その時、ポンっと音がして煙が出た。
「うわあああ、よかったあああああ」
変身が解けた俺はその場にへたり込んだ。
「あああ、残念。かわいくなくなっちゃった」
星置アイリと名乗った魔法少女がまた勝手なことを言っている。
「まあでも、これで元に戻れるね」
「は、はあ……」
アイリが何やら呪文を唱えると、大きな魔法陣がぐるぐる回転を始めた。あちこち壊れた教室が現実世界の教室とオーバーラップし始め、ゆっくりと俺たちは元の教室に戻っていった。
池谷君は意識を失ったまま倒れていた。生徒たちは、池谷君が突然くねくねをやめて倒れたように見えたのだろう。キツネにつままれたような顔をしている。星置アイリは何事もなかったように席に座って本を読んでいる。俺も席に戻っていた。
「うーん……」
池谷君が目を覚まし、同級生たちは恐る恐る近づいた。
「あ、あの、大丈夫? 池谷君」
女子生徒の一人が聞いた。
「あ、うん。なんだか急に意識がなくなったような……あ、そうだ。すっごくかわいい女の子が俺のこと助けてくれたような気がするんだけど……」
それって俺のこと? あの時、池谷君がこっち見てたのは確かだけど。
こいつは怖いしなあ、と横を見たら睨み返してきた。
そして。小さな付箋を俺に手渡した。
「放課後 校舎の裏」
は? これ果たし状? 仕方なく俺は黙ってうなずいた。
放課後、俺は言われた通り校舎の裏へ行った。
アイリは颯爽と体育館の横から姿を現した。眼鏡を外し、髪をほどいて降ろしている。教室での姿とはぜんぜん違う。戦闘服の時もちょっと思ったけど、やっぱりとんでもない美人じゃないか。スタイルも抜群だ。
「なに見てるの?」
「あ……はあ……すいません」
「まあいいわ。で、話があるんだけど」
「は、はあ」
「ユート君、私に付き合ってくれないかな」
一瞬、絶句した後、俺は声を上げた。
「つ、ちゅき合う!?」
果たし状ではなかったことはわかったが、突然のことに舌がからまった。
「ぷっ、なにそれ?」
「あ……はあ。まだち、ちょっと……心の準備が……」
「え? ああ、勘違いさせちゃったか。『私に』って言ったんだけど」
「は?」
「一緒に闘ってほしいってこと」
「は、はあ……」
なんだよ、驚いて損した。
「私、小学五年生の時から魔法少女やってるの。その頃は私、相当かわいかったんだから」
まあそうでしょうね。今は美人ですし。
「でも、私よりずっとかわいい親友がいて、とても大切に思っていたの」
「あ、はあ……」
「だけど、六年生のとき突然、行方不明になっちゃって……」
「え?」
「バグデーモンに連れ去られたんだと思う。警察が捜査したけど何の痕跡もなくてね。私、魔法少女なのに何もできなかった」
「……」
そんなつらい過去があったんだ。
「それから私は自分のかわいいを封印して、ミリタリー魔法少女として最強を目指してきたの。彼女に申し訳なくて、学校では孤高の存在を貫いて」
俺とはぜんぜんぼっちになった事情が違うな。
「彼女のこと私、諦めてない。どこかの異空間に閉じ込められてまだ生きてる気がするの。お願い、彼女を捜すの付き合ってくれないかな」
「あ、ああ、そ、そういうことですか……」
「ダメ……かな?」
「あ……いや……ダメ……というわけでは……」
「じゃあOKね」
「は? はあ……」
「かわいい君の姿、また見たいし。ちょっとあの子に似てる気もするのよね」
「はあ……」
うれしいようなうれしくないような。
「だからさ、さっきあの空間でかわいい魔法少女が君だってこと、実は薄々気付いてたんだけど、つい抱き締めちゃったの」
ええええええええ!?
と思い切り叫びたいとこだけど、びっくりして声が出なかった。
「アイリ、
彼女のスマホのアプリが突然、慌てた声を上げた。
「ユートも行くよね」
俺のスマホのアプリが続けた。
両方とも同じアプリのくせにまた使い分けかよ。
「当然でしょ!」
俺ではなくそう言ったのはアイリだ。俺に選択肢はないようだ。
「瞬間移動魔法を使うから。アプリ、お願い」
「合点だ」
アイリがスマホをタップすると地面に大きな魔法陣が出現し、俺たち二人をスキャンするように上昇し始めた。
俺たちは足の方からゆっくり別の場所に移動していった。