昼休み。
教室にいるといたたまれなくなるから、アイリが俺を屋上に呼び出してくれて、よかったといえばよかったかもね。
俺は屋上のフェンスにもたれかかって下を見た。
ああ、ここからひと思いに落ちたら楽になれるかな……。
「転生なんてないからね」
アプリの声が言った。
「あ、はは。ありがとな、アプリ」
「あれ? 反応違うね、ユート」
「まあ、お前が俺を利用するために言ってるのは知ってるけどさ、それでもね……」
「うーん、そう言われると言葉がないけど」
「はは、正直だな、アプリ」
「ふーん。ちょっと変わったかな、ユート」
「え? ああ、まあ、転生したいってのは変わらないけどね。俺を必要としてくれるのはお前ぐらいだからさ」
「そんなことないと思うけどなあ……」
屋上の入り口のドアが開き、アイリがやって来た。
眼鏡は外してるけど、お下げ髪の文学優等生少女の姿のままだ。
「はいこれ。お昼ないんでしょ?」
「え?」
アイリは俺に焼きそばパンと牛乳を手渡した。
「ユート君、きのうも昼食べてなかったでしょ? そんなだからちんちくりんなんだよ」
「え? あ、はあ……」
まあ、朝も食べてないから腹が減ってるのは確かだけど。
あれ? いつの間にか、アイリのちんちくりんって言い方がちょっとトゲがなくなってきているような……。
「購買にも行かないけど、もしかして金欠?」
「あ……いや、そうじゃなく……俺が買っちゃうと、だ、誰か買えなくなるわけで……それは……悪いかなって」
「え? そんなこと気にしてたの?」
「いや……まあ、俺、学校に来てなかったし……ホントなら、ここにはいないようなものだから……」
「ああもう、そんなふうに思ってたんだ」
そう言ってアイリはため息をつき、俺に真正面から向き直した。
「君は魔法少女なんだよ。人々をバグデーモンから守る。そんな弱気でどうするの? でもさ、私は知ってるよ。ユート君、君の勇気を。きのうの君の闘い、ホントに驚いたんだから。魔法少女になったばっかりとは思えなかった。あんな恐ろしいやつから私たちを守ろうとしてくれたんでしょ?」
「いやまあ……そ、それはそうかもだけど……あの場合はまあ……仕方なく闘ったってだけで……」
アイリまで俺の勇気とかほめてくれて、うれしくなくはないけどさ、それは重いよ……俺なんかにそんなに期待されちゃうとさ。
「まあでも、君がものすごく謙虚なのはわかった」
「はあ……」
いや、謙虚なわけではなく、コミュ障で人が怖いだけなんですけど……。
「これからはさ、私が毎日、お弁当作ってきてあげる。だからユート君、毎日学校来てよね」
「え?」
いやそれ、ますます重すぎる……学校に来るの、つらいんですけど……。
「さ、座って食べよ」
そう言ってアイリは軍用みたいなカーキ色のエコバッグから……ってそれ、毎日持って来てるの!?
アイリはビニールシートを取り出して屋上の床に敷き、端に座った。
そして、かわいらしい弁当箱も取り出した。
ああ、それは軍用じゃないんですね。
仕方なく俺もアイリの隣に座った。
「あ、そうだ」
「え?」
「ちょっと目をつぶって口を開けてくれる?」
「え? あ、はい」
なんだかわからないまま、俺は言う通りにした。
口に何かが押し込められた。えええ?
ああこれ、から揚げだ。
「焼きそばパンだけじゃ足りないでしょ」
目を開けたらアイリがほほ笑んでいた。
「おいしい?」
「もぐ……う、あ、はい、お、おいしいです」
「私の手作りだからね」
「あ、はあ……ご、ごちそうさま……です……あ、でも、焼きそばパンのお金、払わないと……」
「そんなのいいよ。きのうのお礼だから」
「あ、でも……弁当毎日作ってくれるとか……」
「それはさ、君は大事な私のパートナーだからね」
だ、大事な!? 俺が!?
「エミを見つけ出すために、君にはどうしても協力してもらわなきゃならないんだから」
あ、ああ、そうだよな。必要なのは俺じゃなくて、魔法少女の俺だもんな。勘違いしそうになっちゃったよ。
「エミさん……っていうんですね、いなくなっちゃった人……」
「あ、うん。でもね、きのうのあいつ、スレンダーマンに遭遇してこれも確信したの。エミがぜったいどこかに誘拐されて生きてるって」
「あ、ああまあ……」
「もしかしたらエミを誘拐したのもあいつなのかもしれない。ユート君、あなたのおかげで光が見えてきた。ホントありがとう」
「あ……いや」
まあいいや。魔法少女の俺が必要っていうなら付き合うよ。バグデーモンに連れ去られるのはごめんだけど、やられて死んでも転生するだけだしね。あ、アプリしゃべるなよ。
「さ、食べちゃお」
「あ……うん」
「そうだ。食べ終わったらトレーニングしようか?」
「ええええ?」
「ユート君、鍛えないと闘い続けられないよ。ちんちくりんのままじゃね」
はあ、やっぱりちんちくりんって言うんですね。
「あの……俺……朝から筋肉痛で……」
「あ、ああそうか。初心者だもんね。私も最初、つらかったっけ」
ああ、アイリさんでもそうだったんだ。
「そうだ。それなら後でマッサージしてあげる」
「え? い、いやそれはちょっと……」
「遠慮しなくていいから」
「ええええ……」