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第19話 ヴィーナス様、俺もう喋りたくないです

 気がつくと、俺はベッドの上に寝かされていた。


 あれ……? どうしてここに?


 「星くん、起きましたね、あっ、また気絶すると悪いので気絶しない魔法をかけておきましたよ……ゆっくり目を開けてください?」


 俺は目をこすりながら、状況を確認していく。


 「気絶?一体なんのことですか……ご飯を食べてから記憶が」


 「……覚えてないんですか?」


 その言葉に不安を感じ、俺はゆっくりと身体を起こし、ヴィーナス様の方に視線を向ける。


 ——か……可愛すぎる、ヴィーナス様、なんで教師もののコスプレをしてるんだ?


 ヴィーナス様が口元を歪ませながら俺に近づき、ベッドに腰をかけ、顔を覗き込んでくる。


 「……星くん、女教師が性癖なんですよね?」


 覗き込まれたことによってヴィーナス様の胸元に視線が吸い込まれる。待って……近づかないで……


 ヴィーナス様とゼロ距離になった。


 「星くん、エッチ......覗き癖もあったんですね」


 もう、やだ、胸元見てたのもバレてる。

 覗いたのはしょうがないにしても……なんで、バレてんだよ、何も言ってないよ……黒歴史上映会でも、まだそこは映ってなかったし……


 「ふふ、本当に覚えてないんですね。

 私のどこが魅力的か熱く語ってくれたじゃないですか?」


 は……?


 なに言ってんの、ヴィーナス様……

 俺が? そんなこと……言うわけ……


 戸惑っている俺に畳み掛けるように耳元で囁く


 「私がエッチだって、すごいこと言っていたんですよ?恥ずかしいから嘘をついているんじゃないんですか?」



 隣に密着され耳元で囁かれることによって星の頭が正常に働かなくなる……

 顔が熱い、そんな恥ずかしい事絶対言ってないはずなのに、もし本当だったら怖い……


 「え、いや……あの……」


 ヴィーナス様は先ほど、外に置いていたカメラを取り出して操作を行う


 「本当はこの世界に来て人間の子が魔法を習得できるかの記録映像として撮影していたんですけど星くんのお宝映像が撮れてしまいましたね」


 お宝映像......?


 ヴィーナス様のこの雰囲気はなんだ?

 なんでこんなに嬉しそうなんだ……


 何かに思いついたように、俺に話しかけてくる。


 「あっ、先に動けないようにしないと♪

 また、星くん逃げちゃいますもんね」


 状況が理解できない、俺は何を……撮られてる?


 「なんでですか?暴れませんよ?」


 ヴィーナス様は軽く微笑みながら、指で音を鳴らす。


 「ふふ、念のためです。この映像の姿は星くんの黒歴史映像と同じぐらい衝撃的でしたよ?」


 ——衝撃的?この短時間で俺は何をしでかした?必死に思い出そうとするが思い出すことはできなかった。


 「その、ヴィーナス様、ちょっと距離が近すぎるんで離れてください」


 ヴィーナス様は揶揄うような声で囁く


 「いやです♡ふふ、今の星くん、心臓の音が私にまで聞こえてきてますよ?」



 え、うそ!そんな聞こえるはず……


  「本当にからかいがいがありますね!

 ほら、星くん来ますよ、よぉく見ていてください。」


 映像が始まった。


 ———映像に映っていたのはヴィーナス様の教師姿をベタ褒めし、どこが魅力的かどんなところがエロいかを詳細に大きな声で説明している自分の姿があった。


 「黒と白のコントラストが最高すぎて目から離れない、なんで1枚脱ぐだけでこんな魅力に違いが出るの……ヴィーナス様はひつまぶしなの?スーツを着ると綺麗で脱ぐとセクシーに、なんでそんな魅力的なの……ゴホッ——」


 映像の出来事に脳の処理が追いつかなくなって間抜けな言葉が口から滑り落ちてしまう。


 「……………へ?」


 みるみるうちに顔が紅潮していき、ついには耐えきれなくなり叫び始めた


 「ぎゃあああああああああッ!?

 な......なんてものを流してるんですか」


 暴れて、映像を止めようとするがヴィーナス様の魔法によって動けない。


 すでにヴィーナス様のドSスイッチはオンなっている。


 「私、驚いてしまいました……こんなに星くんが私のことを真剣に褒めてくれるなんて」


 俺はうろたえながらなんとか言葉を返す。


 「…………お、俺、それ知りませんよ?」


 目の前のヴィーナス様は満面の笑みを浮かべる


 「現実を受け止めてください、気絶する前の星くんの姿です♡」


 気絶する前の俺なにやってんだよぉぉぉ!

 バカなの?いやバカだ、バカすぎる。


 ほんと、どうしてこうなった……

 でも、弱みを握るつもりなら、別にわざわざ今見せなくたって……俺だったらここぞの時に見せるのに……


 ヴィーナス様は楽しそうに目を細めた。


「ものわかりがいい子は“好き”ですよ」


 その一言にビクッとする。


 ……もう、俺なんかおかしくなってる。

 “好き”って言葉にも反応するようになってるし……絶対このコスプレのせいだ、これが俺をおかしくさせている。


 「ヴィーナス様、なんで今、この映像を見せたんですか……?」


 「これ、このあと研究所に提出したくて、いいですよね?星くん」


 「いいわけあるかぁぁぁぁッ!!」


 自分の眉がピクピク震えるのがわかる

 いや、なんでだよ、なんの研究だよ!


