俺の周囲がキラキラ光り輝き始め、スマホから何やらメロディーが鳴り始めた。
「おい、なんか鳴ってるけど」
「はは、ちょっと音楽で演出してみたよ」
「そんなことしてる場合かよ」
ポン、ポンとかわいい音を鳴らしながら、俺の制服はかわいい衣装に変化していった。
「愛と勇気と希望を胸に! 魔法少女ユート見参!」
アプリが叫んだ。
「お。おい、なんでお前がハズいこと言ってるんだよ」
「ええ? かっこよく決めてほしいからだよ」
「だいたいさ、あの魔法少女の力もお前が生成してるんじゃないの?」
「そうだけど。敵との相性が悪かったのかなあ。だから君にお願い!」
「お願いじゃないよ……はあ」
まあ、変身しちゃったからにはやるしかないか。
俺は半導体回路みたいな模様が付いた杖、ああ、これ、スマホが変化してたのか。
それを両手で握って魔法少女に駆け寄り、まとわりついた白いやつの一つに思いっきり打ち付けた。
ボーンと音がして白いやつは天井まで飛び上がったが、今度は俺の方に迫ってきた。俺はくるりと回って杖を振り、白いやつを横から思い切り叩いた。白いやつは窓を破って外に飛んで行った。
「あれ、俺ってこんなに運動神経よかったっけ?」
「それは君の勇気のたまものさ」
「お前、適当なこと言ってるだけだろ。きのうは心の強さとかなんとか言ってたし」
「あはは、油断してるとまた来るよ」
残りの白いやつ三つも俺に向かってきた。
「くっそ。三体はきついな」
とは言ったものの、どういうわけか体が勝手に動くんだよなあ。俺は高速回転しながら杖を振り回し、白いやつを次々打ち付けて外へ吹っ飛ばしていった。
「ナイスバッティング」
「いや野球じゃないし。でも、なんでこんなに動けるんだ?」
「いやあ。優斗君はさ、魔法少女適性がすごいんだよ。さあ、きのうみたいにデバッグしないと」
「ああ、わかったよ」
たぶん、毘沙門天の多宝塔がデバッグ装置だったんだろうな。
きのうのフェイスと同じように、白いやつらも俺の杖の物理攻撃を警戒しているみたいで、外に浮かんだまま入ってこない。
「オン ベイシラマンダヤ ソワカ」
俺がまた真言を唱えると空に割れ目が生じ、毘沙門天が姿を現した。
白いやつらは逃げようとしたが、毘沙門天はものすごい速さで追い掛けて、三又の槍で四つとも串刺しにした。
マシュマロみたいに刺された白いやつらはまだくねくね動いていて気持ち悪いが、毘沙門天が槍を高々と掲げると、フェイスの時と同じように多宝塔に吸い込まれていった。
「また毘沙門天が簡単にやっつけちゃったよ。最初から呼び出せばよかったのかも」
「そんなことないよ。あいつを彼女から引きはがしたのは君じゃないか」
「まあそうだけど」
「物理魔法と召喚魔法を使えるんだからすごいんだよ、君は」
「そうなのか?」
「そうだよ。身体強化も無意識にしてたし」
「ああ、さっきの動きか。俺もびっくり」
「うう、不覚……」
ミリタリー系の魔法少女が頭を振り、自分のほほを叩いた後、俺の方を向いた。
「え? か、かわいい!?」
魔法少女はそう言って突然、俺に駆け寄ってきて思い切り抱き締めた。
「あわわわわわわわ」
魔法少女の大きな胸に俺は顔を押し付けられたが、息ができなくて苦しいだけだ。こんなシチュエーションで男がうれしがる漫画とかあれ、嘘だな。
「君、かわいいね。新人の魔法少女? どうしてここに?」
顔が近すぎる。
俺は彼女と目を合わせないように目玉をくるくるさせるしかなかった。
「あ、ごめんごめん」
そう言って魔法少女は俺の両肩をつかんで押して少し距離を取り、にっこりとほほ笑みを浮かべながら、俺の顔を見詰めた。
「う、う……」
俺はとにかく目をそらすだけだ。目をつぶったらもっとやばそうなので。
「ねえアプリ、この子かわいすぎだけど、どこから連れてきたの?」
「え? 君も知ってる人だと思うけど」
彼女の懐からアプリの声がした。
「私が? 会ったことないと思うけど……」
その時、ボン! と音がして俺は突然、元の姿に戻った。
煙が出なかったのは、ここが彼女の結界の中だからだろうか。
「え?」
魔法少女のは俺の肩をつかんでいた手を離し、汚いものでの触ったかのように空中でひらひらさせながら表情を一変させた。
「男ってどういうこと?」
いや、そっちが勝手にいきなり抱きしめてきたくせに俺だとわかったとたんにその態度は一体どういうことだよ……とか言いたいところだが俺にはもちろん無理だ。