「あれ、顔が写ってる?」
高校デビューに失敗し、ぼっちに耐えきれず不登校になった俺。
中学時代、ほぼ空気として過ごした陰キャ人生からの一発逆転を狙って家から遠く離れた高校を選んで進学したのだが、コミュ障はいかんともし難く、誰にも声を掛けられないまま自爆したというわけだ。
まあ、ほぼ人生終わったと思ってる。できることなら転生したい。それだけが今の俺の夢なのだが、生来のヘタレで何もできずに引きこもりの日々がダラダラと過ぎていくばかりだ。
どこかのラノベの主人公のようにオンラインゲームを極める体力・気力はないし、動画はタテもヨコもリア充ばかりでムカつくし、SNSは怖いしで、たどりついた暇つぶしのアイテムが某マップのストリートビュー巡り。
自宅警備中でも部屋から一歩も動かず、誰にも見られずにあちこちへ行けるのだから、まさに引きこもりの本領発揮だ。
前置きが長くなったが、ストリートビューに顔があるのはとにかくおかしいのだ。
黎明期はそんなこともあったらしいが、今は人が写り込んでも、ぼかし処理が施される。それなのに、ここ、生け垣の間に明らかに顔がある。表情がわかるほどではないが、ぼかしは入っていない。運営も気付かなかったのだろうか。この場所、けっこう俺の家の近くなんだけど。
試しに画面をタップして前に進めてみた。
「さすがにいないよな」
画面を回してさっきの場所を見たが誰もいない。再び画面をくるりと元に戻したのだが……。
「え?」
半分ぐらい回したところで隣の生け垣の間にまた顔が見えた。
「これ、同じ顔だよな」
撮影車と同じ速さで移動してストリートビューに爪跡を残そうとしたなら奇特なやつだなと思いつつ、俺はさらに矢印をタップして歩みを進めた。
「は?」
今度はT字路の正面に見える家の門扉の上に同じ顔があった。さっきより鮮明だ。
たまたま撮影車が止まって移動した可能性は否定できないが、それなら運営が見落とすのも変だ。
「どういうこと?」
俺はストリートビューをいったん地図に戻し、別の場所にピンをドロップした。
「えっ?」
声が独りぼっちの部屋に響いた。右側の塀と電柱の間にまた同じ顔が見える。
「こ、これって……」
なぜか俺は画面をさらにタップしてしまった。
「さすがにいないか」
ほっとして何気なく俺は画面をくるりと回してみたのだが……。
「うわっ!」
叫び声が再び部屋に響き、俺は椅子ごとのけぞった。
デスクトップパソコンの大きなモニターで見ていたのも災いした。画面の左半分で、あの顔がにやりと笑っている。
「なんだよこれ、脅かしやがって……」
運営のいたずらだとしても悪質過ぎる。これじゃあお化け屋敷よりも怖いぞ。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「おや? 誰か来た」
俺に客が来るわけないが、親が通販で何か頼んだのかもしれないと思い、俺は部屋を出てインターフォンのところに行き、エントランスが写るモニターを見た。
ちなみに俺の家はマンション四階の四〇四号室だ。
「あれ? 誰もいない?」
ピンポーン。
今度はちょっと音色の違う玄関のチャイムが鳴った。
「もう上がってきちゃったのか。オートロック意味ないよな」
俺は廊下を真っすぐ玄関に向かい、ドアスコープをのぞいた。
「!!!!」
俺は絶句してのけぞり、上がりかまちで転んで廊下に尻もちをついた。手に持っていたスマホが床に落ちた。ドアスコープから見えたのは、不気味に笑うあの顔だった。
ピコーン。
突然スマホから音が鳴り、画面が光った。
「はーいそこの君。ここで諦めたら人生終了ですよ」
スマホから勝手に声が聞こえてきた。