旧世紀宇宙開発機構代表 ジーク・カリウス
宇宙を旅する事に、必要な物は、なんだろうか?
無人地域に、1つだけ何かを持っていけるとしたら、何を持っていく? みたいなよくある質問だけど、まずは考えてみてほしい。
………………考えたかな? 色々あると思う。食料。燃料。水と空気。宇宙船や宇宙艇。高性能AIや、高性能な巨大ロボット。どんな人でもたった1つなんて、すぐに決められないと思う。
けど、けどね。実は答えは、たった1つで、とってもシンプルなんだ。
宇宙を旅する事に必要不可欠な物。それは最初から決まっている。惑星だ。相応に水を湛えて、重力がちゃんとあって、生き物が生きる星があれば、それで十分なんだね。
だから僕の家。イルマ・コンツェルンは、星のような物を作って売ったり、補修したり、剪定工事を請け負ったりして、生活している。
「お兄ちゃん起きてッ!! お・き・な・さ・いぃいッッ!!!」
誰かに語りかけていたような夢と睡魔から、目を開く。昨日はSNSで「# 胸だけで十リポスト来たらえっち」を、ずっと読んでいたから、眠い。
愛すべき
「リア……今日も、元気だねぇ……」
「今日は寝坊しないって言ったッ!!!」
気持ちいい睡眠カプセルに、もう少し
僕が居ないとリアは事業所に出入りできないし、イルマさんも迎えに行けない。少し早めでも起こしたい気持ちは、眠い。
「………起きないとぉ。このカプセルをバラして、お昼ご飯にするぞぉぉ!」
「はい今すぐ起きたよさっさとご飯食うぞ!!」
誕生日に奮発して買った最新型安眠カプセルを、お昼ごはんにされちゃ堪んない。内側から操作してカプセルのフタを開ける。
ギャーギャー言いながら抱きついてくるリアとリビングで、急いで食事をかき込む。
「おや、お出かけですか。カマリアさん。アローさん?」
「うん。後お願いクジョーさん!!」
「急ぐぅのぉおー!!!」
メイドのクジョーさんに挨拶して、一等地の屋敷から、
トンネルを抜けると、葉緑素の薄緑色の空。更にその向こうには、透明樹皮防壁を隔てて、火星と木星の間にある
ここ、ローゼスは、その中の小惑星に作られた、宇宙都市の1つ。事業所が見えてきた。
もう、我らが
「あっち!! オート切って!!」
「え、そっち別搬入口だろ!?」
「あっちあっち、あっちなのぉッッ!!!」
ダッシュボードをバンバン叩いて、リアがまたギャーギャー言い始めた。けど彼女はすっっっっごく
それに、たいてい目を輝かせてる時は、何か、特別がある。
「見てッ!! デッカいッッ!!!」
「おぉ……!!」
別搬入口の向こう。初めて見た二十メートル近い
◇◇◇
低重力エリアに入った途端。すさまじいマニューバーで、リアは飛び出して行く。
全力で追いかけないと、彼女みたいな
「御曹司! もう来たんで!?」
「家のじゃじゃ馬が、アレ前に待てると思う!?」
事業所のおっちゃんたちにも驚かれた。いい加減13歳にもなってはしたないから言って聞かせて、スパッツ履かせてるけど、欠片も気にしやしない。
流石に、搬入の邪魔になるほど近くに行かなかったので、彼女の襟首をつかまえて事無きを得た。
「アレ、動くの!?」
「上手くは行かないだろうね。メインは生きとるけど、いくつかイカれとるんだよ」
プシュップシューっとスラスター音を響かせて、骨董品の車椅子兼用宇宙服が近づいてきた。リアそっくりの赤い髪に、童顔だが精悍な顔立ち。
イルマ・コンツェルンの支社長で、僕の親代わりで、歳の離れた姉みたいな女性。
今日も豊満な胸元が眩しい、イルマさんだ。
「イルマ!!」
「あははっ、リアちゃん。良い子にしてたかい?」
「イイコにしてたよ!! イイコしすぎたくらいだよ!!!」
どの口が言うんだか。今日もイルマさんは、デレデレにリアを抱きしめて甘やかしている。実に愛すべき日常の風景だけど、早く向こうの二十メートル級の事を聞いてみたい。
「なんであんな、バカデカいんだろ……?」
