「本当に紅羽さんは無茶ばかり! いきなりあんなのを倒せなんて!」
二階に上がって直ぐの敵だったからか、そこまで攻撃力もHPも無かったため難なく倒すことはできた。
けれど花音の方は少しHPを削られていた。
「回復系のスキルもあるんだな」
俺は回復スキルを使って花音のHPを回復した。
「ありがとうございます」
HPは数値化されており、俺達のHPは1万。そしてスフィアのHPは5万。
回復スキルで回復できるのは一度で1000まで。クールタイムは回復した量によって増減するらしい。
今回復したのはHPは400。そしてクールタイムは4000秒。つまりHP1を回復するごとに10秒のクールタイムということだ。
「え、ちょっと紅羽さん? なんで一階に戻るんですか?」
「ちょっと気になることがあって」
そう言って俺は初期地点である一階へと降りて行った。
「何が気になるんですか?」
「一度上の階に上がった場合、下の階に戻ることができない。なんてことがあったらむやみに上の階に上がるのはやめた方が良いだろ?」
「た、たしかに……」
これで次の階の敵のHPだったりをあらかじめ知ることができる。
それに合わせて前の階でスキルのレベルを上げていけば良い。
だけど――。
「紅羽さん?」
「もう一つ気になることがある」
☆
「一体彼は何を考えているのでしょう」
紅羽くん達の遊戯は生徒会メンバーと一緒に理事長室で視聴している。
「さぁ、全く。彼の考えることなんて分からないよ」
「一階から全く動こうとしない。諦めたって事なんじゃねぇの?」
「それなら動かないのはおかしいだろ。敵にやられに行った方が良いに決まってる」
神との遊戯開始から三時間。彼らは二階の敵を倒した後、一階に戻り一切行動を起こしていない。
全く……何を考えているのか。
「一度シリウスと戦った君達でも彼が何をしようとしているのか想像つかないのか。一体いつまでそこにいるつもりだい、紅羽くん」
「私には一つ、心当りが……」
そう言って生徒会長、妃菜が答えた。
☆
「いつまでここでこうしてるんですか紅羽さん」
「おかしいんだよ。一階に敵が居ないのは」
「どういう意味ですか?」
「神の言った勝利条件と敗北条件はお互いのHPもしくはスフィアのHPがゼロになること。もし一階に敵が居ないなら一体誰がスフィアのHPをゼロにするんだ?」
「……あ」
どうやら花音も気づいたようだ。
普通の敵がここに来るとは考えづらい。
つまりここ、一階に来る敵が居るとすればたった一人だけ。
「ッ⁉」
「きゃっ!」
突如花音に向って青白い炎の玉が降り注いだ。
俺は花音の腕をひっぱり花音への命中を防いだ。
「やっぱりな。来たかシリウス」
「余に来てほしかったんだろ?」
「火の玉は別に来てほしくはなかったけどな」
「ふふふ、余の攻撃を避けたのは褒めてあげよう。けれど君達まだ二階までしか到達してないのに余を呼ぶにはあまりにも早すぎるんじゃないかな?」
そう言ってシリウスは俺を指さした。
指の先端からはビリビリと電気が小さく見えている。
「余のレベルと今の君たちのレベルの差だと、これを食らったら一発で終わりだよ。それに余のHPももう見てるでしょ? なら君達にできる事はもう一度二階に向ってスキルのレベルを上げる事、でしょ? じゃあ余は最上階で待ってるよ」
俺が一番確かめたかった事。それはシリウスのHP。
もうこれで分かった。
シリウスは倒せない。
【シリウス:HP計測不能。スキルレベル99】