぁ、大丈夫だよ。ただ魔王城の近くってだけだから。」
言い忘れていただこの様に、あっさりと言う。
「そんな近くにテーマパークがあるくらいのテンションで言われても…。」
余りにあっさりした返答に、どう返せばいいか分からず、曖昧な調子で話す。
「こんちは、おひさです。」
炎はドアを勢い良く開け、挨拶する。
「こんにちは。」
それに影も続く。
「し、失礼します。」
どうすれば良いか分からず、ガチガチの挨拶をする。
「おや、炎ちゃんかい。久しぶりだねぇ。」
優しそうなおばあさんが奥から出てきた。
「いや、後輩をここに連れて来たくて。」
おばあさんがポケットから何かを取り出し、佳の手のひらに乗せる。
「あ、ありがとうございます。」
手のひらに乗せられた物を見る。
アメ、飴?
目が点になる。
「あぁ、良うくれんのよ。」
炎が事情がイマイチ分かっていなさそうな佳に説明する。
「私も貰いましたねえ。」
懐かしむ様に影も言う。
「おや、2人も飴ちゃん欲しいかい。」
何処からともなく馬鹿でかい箱を取り出し、よっこいしょと机に乗せる。
「「いや、いい(ええ)です。」」
冷や汗をかきながら、全力で首を横に振る。
「あげすぎだよ。ばあさん。」
奥から、ニコニコ笑顔のおじいさんが出て来る。
「そうかねぇ。」
そう言いながら、箱を閉める。
「「た、助かった。」」
2人は安堵の表情を浮かべながら、椅子に座る。
「おや、見ない顔だねぇ。」
おじいさんも佳の方を見て、質問する。
「あぁ、後輩の佳だよ。新入りなんだ。」
炎が肩を組み、紹介する。
「どーも、うちをご贔屓に。」
佳の目を見て、優しく話しかける。
「2人は何にするかい?」
おばあさんが伝票を持ち、注文を取る。
「では、いつもの定食で。」
メニューを見て、影はすぐに注文を決める。
「う〜ん、こっちも良いな。いや、あれも捨てがたいな。」
一方、炎は何回もメニューをペラペラめくり、うんうん迷っている。
「はいはい、いつものね。」
適当にあしらい、メニューにサラサラ書き込んでいく。
「ちょっと、まだ決めてないんだけど。」
子供の様に文句を言う。
「別にどうせいつものでしょ。所で、なんにすんだい。」
炎の反論を適当にあしらい、佳に注文を聞く。
「じ、じゃあ、この釜飯で。」
メニューに指差し、注文する。
「はーい、かしこまりました。」
3人に軽くお辞儀し、厨房の方を向く。
「じいさん、定食1 カツ1 釜飯1。」
素早く注文を伝えると、自身も入って行く。
「仕事はどう?」
突然炎が質問して来る。
「え、まあきついですけど、満足してますよ。」
質問の真意を測りかねて、ありきたりな答えを答えるが、嘘はないようだ。
「いや、影にしばかれてないかなって思ってな。」
質問が悪かったと思い、慌てて手を振りながら訂正する。
「私をなんだと思ってるんですか。あなたは。」
地味に刺さる言い方に、影は炎に思っていた事を聞く。
「他人にも自分にも容赦しないスパルタ堅物野郎。」
言うが早いか、一瞬で答える。
「酷えな。おい。」
影は笑いながらツッコミ返す。
「はい、影ちゃんは定食、炎ちゃんはカツ丼、佳ちゃんは釜飯ね。」
おばあさんが料理をお盆に載せて、やって来た。
「あ、ありがとう。おばちゃん。」
炎は手をすり合わせながら、舌なめずりをして、丼の蓋を開ける。
「美味っそう。やっぱカツ丼だよなあ。」
箸を取り、食べ始める。
「今日の焼き魚ってなんですか。めっちゃ美味いんすけど。」
影は魚を頬張りながら、おばちゃんに目をキラキラさせながら質問する。
「あぁ、あそこの川で爺さんが釣ったらしいよ。美味しかったなら良かったよ。」優しく微笑み、近くの椅子に座る。
「佳、どうだ…めっちゃ食ってる。」
炎が佳の方を見たら、佳が釜飯を頬張っている。
「ほへへっはほひひひへふ。」
口いっぱいに食べ物が入っているため、佳が何を言っているのか分からない。佳は食べ物を飲み込む。
「これめっちゃ美味しいです。」
おばちゃんは高らかに笑う。
「あはは、そこまで沢山食べてくれると、こっちまで嬉しくなるよ。」
「さて、そろそろ帰ろっかな。」
影は腕を上に伸ばし、背伸びをする。
「もっといても良いんだよ。」
おじちゃんが厨房から首を出し、寂しそうな顔をする。
「いや、さすがにそろそろ行かないと、怒られるんで。」
炎は頭を掻く。
「また来ますね。ありがとうございました。」
影はお金を置く。
「あ、ありがとうございました。」
佳は釜飯を食べ切り、上着を取り、お辞儀する。
「また来てね。」
おばちゃんが外に出て、手を振る。
佳は思っていた事を炎に問う。
「なんで急に帰るなんて言ったん
ですか。」
炎は少し顔つきを変える。
「あそこにはもう少ししたら、主人公が来るんだよ。」
佳はハッとした顔をする。
「そっか、僕たちは主人公達となるべく接触しちゃいけないんでしたね。」
佳は最初に言われた事を思い出し、考える。
モブは主人公と関わってはいけない、か。
炎は笑う。
「気にする事は無いよ。まぁ、あくまで、主人公
影は死んだような目をして、トボトボ歩く。
「ま〜た今から仕事だよ。今から、いやだなあ。」
炎は影の肩を叩く。
「良いじゃん。お前仕事はやいだろ。」
影は炎を睨み、ほっぺたをつまむ。
「誰のせいで仕事増えてると思ってんだ。」
急に強い風が吹く
2人の背中は、遠くに見えた。