「君、きのうも来てたよね」
イケメンの池谷君がにっこり笑顔でそう言った。
「え? あ、ああ……まあ」
「きょうも来てくれてよかった。俺、心配してたんだよね。こないだから学校に来てなかったからさ」
え? 俺のこと心配してた? マジか? なんで?
「俺、学級委員してるからさ」
あ、ああやっぱり。そんなとこか。そりゃあ、不登校の引きこもりがクラスにいたら迷惑だよね。そうだよな、学級委員の責任にもなりかねないもんね。
俺やっぱ、死んじゃったほうがいいんだろうな。そうすれば、誰にも迷惑かけないし。もともといないみたいなもんだからな。
「転生なんてないんだよ」っていうアプリの声は聞こえてこなかった。ここで言うわけには行かないから当たり前だけど、なんだかちょっと寂しかった。
「ちょっと君、何が言いたいの?」
アイリが後ろから口を出した。
「あ、いや、ほら、石狩くん、クラスになじめてないみたいだから、まずは話しかけてみないと始まらないかなーって思って……」
ああ、こいつはこいつで優しいんだな。女の子の人気があるのも当然か。コミュ障の俺なんかに気にかけてくれるんだもんな。
「ユート君は私のパートナーだから大丈夫」
え? なんですかそれ、大丈夫って? ってか、そんなこと言ったら変な誤解されちゃうと思うんですけど、アイリさん……。
「パ、パートナー?」
ほら、池谷君びっくりしちゃったよ。
「そう。相棒ってこと」
まあそりゃあカップルじゃありませんけどね。
「相棒!?」
困っちゃってるよ、池谷君。
「そう、それ以上は言えないけどね」
アイリさん、話がますますこんがらがっちゃいます……。
「あ、ああそうなんだ。なんか特別な関係なんだね」
いや池谷君、どんな誤解しちゃったの?
「そうね、特別と言えば特別かな」
アイリさん……ますます墓穴掘ってます……。
「でもそれならよかった。星置さんもちょっと近寄り難い感じだったけど、石狩君とそういう関係なら安心した」
そういう関係ってなんですか? 池谷君……。
「それに俺、石狩君に言おうとしてたこともあったからさ」
「え?」
なんだろう。まさかきのうのことがバレてるとか……。
「きのう俺、ここでちょっとおかしくなっちゃったでしょ?」
うわ、やっぱそれか。
「なんか変な動きしちゃった後、倒れちゃったみたいで」
「ええ、確かに見てたけど。そう言えば、きょうは大丈夫なの?」
アイリが聞いた。
「あ、ああ、もうぜんぜん大丈夫。でもさ、俺、意識
うわ、やばいって。
「どういうわけかその子、石狩君にちょっと似てるような気がしてね。不思議なこともあるなあって思って」
わあああ! まじやばい!
「まあ、それだけだけどね。似てる気がするんだけどほら、どう見ても似てないしさ。変だよね。どう思う? 石狩君」
いやそれ、俺に聞くなって……。
「ど、どうって聞かれても……」
「まあ、どう考えてもこのちんちくりんがかわいい魔……じゃなかった、かわいい女の子なわけないでしょ?」
だから何か余計な表現が入ってます、アイリさん。
「そうだよね。俺、やっぱきのう、相当変になっちゃってたんだなあ。きのうは保健室で軽い熱中症じゃないかって言われたけどね。最近暑くなってきてるしね」
「そ、そうだよ。えーと……い、池谷くんだっけ?」
俺は何とか言葉を絞り出した。目を見てはしゃべれなかったけど。
「あ! 俺の名前、憶えてくれてたんだ。うっれしいなあ」
まあそれはきのうのことがあったからだけどね。他のクラスメートの名前は誰も知らないよ。アイリ以外は。
「ま、変なこと言っちゃって申し訳なかったけど、これからもよろしくね、石狩君。俺に免じてさ、これからも学校来てくれるとうれしいな」
「あ……はあ」
やっぱいいやつなんだな。陰キャの俺なんかと違って。
「ああ、それは大丈夫。私がいるから!」
後からアイリがまた口を出した。
「ああ、そうだったね。相棒だっけ? 君たち面白いね。それじゃまた!」
そう言って池谷君は自分の席に戻って行った。
そしてアイリは俺にまた、小さな付箋を手渡した。
「昼休み 校舎の屋上」
今度はなんですか……まさかブートキャンプじゃないだろうな……俺、筋肉痛で死にそうなのに……。