「モノコック構造……ある種の外骨格と旧世紀の動力機構を入れるには、このくらいデカくないとダメだったのさ。ある程度攻撃に耐えられないと、兵器として欠陥品だからねぇ……」
兵器。人が操縦して戦争するロボット。僕の
僕の「
とどのつまり。いざと言うとき食料になったり、空気や水を単独で生産したり、
だから、安眠カプセルだって、
回収機の主力兵装かな。腕部内に付いてる二門の砲口が見えるけど、口径が大きすぎる。レーザーを収束できる技術が、まだ無かったのかな。
「まあ、いろいろ技術的な御託はあるんだろうが、アロー。根っこは分かるかい?」
「根っこ、なにそれ?」
「行ったことない遠くへ、少しでも行かせたかったんだろうさ、一人でも多く共に。まるで友人みたいに、たとえ見せかけでも。だから、あたしらの先祖は、人型に作った」
「遠くへ……」
遠く。誰も行ったことも無い場所。そんなところ、あるんだろうか。これだけ色々発展しているのに。
現在では、高性能な
宇宙空間由来の新合金や、遺伝子改良された植物由来の部材や部品。これらのおかげで、宇宙では大型の人型汎用機器を作らない方が、むしろ非効率なまでに、工業力が著しく向上しているのに。
「固定ロックは終わったみたいだね。せっかくだ。手伝ってお行き」
「………………?」
「リア、どうした?」
乗れると思って元気よく「はーい!!!」といつも通り返事をすると思っていたリアが、突然隔壁の方を向いて目を細めた。隔壁の向こう側は博物区だ。荒れた旧世紀の街並みしか、ないはずなんだけど。
「来るよ……」
「来るって、何が?」
「戦う、ための……いっつ……!!」
「うぁっ……!!?」
耳が痛い。キィーンって、耳鳴りがする。おかしい。痛い。僕の身体は低重力に慣れてるはずなのに。押さえた指先がぬるっとする。わずかに血が付着している。
「突然どうしたんだい。2人とも!?」
宙に浮かぶイルマさんの遥か向こう側。分厚い隔壁から、青白いレーザー光が、飛び出ている。
あれは、一体。まさか、隔壁を壊しているのか。
伸びた青白い光が隔壁の外側を溶かしながら、正四角形に動いていく。ガァン! ガァンッ!! と乱暴に隔壁の向こうから、体当たりでもしているような、爆音が。
「お、お兄ちゃん……!」
「リア、危ないから、僕の背に!」
異様だ。僕がリアをかばう間に、無理にこじ開けられた隔壁が宇宙に飛び出して「ソイツ」が姿を現した。
あんな
「いかん!! 捕まれ!!」
「きゃあああああああ!!?」
強い風に吸い込まれそうになる。暴風が壊された個所から宇宙に出ていく。当たり前だ。
ここは独立機密区画で、パンパンに空気の詰まった風船の口を、真空に近い何も無い宇宙の中で、いきなりこじ開けた状態に近い。
イルマさんが車椅子兼用宇宙服を操作して、固定用アンカーワイヤーを出してくれた。流されかけたリアを捕まえて、緑の巨大球体の近くで耐える。出てきたゴーグル付きの
なに考えているんだ。今出ていった空気だって一財産だ。これは明確な、重犯罪行為だぞ。
バイザー付きの
「待っ……!!?」
ぶっ放しやがった。撃ち込んできやがった。一瞬で街は、レーザーの応射が吹き荒れる、戦場になってしまった。
ここからでも見える。分かってしまう。人が、生命が、無惨に散っていく。
「
イルマさんの一喝で、背中を叩かれたみたいに背筋が伸びた。そのまま非常時訓練通りの反射行動で、全員イルマさんに傾注した。
「スーズ!!」
「イエス・マム!!」
「今すぐあのキチガイ共を止めな!! 搭乗割り、スーズは回収1号機。カニンガム回収2号機、この、緑のデカブツは……!」
イルマさんが僕を見る。戦闘や操縦訓練は、十分に行っている。動かせない事は、……嘘だろ。
「
「物資をよこせッ!! 乗り込まれたら面倒だ、人質は多く要らん。デカブツを撃つぞ」
物資不足の海賊か。砲塔がもう、こっちを向いている……!
