親譲りの無鉄砲でファラオの時から損ばかりしている。ローマの大将軍が来た時には絨毯の中に隠れて従者に運ばせ、将軍の前でコロコロ転がり登場したことがある。なぜそんな
クレオパトラの人生は、そんなことばかりであった。最後は毒蛇に体を噛ませ自害。それから2000年の時を経て、クレオパトラは現代日本に転生した。
相変わらずの美貌を武器にゆるゆるOLとして暮らしていたクレオパトラは、かのシェイクスピア作品の中で自分が酷く言われていることを知る。
彼女はシェイクスピアに復讐するため、彼を超える劇作家を生み出すことを決意。そして偶然知り合った大学生の男・篠田を自宅の余っていた部屋に住まわせ、執筆活動をさせることにした。
ボロアパートの一階を借りていた篠田は、突然タワマンの上層階暮らしになり、窓から外を眺めては地上が恋しいと嘆いていた。だが嘆きながらもなんだかんだ適応し、学生生活のかたわら家事をして、執筆活動を始めた。
「どうだ篠田。劇作家への道を歩み出したか」
夜。仕事から帰ってきたクレオパトラは、パソコンに向かう篠田に声をかける。
彼女は家の外ではOL『倉井晴奈』になり、帰宅すると気が抜けるのか、古代エジプト最後の女王・クレオパトラになる。
「お帰りなさいパトラさん。そもそもなんですけど、今の時代、劇作家で名を成すことは難しいかと。単純に筆の力で名を成すなら小説家とか、そっちの方がいいかもしれません」
「そうか。ならそれでいい。シェイクスピアの名が廃れるものが書けるならなんでもよい」
「それも難しいですけどね。そもそも小説家になるには……なんのツテもない俺が小説家になるには、方法は大きく3つ。出版社に持ち込むか、なにか賞を獲ってデビューするか、インターネットで小説を公開して人気が出て、出版社に声をかけられるのを待つか」
「どの方法が手っ取り早い?」
「どれも時間はかかりますが……実は賞への応募を考えている話があるんです。それはそれで進めつつ、ネットでも小説を書いて、書籍化の打診を狙いましょうか」
「ふむ。ネット小説か。賞に応募するものを転載すればよいのではないか?」
篠田は椅子の背もたれに寄りかかり、ぐいーっと背を伸ばす。
「新人賞は未発表作品に限る場合が多いですから。ネットに公開しちゃうと応募規定に反しちゃいますからねえ。それに賞に応募する予定のは、結構『硬め』な話なんです。バリバリ純文学なんです。ネット小説はもっと『柔らかく』ないと」
「なんだ。ネット小説とは特殊なものなのか?」
篠田は体を起こし、パソコンをカタカタ、
インターネットを立ち上げ、とあるWebサイトを開いた。
クレオパトラは篠田の横からその画面を覗き込む。
「これ……ネット小説を投稿するサイトの中で一番大手のサイトなんですけど。見てください、この人気ランキング」
「……ふむ。どれも題名が長いな」
「そうなんです。毎日大量に小説が投稿されるこのサイトで、知名度のない新人が作品を読んでもらうためにはタイトルが一番大事なんです。タイトルだけで読みたい!と思わせないとダメなんです」
「なるほど。……新着小説の中にひとつ変わったものがあるな。なんだこの『パっちゃん』とは」
「これは変化球で攻めてますけど、まるで内容がわからない。ダメです。このサイトで生き残るにはタイトルだけでどんな話なのかわからないと。なんだかわからないものに時間を割けるほど読者は暇じゃないんです」
「ふむ、タイトルか……。……異世界……転生……悪役令嬢……無双……。なんだ。人気の作品は同じような単語が使われているな」
篠田はクレオパトラを見て、ニヤリとする。