「うりゃあ……う」
アイリの真似して気合いを入れようとしたけど、普段そんなことしたこともない俺には無理だった。
引きこもり陰キャには無言がお似合いさ。
「かっこいいね、ユート」
うるさいわ、アプリ! ホントは怖くて声が出ないんだよ。
とはいえやるしかないんだよな。二人を助けるためには。
俺はもう一度杖を握り返し……ってこれ、スマホなんだよな。どういう原理だよ。ってことはこれもアプリの生成じゃん。ホントにあいつに効くのか?
あ、怖すぎてまたもう一人の俺が冷静になっちゃってるよ。
「細かいことはいいんだよ。君の勇気が今こそ力になるんだ!」
ああ、はいはい。そうですねアプリ様。勇気でしたね。
だいたい俺が得意なのは、諦観ぐらいなんだけどね。勇気があったらぼっちになるわけないだろ。
「どうしたのかな、かわいい魔法少女の君。せっかく上空の彼女に助けてもらったのに、まさか私と闘おうなどと思ってるのではないだろうね?」
俺を無視して八尺様の方に歩き出していたスレンダーマンは、余裕たっぷりにそう言ってこちらを向いた。
顔はないけど口もとが緩んでいるような気がした。なんかムカつくなあ。かわいいって何度もしつこいし。俺は男だぞ。
「やっちゃえ、ユート!」
「おお!」
え、俺、そんな言葉出せるんだ。自分でもびっくりだよ。そう言ったからには今度こそやってやる!
……怖いけど。まあ死んだら転生するだけだしね。
「転生なんてないってば」
ああ、もうホントうるさいぞ、アプリ!
俺は杖を強く握り直し、地面を強く蹴ってスレンダーマンに向かって突っ込んだ。
さっきも思ったけど、驚くほど体が軽いな。
足下がスースーするけど、やっぱ気持ちいいなこれ……。
完全に俺のことをなめていたらいく、不意を突かれたスレンダーマンは俺の一撃を食らってよろめいた。俺はすかさず体を高速回転させて、スレンダーマンの体じゅうを滅多打ちにした。
ドーン!
大きな音がしてスレンダーマンはトイレの壁にめり込んだ。
続けて俺は近くにいた八尺様に狙いを定めて杖を打ち付けた。
ドーン!
八尺様がスレンダーマンに重なるようにトイレの壁にめり込んだ。
「やったねユート。さあ、デバッグだ!」
「わかってる。オンベイシラマンダヤソワカ! 毘沙門天様!」
上空に待機していた毘沙門天が、読経の声とともに壁にめり込んだ二体のバグデーモンの方に向かい、多宝塔を差し出した。
槍はなくなっちゃってるけど、大丈夫かな?
「ああ、これもいただいておきますね」
動かなくなっていたスレンダーマンが突然、長い手を伸ばして多宝塔を毘沙門天から奪い取った。え? どういうこと?
「まずい! ユート、毘沙門天を下げて!」
アプリが珍しく慌てた声を出した。
「毘沙門天!」
俺が叫ぶと、毘沙門天は猛スピードで空間の裂け目に戻って行った。
「おやおや、残念。もう少しで私たちをデバッグするプロセスが見えるところだったんですが。この多宝塔は単なるデバッグツールの検索プログラムに過ぎないようですね」
スレンダーマンは多宝塔を体の中に吸い込み、左手で八尺様を介抱するように抱きかかえて立ち上がった。
えーと、何言ってるかぜんぜんわからないんですけど。
ってか、これ、ますますマズい状況なんじゃ……。