「え? 何?」
「君にさ、デーモンが届いちゃったみたいなんだよね」
「え?」
「メールが届かないときにメッセージが届くメーラーデーモン、知ってるでしょ?」
「は?」
いきなり何言ってるんだこいつ?
「まあ、ホントはちょっと違うけど」
「……」
「あ、ごめんごめん。あれはバグデーモン。バックグラウンドプロセス、いわゆる常駐プログラムが何らかの異常なエネルギー、まあ人の怨念とかだけど、その影響を受けて怪異にバグっちゃったやつなんだよね。ボクらはバグデーモンって呼んでるんだ」
「……」
いやますます意味わからないから。
「あれ、君に取り憑くつもりだと思うよ」
「え?」
「悪霊とかと一緒でね、君は発狂するか、最悪、原因不明の突然死ということになっちゃうかな」
ああ、ここ驚くとこなのかな。でもまあ、俺には好都合だよな。それにしても、どこまでもついてないな、俺。あ、むしろ憑いてるのか、はは。でも発狂はいやだな、できればひと思いにやってくれる方が……。
「でもまあ、ボクがここにリーチできたのはラッキーだったよ」
「え?」
「スマホを持ってたのが幸いしたね」
あれ? 俺なんでスマホ持ってたんだろう。誰からも連絡なんか来ないのに。
ってか、誰からも連絡来ないはずなのにしゃべってるこいつは誰なんだ?
「あのさ、ボクをインストールして魔法少女になってよ」
「はああああああああああ?」
いやそれ、取り憑かれて死ぬって話よりもびっくりするだろうが。
「今、ボクは強制的に君のスマホにつなげてる。でも、このままじゃあ何もできないんだ」
ピンポーン。玄関のチャイムがまた鳴った。
「早くしないとあれ、入ってきちゃうよ。でもね、ボクをインストールすれば、君は魔法少女になれるんだ」
「はあ? 何、魔法少女って? だいたい俺、男だけど」
「ああ、そんなこと気にしなくてもいいんだ。ボクがリーチできたということは、君は魔法少女の適性があるってことだから」
「いやだから、俺は男……」
何言ってるんだこいつ。
「別に少女じゃなくてもいいんだよ。問題は適性があるかどうか」
「適性って俺に?」
いやホント、何言ってるんだこいつ?
「うん。たぶん君、けっこうかわいいからじゃないかな」
「は? そんなこと言われたの初めてだけど」
「うーん、そういうのって自分ではわからないんじゃない?」
やせっぽちで背が低いのは確かだけど、高校一年の今に至るまで、かわいいなんて言われたことは一度もないし。てか、そんなことを言ってくれるほど深い付き合いのあるやつもいなかったか。
「……で、インストールしないとどうなる?」
「だから、あいつに取り憑かれちゃうと思うよ。君にご執心だから」
「インストールしたら?」
「君は魔法少女に変身して、バグデーモンをデバッグする魔法の力を得るんだ」
「魔法でデバッグ?」
「ああ。プログラマーとかの手に負える存在じゃないからね」
「普通、魔法だとデバフなんじゃ……ゲームとかでも」
「あはは、それじゃだめだよ。バグだからデバッグしなきゃ」
いやむしろ人に取り憑くバグってなんだよ。
「ううーん。なんだかよくわかんないけど……それに、君は誰だよ?」
「ボク? ボクは生成AIアプリだよ」
「え? 生成AI?」
生成AIっていつから勝手に電話してくるようになったの!?
「あ、でも誰かがプログラムしたわけじゃないんだ。バグデーモンを生み出しちゃったサイバー空間が自戒を込めて自ら生成したスーパーナチュラル生成AIアプリってとこだね」
「はあ……」
いやなんなのこいつ。AIにしてはベラベラしゃべりすぎだろ。
「まあ、ぶっちゃけボクも怪異の一種だよ。あ、そうそう。あいつらも性質は生成AIだから、ほっとくとどんどん自己学習して危険が大きくなるんだ。その前に魔法少女に退治してもらわなきゃならないってこと。今回は君にね」
「なんだそりゃ。意味わかんないし……」
俺が何でそんなもの退治しなきゃならないんだよ。
「ほかの魔法少女を呼んでる余裕もないからね」
ん? 俺の心を深読みされた?
ピンポーン。ピンポンピンポンピンポンピンポン。
チャイムが鳴りやまなくなった。
「あはは、怒り出したみたいだね、あいつ。まあ、君の選択肢はハイかイエスだね」
「はは、俺的にはノーもあるよ。俺の人生、ほぼ終わってたのが完全に終わるだけだし」
ドアがガタガタ言い始めた。
「もう、そんなこと言わないでよ」
「だいたい俺になんのメリットがあるの?」
「え? それはまあ……」
「……怪異に憑かれて死ぬなんて、ぼっちの俺にぴったりかも」
ホント、またとない機会だよ。
「ええ? ホントに死にたいの?」
「まあ、死ぬのが運命っていうなら諦めるよ。俺が招いちゃったみたいだしさ。俺、諦めだけは早いんだ。それに、理不尽に死んだら異世界に転生して一発逆転できるかもしれないだろ」
「諦めたら終了ってさっき言ったじゃん。それに転生なんてないんだよ……あ、そうだ。運命だったらいいんだね?」
「え?」
「あのさ、ちょっとスマホ持ってみてよ」
「え?」
俺はつい、床に落ちていたスマホを拾い上げてしまった。
その瞬間、俺の体は光に包まれた。
ポン、ポンとかわいい音が鳴るたび、ジャージの部屋着がパステル調の色のかわいい衣装やリボンに変わっていく。
半導体の回路のような模様がついた大きな杖が現れ、俺の手に握らされた。下はひらひらのスカート。白いロングソックスとブーツを履かされているが、下半身はスース―する。
上の服にはかわいいリボンが付いている。ぼさぼさに伸びていた髪の毛はカチューシャでまとめられ、髪の色はバイオレットピンクに変わっていた。