 ヴィーナス様は微笑んだまま、さらりと答える


 「人間の男の子の生態研究ですよ、星くん」


 「……ダメに決まっているじゃないですか、

 この醜態を他の神様に見られるってことですよね?」


 俺の言葉を聞いたヴィーナス様は、何かを試すような目でニヤリと笑う。


 「……私には、醜態を見せてもいいんですか?」


 ———しまっ……余計なことを言った。

 この女神、俺のことをからかって遊ぼうとしてる


 「……そうやって、揚げ足ばっかり取るんですから、いいですか、絶対にダメですからね!」


 そう返答する俺にヴィーナス様は提案してきた。


 「じゃあ、私の言うこと聞いてくれますよね?」


 ……絶対また、えぐいやつ!


 「いえいえ、今回はそんなにしませんよ!」


 「絶対うそです」


 軽いわけないじゃん、あーあ、また地獄を見せられるのか、いやだって言っても強制だしな、せめて軽く終わるといいな。


 「……優しくしてくださいね?」


 ヴィーナス様の顔がなんか蕩けてる、なんで?


 「全くこの子は……希望どおり優しくしてあげますよ。これから2つの魔法をかけます。」


 いや、優しくない、優しくするって……


 「2つもですか?」


 「はい、1つ目は正直になる魔法です!

 今回は色々改良して、前回の上映会のおまじないを複合しています。意識もしっかりあるように調節しました。」


 目の前の悪魔は嬉しそうに語る。


 この悪魔、なんでそんなことに労力使ってるの?そんな時間いつあったの?おかしいよね?

 俺は、恐る恐る尋ねる。


 「——あと、ひとつは……?」


 「絶対に答えないといけない魔法です。」


 「鬼畜だ……そのコンボ!!」


 「星くんは、優しく、ゆっくり、じっくりいたぶられるのが好きみたいですし、次からは違う種類にしてあげますので我慢してください」


 ふざけんなよ、この女神、いや悪魔!

 言ってること、神として終わってる……!


 反論しようと口を開いたが……


 「ちょっと——」


 ヴィーナス様は有無を言わさず指で音を鳴らし、魔法をかける。


 「ほら、星くん、目を逸らさないでちゃんと、私のこと……見てください」


 俺は悟った。さっきまでバカだと罵った自分を心の中で讃える。


 ———これは気絶するわ、無理だわ………

 だってもう完璧だもん、綺麗だし、スタイルいいし……映像の俺、良くこの状態であんなに熱弁できたな……?


 「星くん、そんなに褒めないでください、照れちゃうじゃないです」


 俺の目にヴィーナス様のにやにやした笑顔が映る


 ……絶対照れてないじゃん、その顔!!

 もう嫌だ、この女神……ずるい


 「まぁ、流石に1日中は私も疲れますし、午後からは魔法の特訓もしたいので午前中だけにしましょうか」


 午前中、いやそれは耐えられない……


 「いや、あと2時間もあるじゃないですか?」


 きょとんとした顔になりながら聞いてくる


 「え、嫌でしたか?」


 答えたくなくても口が勝手に動く。


 「いえ、光栄です」


 俺ぇぇ!少しは取り繕えよ!

 なんでこんなにすらすら動くんだよ

 俺の口!普段、光栄なんて言葉使わないだろ!

 やばい、この魔法。今、そんなこと考えてなかったよな?なに心の奥まで正直に答える魔法なの?


 「ふふ、さて、初めて行きますか、最近星くん調子に乗ってますもんね?そろそろ一回立場を解らせないといけないって思っていたんですよ…..」淡々と告げていく


 「星くん、まず忘れてると思いますけど、本来あの上映会は2回やる予定でした。覚えてますよね?」


 俺の額から汗が滲みでる、

 そうだ、そうだった、そういえば1回しか見てない……


 焦っている俺を見てにっこりと微笑む


 「まあ、それはいいですよ、星くんと食べるご飯は楽しかったですし見るのは1回で許してあげます」


 え、許してくれるの?じゃあなんで?


 「あ、ありがとうございます、ヴィーナス様、その怖い笑顔はなんですか……?」




 「昨日の夜、覚えてますか?」


 ……たしかあの夜は、


 「ベッドを勝手に使ったことですか?

 それは、すみません、あのとき本当に疲れていて———」


 ヴィーナス様に途中で遮られる


 「そこじゃありません、そのあとです。」


 ……そのあと?

 寝てる間に何かしたってこと?


 「いやいや、動けなくなっていたじゃないですか!」


 笑顔のままヴィーナス様の目がどんどん冷たくなっていく


  思い出せ!寝てる途中だぞやることは限られるはずだ!  


 「もしかして、寝てる間に胸とか触ってしまったりしましたか?」


  「いえ、触られていません」


 え、わからない、本当に覚えがない……


 「あら……わかりませんか?この私をベッドから蹴飛ばすなんて。ふふ、相当お疲れだったんですね……?」


 やばい、流石に今回のは俺が悪い……

 動けなくなっていた理由って……そういうことだったのか、謝ろう……非は俺にある。


 「すみませんでした。お怪我とかなかったですか?」

  「怪我は大丈夫ですよ、しっかりと記憶には残ってますけど」


 にっこりと俺に圧をかけてくる。


 「じゃあ、私の言うこと聞けますよね?」


 ……実は、あんまり怒ってないんじゃ

 言うこと聞かせるための口実でキレてるふりしてるんじゃないのこれ……?


 「聞けないんですか?」

  「いえ、聞かせていただきます!」


 ヴィーナス様は満足そうな顔をして、要求を言ってくる。


 「じゃあ、私のこと先生って呼びなさい?」


 思いがけない言葉に固まってしまった。


 「い・い・で・す・ね?」

 「……は、い、せん……せい」


 ヴィーナス先生と俺の個人授業が始まった。


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