「くっそー、キリがないよ」
防護ドームの内側の地面に開いた穴からは次から次へとヒサルキが飛び出してきた。俺はぐるぐる回るローリング……じゃなかった、スパイラルクラッシュで次々にやつらの頭を杖で叩き割った。
もう50匹は倒してるんだけど……頭つぶすとウニみたいな茶色いのがぐしゃっと飛び出して……すぐ消えちゃうけどキモすぎだって。
「もう、どうなってるんだよ!」
「やっぱり最初のヒサルキを倒さないとだめなのかなあ」
「何のんきなこと言ってんだよアプリ!」
「危ない!」
俺に背後から飛び掛かろうとしたヒサルキを、赤ずきんのユイナさんが手に持ったバスケットで粉砕した。頭だけじゃなくて全身がぐしゃっとつぶれて茶色い物体に……キモいです。消えたけど。
それ、超合金でも入ってるんですか? 俺はユイナさんのバスケットを見つめてしまった。
「あ、私のこと馬鹿力だって思ったでしょ、ユートさん」
「え? あ、いや……そ、そんなことは」
ダダダダダダダダダダダ。
アイリのアサルトライフルがさく裂して、俺たちを囲もうとしていたヒサルキの群れを粉々にした。
「ほら! ぼさっとしてるとやられちゃうからね!」
「あ、ごめんなさいアイリ!」
ユイナはまるでピクニックに来たみたいなスキップをしながら、バスケットを振り回してヒサルキを次々に叩きつぶしていった。
それ、もう童話じゃなくてスプラッタ……いやなんでもありません。豪快すぎて俺のスパイラルクラッシュなんか霞んじゃう。
あっちではミウさんがキラキラビームでヒサルキをどんどん消している。ゴスロリのエミリさんの周囲では、ヒサルキが次々につぶれて消えていく。防護魔法の応用で見えない球体を使っているみたいだ。白雪姫のカノンさんは、ヒサルキが出てくる穴を凍らせて次々に閉じていた。ああ、その手があったか。さすがだなあ。
なんだ、みんな俺より強いんじゃないか。
「そんなことないよ。勇気は君が一番さ!」
「もうしつこいなあ、アプリ。勇気になんの意味があるんだよ」
「勇気こそが勝利につながる力なんだからね」
「ああもう、精神論はわかったから」
俺も負けじとスパイラルクラッシュでヒサルキの頭を叩き……。
ん? 負けじと!?
何考えてんだ俺。俺は負け組陰キャなのに。
高校デビューだってすぐ失敗したんだ。キャラ変なんてできるわけないのにさ。
今だってみんなの方が強いんだから、みんなに任せて、端っこで体育座りでもしてればいいじゃないか。どうせ俺なんか、もともといないのと同じなんだから。
「なに急にすねてんのさ、ユート」
すねてないよ。俺いなくたって5人で勝てるじゃん。
「そんなことないよ。君がスパイラルクラッシュで闘ってるから、カノンに穴を凍結する余裕が生まれたんじゃないか」
それは俺を買いかぶりすぎだって。ヒサルキが俺の周りに来るから仕方なく闘ってるだけだから。
「さっきだって闘うぞ俺って言ったじゃん」
それはまあ……みんながやばいかなって思っただけだよ。
「ユート、君はさ、自分を卑下しすぎなんだよ」
してないよ。俺、ホントにダメなやつなんだから。
「ダメなやつがバグデーモンと闘えるわけないよ。今だって、ボクと会話しながら闘ってるじゃないか」
それはお前が無理やり俺を魔法少女にしたからだろ。
俺は後ろから飛び掛かってきたヒサルキの頭を杖(これ、さっきからしゃべってるアプリだけどね)でぶったたいた。
「無理やりにはできないんだよ。君には闘う勇気があったんだ。だから魔法少女になれたんだ」
ああ、そうだ俺、あの時やっぱフェイスに殺されとけばよかったのか……そうすれば……。
「転生なんかしないよ。それは君が一番わかってるはずだ」
「転生しなくてもいいさ。俺、誰にも相手にされなかったしさ、死んでいなくなるのが一番みんなのためなんだから」
「誰のためになんだって、ユート君?」
え? あれ、アイリさん?
突然、声が聞こえ、アイリが横から俺の顔を覗き込んだ。
う……まずいかも。
「え? あ、あれ? ヒ、ヒサルキは?」
「カノンが氷で穴をふさいだから、とりあえずせん滅完了したよ」
「あ、ああ、はあ……そ、それはよかった」
「それより、今の君の言葉だけど」
アイリさん、ニコニコしてる。かえって怖いです……。
「は、はあ……」
「私、たいがい鈍感だけど、君のこと気付かないって思ってた?」
「あ、……いやその……」
「私、君の相棒なんだよね」
「え? あ、ああ、まあ……はい」
「じゃあさ、誰にも相手にされてなくないよね」
「あ、はあ……」
「私、君のことが必要なの」
ああ、それは友だち探すためですよね……。
「君が今、何思ったか、だいたいわかる。でも違うから」
「え?」
「ユート君」
そう言ってアイリは突然、俺のことを抱き締めた。
え? え? ええええ!? 何これ? どういうこと!?
グワン!!!!
上の方から突然、ものすごい音がした。
「なにあれ!? でかすぎる!」
ミウさんが叫んだ。
上を見上げると、先ほどの巨大ヒサルキの倍はありそうな超大型ヒサルキが握った両手を振り下ろし、防護ドームを破壊しようとしていた。
グワン! ミシ……ピシピシ……。
見えないけど、防護ドームがまた割れ始めたみたいだ。
その時、つむじ風が吹き、さっきのオオカミが現れた。
「すいやせん、赤ずきん様。あいつ、デカすぎて食べられません」