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第5話

その頃、青山たちは不思議な廊下を進んでいた。壁からは青白い光が漏れ、足元の石畳は何百年も前からそこにあったかのように古びていながら、驚くほど保存状態が良かった。


「おい、青山」加納が低い声で話しかけた。「上を見てみろ。」


青山が見上げると、天井には無数の星々が輝いているように見えた。だが、よく見ると、それは実際の星ではなく、光る結晶のようなものだった。


「美しい…」白石が息を呑んだ。「まるで星空のよう。」


「これは単なる洞窟じゃない。」加納は専門家らしい鋭い観察眼で壁を調べていた。「人工的に作られたものだ。この石の積み方、接合部の技術…現代のものじゃない。」


「古代のものですか?」青山が尋ねた。


「いや、それも違う。」加納は首を振った。「古代の技術で、こんな精密な造りは不可能だ。かといって現代のものでもない。まるで…」


「時間の外にあるもの?」白石が言葉を補った。


加納は無言で頷いた。


彼らが廊下を進むにつれ、壁に刻まれた模様がより明確になってきた。それらは単なる装飾ではなく、何らかの文字や記号のようだった。


青山はスマホを取り出し、写真を撮った。「後で分析できるように記録しておきます。」


その時、廊下の先から人の声が聞こえてきた。


「聞こえますか?」青山が小声で言った。「誰かいる。」


三人は慎重に前進し、広間のような空間に出た。そこには何と、森田教授と見知らぬ二人の若者がいた。教授は壁に刻まれた文字を夢中で撮影し、若者たちはスマホでSNS投稿らしき操作をしていた。


「森田教授!」青山が声をかけた。


教授は振り返り、青山たちを見ると目を見開いた。「青山くん!君も来たのか!」


「危険ですよ、教授。」青山は近づきながら言った。「ここは一般の人が立ち入るべき場所ではありません。」


「だが、これは歴史的発見だよ!」教授の目は興奮で輝いていた。「この文字を見たまえ!古代の火の呪術に関連する記号だ。そして、この壁画!」


彼が指す方向には、大きな壁画が広がっていた。そこには、赤い着物を着た女性が描かれ、周囲を炎が取り巻いていた。その女性は片手を上げ、何かを召喚しているようだった。


「火の巫女…」青山は思わず呟いた。


「そう!」教授は興奮した様子で頷いた。「伝説の火の巫女だ!壁画の隣には、彼女の物語が記されている。」


「読めるんですか?」白石が驚いた様子で尋ねた。


「部分的にだ。」教授は壁に近づいた。「これは平安時代末期の特殊な呪術師の文字と、アイヌの記号が混ざったものだ。『火の巫女』は強大な力を持つ存在で、磐梯山の守護者だったらしい。だが、彼女は『背信』により『封印』されたとある。」


「背信?」青山は眉をひそめた。「誰に対する?」


「それが…」教授は首を傾げた。「『村人たち』とも『神々』とも読める。翻訳は難しい。」


加納は二人の若者に厳しい目を向けた。「おい、お前たち。何をしている?」


若者たちは少し怯えた様子だったが、一人が答えた。「ライブ配信です…このすごい場所を世界に伝えたくて…」


「何をバカな!」加納は声を荒げた。「危険が分からんのか!すぐに中止しろ!」


その時、突然、彼らの足元が震え始めた。


「地震?」白石が不安げに周囲を見回した。


「いや、違う。」加納は壁を見つめた。「壁の模様が…光っている!」


確かに、壁に刻まれた文字や記号が青白く光り始めていた。そして、その光は次第に強まり、やがて一つの場所に集中していくように見えた。


「まさか…」青山の目が見開かれた。「ライブ配信の電波が何かを起動させた?」


その瞬間、壁の一部が突然、内側に引っ込んだ。隠し扉が開いたのだ。


「なんということだ…」教授は驚きのあまり言葉を失った。


扉の向こうからは、より強い青白い光が漏れていた。そして、かすかに女性の声が聞こえてくるようだった。


『来たれ…選ばれし者よ…』


「聞こえましたか?」青山が尋ねた。「あの声…」


教授と若者たちは首を振ったが、白石はゆっくりと頷いた。「かすかに…何かが呼んでいるような…」


加納も困惑した表情で言った。「俺にも…何かが聞こえる。だが、はっきりとは…」


青山は決意を固めた。「私が先に行きます。」


「待て、危険だ。」加納が彼の腕を掴んだ。


「でも、誰かが行かなければ…」青山は真剣な表情で言った。「それに、私は『選ばれし者』です。呼ばれているんです。」


「だが、無謀な…」


「大丈夫です。」青山は彼を安心させるように微笑んだ。「それに、先生たちをここで待機させるのも危険です。外へ避難させる必要があります。加納さん、その役目をお願いできませんか?」


加納は不満げな表情を浮かべたが、状況を理解していた。「わかった。だが、無茶はするな。十分で戻ってこい。戻らなければ、俺が迎えに行く。」


「はい。」青山は頷いた。


「私も行くわ。」白石が一歩前に出た。「医療担当として、あなたを一人にはできないわ。」


「白石さん…」


「議論の余地はないわ。」彼は決然とした表情で言った。「加納さんは教授たちを避難させて。私たちは十分で戻ります。」


加納は渋々頷き、教授と若者たちを促した。「さあ、出口に向かうぞ。早く。」


教授は去り際、青山に言った。「気をつけたまえ、青山くん。この場所は…時間の法則が違うかもしれない。」


教授たちが去り、青山と白石は新たに開いた扉の前に立った。


「準備はいい?」青山が尋ねた。


「ええ。」白石は頷いた。「一緒に行きましょう。」


二人は深呼吸し、扉の向こうへと足を踏み入れた。


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