生命体とは、その遺伝情報のディスプレイ (表現)されたものであり、それが生物なのである。生命体すなわち有機体 (organism)は、無機体 (inorganism)を組織化するノウハウを遺伝情報 (DNA)としてもっているものである。このDNA生物は、その遺伝情報に基づいて細胞を創生し、個体を構築する。その方法はすべて物理法則に準拠している。
** 『分子生物学』より
(1)
「ーーえ、ぇ?」
「は?」
と、ほぼ同時に発した、ドン・ヨンファの声とパク・ソユンの声が、
「「何、これ?」」
のところで、重なった。
ここは、おそらく北と南の間くらいの緯度の、ある洋上の島。
二人の、見上げた先――
高さにして、50メートルくらいか?
ヒトガタの――、それも、膝をついたセクシーポーズの女の像そのものという。
奇怪にして、およそ趣味のいいとはいえない建築物だった。
「何これ? 趣味わる」
パク・ソユンが、ジトッとした目で言う。
なお、このパク・ソユンだが、中華メイクの整った顔に、パールつきのカチューシャーー
同じく白を基調とした、肩出しスタイル、かつヘソ出しの清楚スタイルのファッションと、モデルと見紛うほどの容姿だった。
まあ、実際に、モデルとしても活動をしているのだが。
「趣味わるいって、ソユンがいうのかい?」
ドン・ヨンファが、ヘラヘラした様子で言った。
なお、このドン・ヨンファだが、キノコヘアに黄色のド派手なスーツという、奇抜なファッションをしていた。
「は? 何? 私が趣味悪いってこと?」
「い、いやっ! そ、そんなことは言って! ぎ、ぎゃぁぁっー!!」
気に障ったのか、パク・ソユンがドン・ヨンファに詰め寄りながら、ヘッドロックをかける。
また同時に、異能力を使ってだろう――、その手を丸鋸へと“変化”させ、首元に当ててみせた。
ちなみに、このパク・ソユンだが、猟奇モノだったりグロ映画といった動画を、パソコン上に多重に開いては、無表情で永延と視聴するという。
趣味が悪いといわれても仕方のない趣味を持っている人間なのだが……
「ぎぎぃんッ!! か、勘弁! 勘弁てくれ! ソユン!」
「……」
パク・ソユンは無言で、謎の女体建築を眺めたまま、もがくドン・ヨンファを解放してやる。
「ゲホゲホ!」
背中を丸くして咳きこむドン・ヨンファの横、
「……」
と、パク・ソユンはまだ、建物を見ていた。
そこへ、
「と、とりあえずさ? ゲホ、ゲホッ……! な、中に入ろうぜ、ソユン? ホテルのほうに、部屋に、荷物を置きたいし」
と、ドン・ヨンファが、息を落ちつかせながら促した。
「そうね……」
パク・ソユンは答える。
いちおう、この“建築物”はホテルでもあるようだ。
二人は歩き出す。
――ゴゴゴ……
と、聳える、ヒトガタの建築。
その、髪の部分は、まるでDNAの二重螺旋が回転するごとく――
何か、少し不気味にも、幻惑的に見える。
そうした中、
「……」
と、パク・ソユンは、“それ“が何かは今のところ分からなかったが、ナニカの予感がしたのか、ジッ……と、建物を見続けていた。
一、二歩先を歩くドン・ヨンファが、
「はぁ……、僕は船旅で疲れたからね。カジノ行く前に、少し寝たいね」
と、こちらを見ずに話しかけるのを、聞き流しつつ……
それで、本題のこと。
そんなパク・ソユンとドン・ヨンファの二人が、どうして、この奇怪な島へ来たのか?
ここから少し、振り返ることにするーー