(1)
その日の夜。
綾羅木定祐と上市理可のふたりは、とりあえず、怪人に関して調べることにした。
しかし、怪人たちの気配を探るといったものの、あろうことかーー、そこは新宿のラブホテルだという。
「――と、いうわけでだ、このドラえもん野郎」
『はぅ、』
と、綾羅木定祐は、妖狐の神楽坂文と電話をしていた。
なお、テレビ電話で様子を見るに、やはり妖狐は箱根に小旅行中だった。
「いまから、このラブホで調査をするわけだが、屋根裏、天井裏を調査するの、何かいい妖具を出してくれよ? あ、タケノコ、忘れてないよな?」
「そっすよ。ずいぶん、いい温泉に入ったんでしょ? それくらい、出してよね。あ、ちゃんと、タケノコ掘ってきてよね」
と、ふたりは念を押しつつ、
『ふむ? 何だ? 貴様たち、ラブホテルにいるのか? いや、なかなか良いラブホテルではないか? どうだ? 色んなプレイも――、ソフトSMや医療プレイ、それこそカンチョープレイも、やりたい放題だぞ?』
「だってさ、綾羅木氏? どうする?」
「どうするじゃねぇよ。てめぇら、頭の中ドラ焼きでできてんのか?」
と、綾羅木定祐だけが、つっこんだ。
本題に戻って、
「で? 何か、いい妖具があるのか? どうなんだ? このドラ焼き野郎」
『屋根裏・天井裏を調べるのに、妖具がいるだと? 貴様たち、いちおう異能力者だろ?』
「まあ、そうだが、……しかし、この狭い天井裏をどうやって異能力で調べればいいのだ? 入って、動くだけでも大変だぞ」
『ふむ』
と、妖狐は電話越しから、ラブホの天井の方を透視してみる。
天井板とコンクリートスラブの間の空間は一メートルもなさそうで、なおかつ、配線や配管の多い空間。
綾羅木定祐の言うように、狭く移動しにくいのは間違いない。
「それか、何か、魔界植物とか、ちっちゃい魔獣でも召喚してくれないか?」
「それ、良いし。それだと、私たちが天井裏に入らなくて済むし」
『また、ラクすることばかり考えおって、この怠け者ども』
「フン、呑気に箱根に行ってるお前に、言われたくないんだが」
綾羅木定祐が、嫌味を言う。
すると、
『やれやれ、仕方ないな……。ムワ、ァリオの床――!」
と、妖狐が言うと同時、
――ホワンァッ……!
と、仄かな光のオーラのようなナニカがーー、綾羅木定祐と上市理可のふたりの下から、まるでコピー機のスキャンするかのように走った。
「「“マリオの床”――、とな?」」
ふたりが、声を揃える。
『ふむ、そのとおりだ。妖具を出すでのなく、貴様たちに妖力を掛けさせてもらった。ある種の、空間変化型の異能力とでもいうべきか――』
「空間変化型の異能力、だと? それで、どうなるわけだ? クソダヌキ」
『まあ、簡単に説明する。この能力をかけた貴様たちに対する、空間の、あらゆる水平物がな、ファミコンのマリオの床のような判定に変わるのだ。天井であれ床であれ、ぶつからずにすり抜けるたりすることが可能になる――』
「ああ、何となく、イメージできるかも」
と、上市理可が確かに、ファミコンもしくはスーパーファミコン版のマリオを思い浮かべる。
「何だ? すると、ここからジャンプすることで、天井板をすり抜けて侵入でき……、なおかつ、上のコンクリートスラブに頭をぶつける心配もないのだな?」
『そのとおりだ。まあ、ものは試しだ。とりあえず、私は箱根でのんびりしているから、あとは貴様たちで何とかしろ。カスども』
と言って、妖狐はそのまま電話を切った。
「ちっ、切りやがったし、あのクソドラ焼きポンコツダヌキ」
「ああ、ムカつく。こっちはこれから調査だってのに」
と、ふたりはイラつきながらも、
「まあ、仕方ないな。とりあえず、試してみるか? 理可氏」
「はぁ、仕方ないわね……」
「しかし、ラブホで皆が盛り合ってる中、我々は仕事をしているんだよな?」
「そう考えると、やっぱ、ムカつくね。あぁ~あ……、暖(あった)かい、お風呂で、エッチするん、だろな♪」
「僕も帰ろ、お家へ帰ろ……、ああ、帰りて」
と、昔話のようなナニカを口ずさむ上市理可に、綾羅木定祐も続きつつ、
「とりあえず、いくか」
「「せぇーのぉ……! 暖かい・お風呂で・エッチするん、だ! ろ !な!」」
と、ふたりは勢いよく、ベッドから天井に向かってジャンプした。