「いててててて」
翌朝、俺は全身の筋肉痛で目が覚めた。
なんなんだよ、これ。
「昨日の戦闘の副作用だね。けっこう激しかったからね」
聞いてもいないのにアプリが説明しやがった。
まあ、そんなとこだろうとは思ったけどさ。
「でもきのうは痛くなかったぞ」
「ああ、おとといのフェイスは弱かったからね。ユートもあんまり動かなかったじゃん」
「それじゃあさ、敵が手強いと翌日に筋肉痛になっちゃうってことかよ? 魔法でどうにかならないのか?」
「ごめんね、魔法は万能じゃないんだ。ケガは防げるんだけどね」
いやそれ、魔法の意味ないじゃん。
「だからきのう、アイリが体を鍛えなきゃって言ってたでしょ」
そんなことができるなら引きこもってないと思うんだけど。ああ、でも「これから毎日ブートキャンプだ!」とか言い出しそう、アイリさん。軍人だし……。
「あ、アイリからメッセージだよ。ユート君、きょうは約束通り学校来てね、だってさ」
言ったそばからだよ……怖い。確かにきのう、アイリに学校に来るように言われて生返事したけど……朝から念押しかよ……。
「てか、お前がなんで仲介してるんだよ」
俺はアイリとなんの連絡先も交換していない。したらやばそうな気がしたし。
「ボクは魔法少女たちのグループチャットアプリの役割も果たしてるんだよ」
「はあ? じゃあこれからも頻繁に連絡が来ちゃうの?」
「ああ。それはないから安心して。ボクはビジネスチャットみたいなもんだから。まあ、業務連絡が中心ってことさ」
高校生が業務連絡って……。まあ、未読だの既読スルーだの気にしなくていいからいいけどさ。
「で、どうする? アイリに返事する?」
この筋肉痛で電車に乗って俺の高校まで行くのはつらい……まあ、誰も知り合いのいない遠くの高校を選んだ俺の自業自得だけどさ。
「なんかさ、きょうは転生って言わないね」
「お前がしつこいからだろ」
「まあ、いい傾向かな。前向き、前向き!」
「うるさい! 俺は後ろ向きで諦めがいいことだけが
取り柄なんだから。無茶言うなって」
「そうかなあ。きのうなんて、二人を守ろうとしてすごい頑張ってたのになあ」
「それは仕方がないからだろ。それだって諦めの心境ってやつだよ」
「ふうーん。まあいいや。でもさ、学校行くなら急がないとね」
「あ、ああ、めっちゃ痛いんだけど……」
「ユート、君の勇気はそんな痛みなどものともしない!」
「はいはい。かっこいいですよ、俺は」
「あれ? なんかつまんないね、きょうの反応」
「うるさいって」
俺は痛みをこらえながら、急いで学校へ行く支度をして抜き足、差し足で玄関に向かったのだが……。
「あら、優斗、きょうも学校に行くのね」
げっ。母親に見つかった。めんどくさ……。
「二日続けて優斗が学校に行ってくれるなんて、母さん、ちょっと安心した。ありがとね」
いや学校行くの普通だし、俺がおかしいんだし。親からお礼を言われるいわれなんかないんだけど。
「あ、うん。俺、頑張ってみようと思うんだ」
うわ、思ってもない言葉が出ちゃったよ。
「車に気を付けてね」
「うん」
アプリは黙っていた。当たり前だけど。
手も腕も脚も肩も腰も背中も……首も痛いけど……これ、筋肉とかギシギシ言ってない?
うう、なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだよー。
それでもなんとか俺は学校にたどり着いた。
教室に入ったが、クラスメートはやっぱり俺をスルーした。
アイリはお下げ髪に黒ぶち眼鏡の真面目少女の姿でまた本を読んでいる。俺は隣に座った。アイリは静かに本を机の上に置き、俺の方を向いた。え? 怖いんですけど……。
「ユート君、おはよう。ちゃんと学校来たね」
あ、ああ、あいさつか。
「え? ……あ、まあ……い、一応、約束したし」
この辺の結界みたいな無音空間が破れちゃったぞ……。
「うん。きのうはありがとね。改めてお礼言っとく」
え? アイリさんまで俺にお礼言ってくれるなんて……素直にうれしいかも。ただの軍人じゃなかったんだな。
あ、でもそんなこと、ここで言ったらまずいんじゃ?
周りに聞こえちゃう……。
ってぜんぜん俺たちのことなんか気にしてないや……と思ったんだけど……。
「あのさ、君、石狩くんだっけ?」
後から声が聞こえた。
え? 俺の名前知ってるやつなんていたのか?
振り向くと、きのう助けたイケメンの池谷君が立っていた。