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第28話

「あんな巨大ヒサルキになるなんて、やっぱり外からエネルギーが供給されてることは間違いないよ」


 アイリの軍服のアプリが言った。


「どういうこと?」

 アイリが聞いた。


「魔法少女は他の魔法少女の結界の中に入れるでしょ? その仕組みを解読されて突破されちゃったのかもしれない」


「そう言えば、こないだのスレンダーマンも私の結界に入って来たけど……」

 ミウが言った。


「そうだね」


「でも、私たちでさえ結界からは出られないのに、あいつと八尺様、私の結界から逃げちゃったけど」


「ああ、あの時やつら、二進法の0と1の数字の羅列になっちゃったでしょ。もうあれ、コンピュータ言語ですらないからさ、プログラムを閉じ込める結界なんて意味なくなっちゃったのさ……あ! そうか!」


 アプリが驚いた声を出した。


「魔法少女が他の人の結界に入れるのは受け入れ認証システムがあるからなんだけど、閉じ込めたバグデーモンを逃がさないために、結界から出る認証システムは存在しないんだ。でも、二進法まで分解されちゃえば、認証とか関係なく出入りできちゃうってことだよ」


 アプリ……俺、ぜんぜん意味わかんないんだけど。


「バグデーモンはプログラムの怪異だから、突き詰めると全部二進法で記述できるんだよ。0と1にも呪いはかかってるけどね。でも、そこまでバラバラになっちゃうと、プログラムの魔法である結界は検知できなくなっちゃうんだ」


 いや……やっぱわかんないんだけど。


「ボクもわからないんだ。0と1の羅列まで自分を分解して、どうやって元に戻すのか……コンパイラプログラムがどこにあるのか……だからこないだのスレンダーマン、ものすごい脅威ってことにもなるんだよね」


 うう……ますますわからないよ。


「もっとわかりやすく説明してよ」

 エミリが言った。


「はは、みんなには難しすぎるかな。そうだね。まあ要するに、結界をすり抜ける壁抜け魔法が使えるバグデーモンがいたってことさ。ボクらも想定していなかったけどね」


「ああ、そういうことね」

 アイリが言った。


 なんだ、アイリさんもわかってなかったんじゃないか。

 それに、そんな簡単に説明できるなら最初から言えよ、アプリ。


「でも、そうなるとボクらの結界が意味なくなるかもしれないんだ。まあ、今はヒサルキが結界の外に行きそうな雰囲気はないけど、エネルギーはたぶん二進法……壁抜け魔法で供給されてるはずだよ」


「その、エネルギーってなんなの?」

 ミウが聞いた。


「ああ、それはバグデーモン本体と同じでプログラムに憑いたネット空間の呪いだよ。それが0と1の二進法に分解されて、外からヒサルキに供給されてるんだと思う。だからボクも検知できなかったんだ」


「だとするとエネルギーの元を絶たないとだめってこと?」

 アイリが言った。


「まあ、そうなるかも」

「でも私たちはこの結界から出られないけど」

「そうだね。君たちは二進法で記述できないし。結界を解除したらヒサルキが現実世界にあふれちゃうし」


「それなら話は一つね。あのヒサルキを全部いっぺんにぶっ殺せばいいんじゃないの?」


 ああ、アイリさん、また言葉が……。


「それができればいいんだけどね。ボクの推理だけど、今回の場合は最初の一匹がコンパイラじゃないかと思うんだ」


「それなら最初のヒサルキを叩けばエネルギーの供給を絶てるんじゃないの?」

 ミウが言った。


「そうなんだけど、探し出すのは……あれだけの数がいるからなあ」


「あ、それなら私のオオカミを使うのはどうですか?」

 赤ずきんのユイナが言った。

「鼻が利くから、何かを探し出すのは得意です」


 ああ、赤ずきんだけにオオカミを使役する魔法が使えるのかな。なんかメルヘンだなあ。あ、まさかおばあさんも使役してるんじゃないだろうなあ……ちょっと不安。


「そうだね。最初のヒサルキはどこかに隠れてる可能性が高いしね」


「じゃあやってみますね。オオカミ!」

 ユイナが叫んだ。


 つむじ風が吹いたと思ったら、目の前にお腹が膨れた大きなオオカミが現れた。


「ああ、赤ずきん様、この腹の中の石をどうか……」

「こないだまた私を食べようとしたでしょ? お仕置きだから」


 うわ……テイムの仕方が……ユイナさんもちょっと怖い……。


「もうしませんから、どうか……」

 オオカミが懇願する。


「石は取ってあげるけど、ヒサルキの大元を探してくれるかな」

「え? ああ、それはお安いご用です。食っちまってもよろしいんで?」

「もちろん。見つけたらデバッグしちゃって」

「わかりやした。ではまず……」


「エントフェルネン!」

 ユイナがそう叫ぶとオオカミのお腹がすっと小さくなった。


「おお、これで動けやす。それじゃあ!」

 オオカミがそう言うとつむじ風が吹き、オオカミの姿が一瞬にして消えた。


「それにしても、さっきからヒサルキの動きがぜんぜんないんですけど……」

 白雪姫のカノンが不安そうな顔で言った。


 その時だった。

 防護ドームの端っこの方の地面があちこちで、ボン、ボンと膨らみ始めた。


 「キイイ!」「キイイ!」「キイイ!」


 膨らんだ地面に穴が開き、そこからヒサルキが次々に飛び出してきた。


「ユート! スパイラルクラッシュだ!」

 俺のアプリが言った。


「当然だろ!」

 ついそう答えちゃったけど……あれ?

 そんなヒーローみたいなセリフ、俺が言ったの?

 俺、キャラ変しちゃった?


 ってああもう、そんなこと考えてる場合じゃない!

 闘ってみんなを守らなきゃ!

 俺は転生してもいいけど、みんなはそうはいかないからな。


「転生なん……」

「うるさい! 闘うぞ俺!」


「さっすがユート! 勇気りんりんだ!」


 それ、なんか古臭いんだけど……。

 まあいいや。


 俺は体を回転させ、ヒサルキを次々に粉砕していった。


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