目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 パト姫

 買い出しをば早や済みぬ。深夜のコンビニいと静かにて、店員まじ眠そうなり。今宵は筆乗りたりしパトラが急に「カップラーメン食べたい」言うので、夜道を歩き買いに来たるのは俺一人のみなれば。


 というわけで篠田は一人、近くのコンビニへの買い出しを終え、レジ袋をブラブラ揺らしながらパトラの待つマンションへ向かっていた。


 深夜2時。金曜日だからか、街には普段より人がいる。


 時折すれ違う陽気な酔っ払いたち。

 キャピキャピした女の集団が篠田に声をかけてくる。


「ねぇ君!イケメンだね!一緒に飲みに行かない? おごるよ〜!」


 篠田は無言で頭を下げ、足早にその場を立ち去った。


「けちー!顔だけの男なんてつまらないぞー!」


 背後から何か聞こえたが、篠田は歩みを止めない。


 ……クレオパトラとのなんちゃって同棲を始めて、はや3カ月。


 パトラの「シェエイクスピアを越えよ」という無茶振りに応えるため、篠田は自身の新人賞への応募小説と並行し、小説投稿サイトへの投稿を続けていた。


 当初篠田は、真の転生者であるパトラの書いた転生物語を、順次サイトで公開していこうかと思っていた。だが、なぜかパトラに断られた。


 仕方なく、自身で書くことにした。ジャンルはズバリ、「異世界転生チートハーレムざまぁ」もの。市場のニーズを分析し、売れるパターンを研究した上でそうしたのだ。


 ありふれた題材ではあるが、己の文才をもって本気を出せば、すぐにでもランキング上位に入り、出版のお声がかかるのではと、篠田は甘い期待をしていた。


 だが、なかなかうまくはいかない。思ったように数字が振るわない。もともと彼の好みではない題材だったこともあり、篠田はすぐにそちらの執筆に飽きた。


 一方、パトラは自身の転生物語を楽しそうに書き続けている。なぜかあの後から書いたものをを見せてくれなくなったが、彼女は仕事から帰宅するとすぐにパソコンにむかい、日付が変わる頃までカタカタと文字を打ち込み続けている。


 そんなに夢中になるほど、パトラは何を書いているのか。篠田がこっそり覗き見ようとすると、見るんじゃないと恐ろしい顔で怒られた。


 篠田はますます、パトラが何を書いているのかーー中学生時代のパトラと、数学教師・半村との物語の続きが――気になって仕方なくなっていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?