「あ、あの……その……えーと……」
ただでさえ人としゃべれないのに無茶なことを聞かないで……。
「答えられないんだ。ああ、だから男って嫌なのよね」
「あ……は、はあ」
そう詰められたら誰だって答えたくても答えられないじゃないか。
どっちにしても俺は答えられないけど。
「もしかして私のこと助けたつもり?」
「え……ああ……その」
「そんなことする必要なかったから。私、最強の魔法少女なんだから!」
「え?」
えええ……そりゃないんじゃないの……。
「おい、アプリ」
俺は小声でスマホに話し掛けた。
「あはは、ばれちゃったかな。君の実力を試してみたかったんだよね。彼女はさ、兵器を魔法化して闘えるんだ。ミリオタだからね。すっごく強いのはホントだよ」
「ちょっとアプリ、ミリオタって言うのやめて。私、ミリタリー魔法少女だから」
アプリの音声が聞こえたみたいで、魔法少女が口を挟んできた。
それ、略したらミリ魔女だよ。
「はは、そうだったね。ごめんごめん」
俺のアプリが答えた。
「それに、もっと上を目指してるから。そのうち弾道ミサイルも出せるようにする」
「あのさ、それはぜったい使っちゃだめだよ」
彼女のアプリがたしなめた。
大元は同じはずなのに、使い分けする意味あるのかな?
それにしても弾道ミサイル? 核兵器じゃないだろうな。
「まあ、そんなのなくても私、最強だけどね」
「あ、あのー」
俺は勇気を振り絞っておずおずと声をかけた。
「何!? だいたい君は何者なの!?」
いや口調がさっきから怖いんですけど。死にたくなってくる……。
「あ……お、俺、このアプリに……む、無理やり、魔法少女にされちゃった、というか……」
「無理やり? インストールは自分でするはずだけど?」
「あ、まあ……こいつにだまされて……スマホは触ったけど……」
「それならやっぱり自己責任でしょ。それより男のくせに魔法少女って君、恥ずかしくないの?」
男のくせにってセリフはジェンダー平等的にあり得ないだろ、お前こそ女のくせにミリオタとか言ってないでさ、奥ゆかしくしろよ……って言いたいところだが、もちろん言えない。
「あ、いや……そりゃまあ……ハズいっすけど……」
「なんかはっきりしない男ね」
「う、う……」
怖いよー。
「優斗君、もっかい変身しちゃえば?」
「え? あっ!」
俺は手に持っていたスマホを落としそうになり、画面を触ってしまった。
さっきの音楽が鳴り、ポン、ポンという音とともに俺はまた魔法少女に変身した。
「う……まじで……ハズい……」
さっきも見られてたはずなのに、俺は魔法少女の姿でもじもじしてしまった。
「か、かわいいい……」
えええ!? 魔法少女は目をうるうるさせて俺を見ている。
さっきの態度はなんだったんだ。
「ええと……」
「もうずっとその恰好でいてくれない? それなら私、君を受け入れられそうだから」
「いや……それはちょっと……」
「それにしてもかわいいなあ」
「う、う……」
お願いだから見詰めないで……ハズくて死ぬ。
「はは、ボクが言った通りでしょ。魔法少女ユートはかわいいんだよ」
くそ、アプリ、面白がってるだろ。
「う、うーん」
池谷君が意識を取り戻した。目をしばしばさせながらこっちを見ている。
「あ、っとまずい」
そう言って魔法少女が何やら呪文を唱えると、池谷君はまた意識を失った。
「私たちの活動は絶対秘密。結界内に時間の概念はないから、元の時空に戻っても何もなかったことにしなくちゃいけないの」
「あ、ああ、そうだったんですね……」
「ところで君ってさ、隣の席の男子だよね。いつもはあんまり見ないけど。名前はユート?」
「あ、は、はい、石狩……優斗って言います」
「ふうん、なんか名前は恰好いいのに。魔法少女になるなんてね……それにしてもかわいい」
「俺、好きでなったわけじゃなくて……」
「私は星置アイリ。よろしくね」
俺の言葉を無視するように魔法少女はそう言ってにっこり笑った。
さっきと態度が違いすぎてやっぱり怖い。
「教室では氷のような孤高の文学少女を演じてるけど」
あれは演技だったんだ。
「そうそう。さっきは突然でちょっとムッとしちゃったけど、隣の君も静かでけっこうクールだなと思ってたんだよね」
「あ……はあ」
俺のこと認識してくれてたんだと思い、ちょっとうれしかった。
まあ、クールどころか、ただのコミュ障なだけだけど。
「さて、元の教室に戻りますか」
「あ、あああ、ダメ! 俺、変身が解けないから」
「ええ? どういうこと?」
「……解く方法が……わからないんです。この姿で教室戻ったら……死ぬ」
「見られても別に死なないんじゃない。ホントかわいいし。はは」
「あの……かわいいって言いすぎじゃ……俺、男なのに……」
「あ、気にしてたんだ。ごめんね。でもさ、さっきの闘いはかっこよかったかも。杖一本でくねくねを外にはじき出しちゃったんだから」
「くねくね?」
「そう。ネット怪異としても有名だけど、知らなかった? 人のうわさから生まれるから、つぶしてもつぶしても新しいのが出てくる面倒くさいやつ」
「は……はあ、またか……」
バグデーモンってそんなのばっかりなの?
「あのさ、ユート君。君の変身も解けないと戻れないんだよ」
唐突にアプリが言った。
「え? ああ、そうだった。じゃあ、みんなに俺の変身姿が見られちゃうってことはないんだな」
ほっとしたが、このままではミリタリー魔法少女と池谷君と俺がいつまでも俺の結界の中に閉じ込められてしまう。
「やっぱまずいよなあ……」