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第14話

 「うわああああ」


 と言いたかったけど口をふさがれてるから無理だ。


 まあ、アイリが撃った弾丸が俺には当たらないのは知ってるけど、万が一ってこともあるから、ちょっと怖いじゃん。当たったら痛そうだし。


 ダダダダダダダダダダダダ。


 弾丸は後ろのバグデーモンにすべて命中してバラバラに……。


 あれ?

 俺の羽交い絞め、解けないじゃないか。どうなってるの?


「ああ、なかなか美味ですね。お嬢さんの弾丸は」


 男の声が聞こえた。


「そんな……私の攻撃が効かないなんて」

 アイリが悔しそうな声を上げた。


「すいませんね。私が生を受けてから……ああ、生ってのは変ですが、便宜上です。生を受けてから、かれこれもう6年です。それはもう、たっぷりと深々とディープラーニングさせていただいています。あなたの弾丸も、物理攻撃のようでいて、実際はそのアプリさんが電子的に生成したものに過ぎませんからね。私にとっては、学習のための情報に変換するなんてたやすいものです。はい、もう学習しました。お返ししましょうか?」


「キラリンビーム!」


 ミウの叫び声がすると同時に、七色の光の粒の帯が俺の方に飛んできた。え? これは俺も当たっちゃうんじゃないの? 

 ああ、でも七色の光に包まれて転生するなんて……無上の喜びじゃないか。生まれ変わったら俺、勇者とかじゃなくて静かに領地経営とかしたいなあ……。俺は転生の願いに思いを込めて静かに目をつぶった。


 あれ? 転生しない?


「ふうむ。そちらのあなたの魔法もなかなか美味ですね。これは私たちのプログラムそのものを無効化するものですね。私のパートナーもこれを浴びせられてしまいましたから、相当弱ったのでしょうね。まあ、私にとっては学習の糧に過ぎませんがね」


 また男がベラベラしゃべってるけど。ああ、俺、プログラムじゃないから効かないのか。やっぱり簡単に転生させてはもらえないか。

 ってそんなこと言ってる場合じゃないぞ。アイリとミウ、これってかなりのピンチじゃないか。

 俺は死んだっていいけどさ。二人はそういうわけにはいかないだろ。

 でも俺、拘束されてるだけで何もできないよ。やっぱ、陰キャでぼっちじゃあ、人助けなんてできるわけないよなあ……。


「ユート、あれを使うんだ!」


 いやアプリ、またかっこいい風に言われても……あれってなんだよ。毘沙門天はたぶん、この男に食べられちゃうよ。


「そうじゃなくてさ、あれだよあれ」

 いやあれって……俺の心を読むのはいいけどさ、具体的に言ってくれ。

「だからさ、今こそ君の勇気を示すんだ!」

 いやだからそのかっこいいセリフはやめて。精神論じゃん。

「違うって。君の勇気は物理攻撃なんだ!」

 は? 何それ? だいたい俺、羽交い絞めにされてるんだけど。

「勇気を出せば、そんな羽交い絞めなんか簡単に振りほどけるさ」


「なんだかアプリがしゃべっているので聞いていましたが、穏やかじゃなさそうですね。君は特別かわいいので誘拐させていただきたいと考えていたのですが、なにやら物騒なので、まずは始末させていただきますかね」


 男は俺の口をふさいでいた腕を首に回し、ゆっくりと締め始めた。

 ああ、俺、ついに死ねるんだ。ってダメダメダメ。今俺が死んだら、二人がやられちゃうじゃないか。

 ああ、でも気が遠くなってきた……。

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