「しかし、カンチョー・プレーというパワーワード、覚えちゃダメなのかなぁ?」
上市理可が、聞く。
「少なくとも、敢えて覚える必要、ないだろ」
「いや、アレよ、その……、早いうちから知っておいたほうが、かえって免疫がつく的な。何だ、そんなもんか的な。だって、世の中ってのは、そんな綺麗なものじゃないの。もしかすると、君のあこがれている子はカンチョーされるのが好きかもしれないし、逆もしかり……、カンチョーするのが、好きなのかもしれない。例えば、心が純粋だと思っていた彼女が、野獣みたいな間男にカンチョープレイで
「長文、おつ。カン・チョーだけに」
アンニュイな顔で告げる上市理可を、綾羅木定祐は軽くあしらう。
今度は、代わって、
「ところでだ、理可氏?」
「は、いぃ?」
「君は、何てタイミングで起こしてくれたんだ? とんでもないことを、してしまったんだぞ?」
「はぁ? エッチな夢でも、見てた?」
「私の夢ではないッ!」
「――!?」
一喝する綾羅木定祐に、上市理可は驚く。
「私だけの夢でなく、これは、全人類男性の夢だ……。この世は、実は仮想世界の写像だという説があるが、そのとおりだ……。私は、うたた寝をしていたのではない。その、2045年の来たるシンギュラリティに向け、仮想世界にアクセスする実験を行っていたのだ。その技術こそ用いれば、すべての女性とアクセスし、エッチをするVRの開発も可能になる。いわゆる、VR業務用セッ○ス産業の夢を、先ほど君は壊したのだ! カンチョーを、口に垂らしてな! ゆめゆめ忘れるな!」
「うわー、気持ちわるー! てか、シンギュラリティ、壊れちゃーう!」
「何を言う! 科学の進歩は、エロから始まる! エロこそ、科学の母!」
「じ、じゃあ、戦争こそ、科学の父!」
などど、二人は意味不明なやり取りをする。
そこへ、
「おクツで、エッツ……」
と、どこかから謎の声がした。
完全に気配を消して、机の引き出しから、某猫型ロボットのように現れた影。
某諜報家族の嫁のような、暗殺者風ドレス姿に、長く麗しい黒髪に狐耳と――
すなわち、そこにいたのは、妖狐の神楽坂文だった。
なお、その手には、苺抹茶のドラ焼きを持っていながら……
そして、方言っぽく、「お口でエッチ」とか言いたかったのだろう、たぶん。
「「うっわ、きんめぇ!!」」
綾羅木定祐と上市理可の二人は声をそろえながら、
「何がおクツでエッツだ? このドラ〇もん野郎」
「どうせ、お口でエッチとか言いたかったんしょ? きんも。――てか? それ? 私のドラ焼きじゃねえか?」
と、二人はつっこみつつ、
「――で? 何しに来たんだ? この、ドラ〇もん野郎」
「そろそろ……、事件の香りがしてな――。低級動物ども」
「「ふ~ん……、あっ、そ」」
と、答えた妖狐を、二人は軽くあしらう。
ちなみに説明すると、この妖狐・神楽坂文だが、この合同会社『神楽坂事務所』とはいちおう協力関係になる。
「あっ? 事件はいいけどさ、ドラ〇もん? 私食べたいものがあるんだけど」
「はぅ、」
「ちょっと、タケノコとってきてほしんだけど、その、新春のタケノコってやつ?」
「おお、そうだ! ちょうど、旬のタケノコの天ぷらを食いたいと思っててな、どうせ、お前さ? 妖力でマッハ2とか3とか出せるだろ? ちょっと、ぱぱっと、どっかの山でタケノコ掘ってこいよ、ドラ焼き野郎」
「おまえら、ゴミだじょ……」
妖狐は、軽く引きつつ、
「やれやれ……、とりあえず、ここ最近、ちょうどな、その“おクツ”に関する事件が続いているようでな」
と、呆れながら、何やら紙の束を手渡した。
それらは、ここ最近の、数件のとある不振死に関する資料だった。
「何だ? これを、私らに調べろというのか?」
綾羅木定祐が、聞く。
「まあ、そういったところだ どうせ、暇しているのだろ? 貴様たち?」
「別に、暇してないわよ。あ、ちゃんとタケノコ掘ってきてよ」
「そうだぞ、まったく。……まあ、いちおう、目をとおしておいてやる。何かあったらこっちから連絡するから、帰れよ。あ、タケノコは掘って来いな」
「ふむ。そしたら……、さて? それまで、私は出かけてこようかな? 箱根にでも、
「「うっわ、
綾羅木定祐と上市理可は、顔をしかめる。
というより、自分たちはドラ〇もん野郎だの、タケノコを掘って来いだの、パシらせようとしたことなど棚に上げておいて、この言い草である。