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第5話 ムワ、ァリオの床――



          (1)



 その日の夜。

 綾羅木定祐と上市理可のふたりは、とりあえず、怪人に関して調べることにした。

 しかし、怪人たちの気配を探るといったものの、あろうことかーー、そこは新宿のラブホテルだという。

「――と、いうわけでだ、このドラえもん野郎」

『はぅ、』

 と、綾羅木定祐は、妖狐の神楽坂文と電話をしていた。

 なお、テレビ電話で様子を見るに、やはり妖狐は箱根に小旅行中だった。

「いまから、このラブホで調査をするわけだが、屋根裏、天井裏を調査するの、何かいい妖具を出してくれよ? あ、タケノコ、忘れてないよな?」

「そっすよ。ずいぶん、いい温泉に入ったんでしょ? それくらい、出してよね。あ、ちゃんと、タケノコ掘ってきてよね」

 と、ふたりは念を押しつつ、

『ふむ? 何だ? 貴様たち、ラブホテルにいるのか? いや、なかなか良いラブホテルではないか? どうだ? 色んなプレイも――、ソフトSMや医療プレイ、それこそカンチョープレイも、やりたい放題だぞ?』

「だってさ、綾羅木氏? どうする?」

「どうするじゃねぇよ。てめぇら、頭の中ドラ焼きでできてんのか?」

 と、綾羅木定祐だけが、つっこんだ。

 本題に戻って、

「で? 何か、いい妖具があるのか? どうなんだ? このドラ焼き野郎」

『屋根裏・天井裏を調べるのに、妖具がいるだと? 貴様たち、いちおう異能力者だろ?』

「まあ、そうだが、……しかし、この狭い天井裏をどうやって異能力で調べればいいのだ? 入って、動くだけでも大変だぞ」

『ふむ』

 と、妖狐は電話越しから、ラブホの天井の方を透視してみる。

 天井板とコンクリートスラブの間の空間は一メートルもなさそうで、なおかつ、配線や配管の多い空間。

 綾羅木定祐の言うように、狭く移動しにくいのは間違いない。

「それか、何か、魔界植物とか、ちっちゃい魔獣でも召喚してくれないか?」

「それ、良いし。それだと、私たちが天井裏に入らなくて済むし」

『また、ラクすることばかり考えおって、この怠け者ども』

「フン、呑気に箱根に行ってるお前に、言われたくないんだが」

 綾羅木定祐が、嫌味を言う。

 すると、


『やれやれ、仕方ないな……。ムワ、ァリオの床――!」


 と、妖狐が言うと同時、

 ――ホワンァッ……!

 と、仄かな光のオーラのようなナニカがーー、綾羅木定祐と上市理可のふたりの下から、まるでコピー機のスキャンするかのように走った。

「「“マリオの床”――、とな?」」

 ふたりが、声を揃える。

『ふむ、そのとおりだ。妖具を出すでのなく、貴様たちに妖力を掛けさせてもらった。ある種の、空間変化型の異能力とでもいうべきか――』

「空間変化型の異能力、だと? それで、どうなるわけだ? クソダヌキ」

『まあ、簡単に説明する。この能力をかけた貴様たちに対する、空間の、あらゆる水平物がな、ファミコンのマリオの床のような判定に変わるのだ。天井であれ床であれ、ぶつからずにすり抜けるたりすることが可能になる――』

「ああ、何となく、イメージできるかも」

 と、上市理可が確かに、ファミコンもしくはスーパーファミコン版のマリオを思い浮かべる。

「何だ? すると、ここからジャンプすることで、天井板をすり抜けて侵入でき……、なおかつ、上のコンクリートスラブに頭をぶつける心配もないのだな?」

『そのとおりだ。まあ、ものは試しだ。とりあえず、私は箱根でのんびりしているから、あとは貴様たちで何とかしろ。カスども』

 と言って、妖狐はそのまま電話を切った。

「ちっ、切りやがったし、あのクソドラ焼きポンコツダヌキ」

「ああ、ムカつく。こっちはこれから調査だってのに」

 と、ふたりはイラつきながらも、

「まあ、仕方ないな。とりあえず、試してみるか? 理可氏」

「はぁ、仕方ないわね……」

「しかし、ラブホで皆が盛り合ってる中、我々は仕事をしているんだよな?」

「そう考えると、やっぱ、ムカつくね。あぁ~あ……、暖(あった)かい、お風呂で、エッチするん、だろな♪」

「僕も帰ろ、お家へ帰ろ……、ああ、帰りて」

 と、昔話のようなナニカを口ずさむ上市理可に、綾羅木定祐も続きつつ、

「とりあえず、いくか」

「「せぇーのぉ……! 暖かい・お風呂で・エッチするん、だ! ろ !な!」」

 と、ふたりは勢いよく、ベッドから天井に向かってジャンプした。


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