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第30話

「デカすぎって、あれ、小さいヒサルキが集まってるんじゃないの?」

 赤ずきんのユイナがちょっと声を荒げた。


「いや……あれ、一つの大きなヒサルキでありやすが?」

 オオカミが不思議そうな顔をした。


「え……」

 ユイナは絶句した。


「あ、ごめん。かわいすぎてまたやっちゃった」

 そう言ってアイリは抱き締めていた俺を解放した。

 なんだ、なんか意味あるのかと思っちゃたじゃないか。


「こんなことしてる場合じゃない」

 アイリさん、そればっかりですよ。


「エミリ、もう一回防護魔法を展開して!」

「OK!」

 アイリの声にエミリが答えた。


「トリプルプロテクション!」

 エミリが叫ぶと、透明な防護ドームは強化されて修復したみたいだ。


「キラキラウォール!」

 さらにミウが叫ぶと七色の虹のような帯が防護ドームの内側を支えるように展開された。ヒサルキが叩いていたドームはびくともしなくなった。


「アイシクルス」

 カノンが静かにそう言うと、つららのような尖った氷柱がドームの外に大量に出現し、ドームを叩いていた超大型ヒサルキの手を刺した。


「キイイイイイイイイイイ!」

 猛烈な悲鳴を上げ、ヒサルキは後ずさりした。


 すごいなあ、みんな。俺、防護魔法とかできそうもないし。


「私は攻撃が最大の防御だから!」


 ああ、アイリさんも防護魔法ないんですね。俺、ちょっとホッとしました。


「バンカーバスター。出せるよね、アプリ」

「もちろん」


 それ、地中貫通爆弾ですけど……ああ、あいつに打ち込んで中から破壊しようってのか。さすがアイリさん。


「バンカーバスター!」


 アイリが叫ぶと、どこからかミサイルが飛来し、ヒサルキに突き刺さった。ちょっとだけ間があって、ドーンという大音響と共に、巨大ヒサルキは吹き飛んだ。茶色いウニみたいな物体がドームの上にも飛び散った。


「やったー!」

 赤ずきんのユイナが喜びの声を上げた。


 ところが……。


 茶色いウニみたいな物体は小さいヒサルキみたいに消えなかった。そして、まるで生きているように元の場所に集まり始めた。

うわあ、キモすぎるけど、そんなこと考えてる場合じゃないよな。


「これでもダメか。ちょっと作戦を練らなきゃね。ユイナ、できる?」

 アイリがユイナに何かを頼んだ。


「もちろん。お願い、おばあちゃん」


 え? おばあちゃん? まさか巨大なおばあちゃんが出てくるとか……それ、ちょっと怖い。


 元に戻りつつあった超大型ヒサルキの周りに、さらに巨大な毛布が出現した。誰かが手に持っているようにひらひらしている。

 ああ、そういうことか。


「さすが赤ずきん様。あっしもあれにはかなわんですが、あんな大きなやつも出せるとは。お見それしやした」

 オオカミが言った。


 巨大な毛布は超大型ヒサルキを包み込んだ。ヒサルキは中でもがくばかりで、それ以上の身動きは取れなくなった。


「デバッグはあなたの役割だけど、やっぱり無理よね」

「はあ、すんません」

 ユイナの言葉にオオカミはすまなそうな声で答えた。


「みんなごめん。こうなったのはボクの判断ミスだ」

 ユイナのバスケットのアプリがしゃべり始めた。

 まあ、どのアプリも一緒だけど。


「これはみんなをおびき寄せる罠だったのかもしれない」


「って言うと?」

 ユイナが聞いた。


「エミリがたくさんのヒサルキに襲われた時、ボクは論理的に考えすぎちゃったんだ。バグデーモンは結界には入って来られないから、仲間のヒサルキは最初から結界の中で隠れていたと判断して、君たちを呼べばすぐに退治できると結論づけてしまった。こないだのスレンダーマンの一件はイレギュラーとして計算に入れていなかった。合理的に思考する生成AIの特性を逆手に取られて、君たちをここに集結させてしまったんだ」


「ということは?」

 アイリが聞いた。


「ヒサルキにそんな知能があるわけない。外からエネルギーが供給されていることも考えれば、黒幕がいるはずなんだ……そして」


 俺は結論はわかったけど、黙っていた。

 まあ、5人の前でうまくしゃべれるわけないけど。


「君たちを一気にせん滅するつもりなのかもしれない」


「え? 魔法少女はバグデーモンにやられることはないってアプリ、あなた言ってたじゃない」

 カノンが少し震えた声を出した。


「ああ、そのはずだったんだけど……」

 生成AIのくせに、ちょっと困ったような声でアプリが言った。


「この間から急にバグデーモンが凶悪化し始めたみたいなのよね」

 アイリが冷静に言った。


「そんなの私、聞いてない……」

 カノンが涙声になった。


「私も聞いてない。そうだ。変わったことと言えばそこのユートさんじゃない? だいたい男子が魔法少女なんて、なにかの災いの予兆としか思えないし」

 ユイナが俺を横目で見てそう言った。


「……」

 俺だって好きで魔法少女になったわけじゃないのに……でも、ホントにそうかも。いきなりフェイスに狙われたし、スレンダーマンは俺を連れ去りたいって言ってたし。やっぱ俺、きっと疫病神だよな。だからこれまでだって、誰も相手にしてくれなかったんだろうし……早く消えちゃった方がいいんだろうな。


「こら! ユイナ!」

 アイリがきつい声を上げた。

「ユート君を悪く言うと、私が許さないからね」


「え……」

 アイリが俺の顔を見てウインクした。

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