「デカすぎって、あれ、小さいヒサルキが集まってるんじゃないの?」
赤ずきんのユイナがちょっと声を荒げた。
「いや……あれ、一つの大きなヒサルキでありやすが?」
オオカミが不思議そうな顔をした。
「え……」
ユイナは絶句した。
「あ、ごめん。かわいすぎてまたやっちゃった」
そう言ってアイリは抱き締めていた俺を解放した。
なんだ、なんか意味あるのかと思っちゃたじゃないか。
「こんなことしてる場合じゃない」
アイリさん、そればっかりですよ。
「エミリ、もう一回防護魔法を展開して!」
「OK!」
アイリの声にエミリが答えた。
「トリプルプロテクション!」
エミリが叫ぶと、透明な防護ドームは強化されて修復したみたいだ。
「キラキラウォール!」
さらにミウが叫ぶと七色の虹のような帯が防護ドームの内側を支えるように展開された。ヒサルキが叩いていたドームはびくともしなくなった。
「アイシクルス」
カノンが静かにそう言うと、つららのような尖った氷柱がドームの外に大量に出現し、ドームを叩いていた超大型ヒサルキの手を刺した。
「キイイイイイイイイイイ!」
猛烈な悲鳴を上げ、ヒサルキは後ずさりした。
すごいなあ、みんな。俺、防護魔法とかできそうもないし。
「私は攻撃が最大の防御だから!」
ああ、アイリさんも防護魔法ないんですね。俺、ちょっとホッとしました。
「バンカーバスター。出せるよね、アプリ」
「もちろん」
それ、地中貫通爆弾ですけど……ああ、あいつに打ち込んで中から破壊しようってのか。さすがアイリさん。
「バンカーバスター!」
アイリが叫ぶと、どこからかミサイルが飛来し、ヒサルキに突き刺さった。ちょっとだけ間があって、ドーンという大音響と共に、巨大ヒサルキは吹き飛んだ。茶色いウニみたいな物体がドームの上にも飛び散った。
「やったー!」
赤ずきんのユイナが喜びの声を上げた。
ところが……。
茶色いウニみたいな物体は小さいヒサルキみたいに消えなかった。そして、まるで生きているように元の場所に集まり始めた。
うわあ、キモすぎるけど、そんなこと考えてる場合じゃないよな。
「これでもダメか。ちょっと作戦を練らなきゃね。ユイナ、できる?」
アイリがユイナに何かを頼んだ。
「もちろん。お願い、おばあちゃん」
え? おばあちゃん? まさか巨大なおばあちゃんが出てくるとか……それ、ちょっと怖い。
元に戻りつつあった超大型ヒサルキの周りに、さらに巨大な毛布が出現した。誰かが手に持っているようにひらひらしている。
ああ、そういうことか。
「さすが赤ずきん様。あっしもあれにはかなわんですが、あんな大きなやつも出せるとは。お見それしやした」
オオカミが言った。
巨大な毛布は超大型ヒサルキを包み込んだ。ヒサルキは中でもがくばかりで、それ以上の身動きは取れなくなった。
「デバッグはあなたの役割だけど、やっぱり無理よね」
「はあ、すんません」
ユイナの言葉にオオカミはすまなそうな声で答えた。
「みんなごめん。こうなったのはボクの判断ミスだ」
ユイナのバスケットのアプリがしゃべり始めた。
まあ、どのアプリも一緒だけど。
「これはみんなをおびき寄せる罠だったのかもしれない」
「って言うと?」
ユイナが聞いた。
「エミリがたくさんのヒサルキに襲われた時、ボクは論理的に考えすぎちゃったんだ。バグデーモンは結界には入って来られないから、仲間のヒサルキは最初から結界の中で隠れていたと判断して、君たちを呼べばすぐに退治できると結論づけてしまった。こないだのスレンダーマンの一件はイレギュラーとして計算に入れていなかった。合理的に思考する生成AIの特性を逆手に取られて、君たちをここに集結させてしまったんだ」
「ということは?」
アイリが聞いた。
「ヒサルキにそんな知能があるわけない。外からエネルギーが供給されていることも考えれば、黒幕がいるはずなんだ……そして」
俺は結論はわかったけど、黙っていた。
まあ、5人の前でうまくしゃべれるわけないけど。
「君たちを一気にせん滅するつもりなのかもしれない」
「え? 魔法少女はバグデーモンにやられることはないってアプリ、あなた言ってたじゃない」
カノンが少し震えた声を出した。
「ああ、そのはずだったんだけど……」
生成AIのくせに、ちょっと困ったような声でアプリが言った。
「この間から急にバグデーモンが凶悪化し始めたみたいなのよね」
アイリが冷静に言った。
「そんなの私、聞いてない……」
カノンが涙声になった。
「私も聞いてない。そうだ。変わったことと言えばそこのユートさんじゃない? だいたい男子が魔法少女なんて、なにかの災いの予兆としか思えないし」
ユイナが俺を横目で見てそう言った。
「……」
俺だって好きで魔法少女になったわけじゃないのに……でも、ホントにそうかも。いきなりフェイスに狙われたし、スレンダーマンは俺を連れ去りたいって言ってたし。やっぱ俺、きっと疫病神だよな。だからこれまでだって、誰も相手にしてくれなかったんだろうし……早く消えちゃった方がいいんだろうな。
「こら! ユイナ!」
アイリがきつい声を上げた。
「ユート君を悪く言うと、私が許さないからね」
「え……」
アイリが俺の顔を見てウインクした。