「っ……退避ーーーッ!!?」
青白い光がグワって広がって、雨のように振り注いでくる。直撃だ、間に合うもんか。死ぬ。リア、リアを守らないと。死んでも。
「動く……」
巨大なしろがねの腕に、視界をふさがれる刹那。リアの呟く声が、僕には、はっきりと聞こえていた。
◇◇◇
あれは無理矢理、レーザー粒子の収束率を上昇させた攻撃だったのだろうか。きっと二発目はレーザーが上手く収束できなかったんだろう。グズグズに砲塔が溶解している。
「ナマモノ入りかよ!!?」
攻撃してきた機体から、音声が聞こえる。バイザー付きのパイロットはコンソールを操作して、故障した大口径レーザー・ランチャーを廃棄したみたいだ。
突然、謎のデカい腕が球体から飛び出たかと思うと、僕たちをかばった。球体が壊れたわけじゃない。本当に近くで見ても、ぬっと腕が生えて、突き出ているようにしか見えない。
「お兄ちゃん!!!」
リアが球体に向けて指をさしている。彼女も耳を押さえている。耳が痛い。でも、みんなを守るために、今はッ!!
「何か」を感じる方に、思いっきり飛び込む!! 眩しい、光って、光って、光っている。虹色の渦の中、確かに見える……!
「(コックピット! これは、流体保護材!?)」
流体保護材。主に超高速で動く専用機体の操縦に用いられる。コックピット全部を満たすクッション性のある、非正規品のジェル状重力加速軽減材に似ている。
もがいてそのままコックピットに座る。呼吸もできている。聞こえる。どうすれば良いか「コイツ」が、全部僕に聞かせてくれるッ!!
「死ねよやぁあああああっっ!!!」
ブースターを
「アロー!? くそったれ、よくもぉおッ!!?」
「お兄ちゃんなら、大丈夫…………」
「リア……?」
「戦うための力……その名は……!!」
「ブン
しろがねの右腕がバイザー部品をガッチリ掴む。
「しまっ、メインカメラがッ!!?」
武器、
「そ・こ・だぁあああああああッッッ!!!!」
引きちぎる勢いを利用して、同時に思いっきり身を乗り出す。頭突きを相手の胸部にねじ込んで、そのままトリガーを引く。頭部装甲が迫り上がり、毎秒64発のレーザー……じゃない!!?
「うわぁあああああああッッッ!!?」
ドキュッ、ダダダダダって、なんか出た!!?
とっさにパルス・シールドを構えたバイザー付きは、飛び出た何かを受けきれず、機体を穴だらけにされて、倒れて動かなくなった。
撃墜、1機。
敵を倒せた、守れた。みんなを、リアを。
「な、なんだ、アイツは……!?」
「今の攻撃、小さい光しか無かったぞ!?」
「ちっ……遮蔽が多すぎる! ランチャーで狙え、前に出ろ、前に!」
敵機がレーザー・ランチャーを担いで、迫ってくる。前衛が攻撃を受けるつもりか、縦列に。
落ち着け、今しか無い。ジャイロの初期化を確認。各部の走査波をアクティブ。敵機の位置を再確認。二時方向に直列。
よし、フットペダルを強く、一気に踏み込む。
「飛べる……!!」
かっ飛ぶ。とてつもない勢いで、景色が後ろに回って流れていく。ブースターを吹かすまでもなく、距離800メートルを、たった一瞬で詰めれて。
「え……?」
「そぉおこぉおおおぉおッッ!!!?」
十メートル大のバイザー付きに向けて、二十メートル大のマドナグが前方宙返りして、二体まとめて、突き出した両膝で
なんて異常な出力。重力加速がキツい、キツ過ぎる。せめてパイロットスーツが欲しい。耳も痛い。これ、長くは持たない。
「う、あ……?」
馬乗りにされたバイザー付き二体は、衝撃でパイロットが気絶したのか。多くの電装品から火花を飛び散らせて、複合センサーがあるはずのバイザーも、点灯せず沈黙している。
撃墜、二機。
なんとか、なんとか、止められた。勝てた。
遠く、見慣れた先輩の
これが、僕と彼「マドナグ」が、共に戦場を駆け抜ける日々の、始まりだった。
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今回のまとめ。
ローゼス製の製品は、自然科学と機械科学の結晶。データバンクも豊富で「宙域汎用人型機械」を製作しない方が非効率。
主人公「アロー」君と「リア」ちゃん。回収機の「マドナグ」と出会う。
アロー君。襲撃してきた謎のバイザー付きのロボットを、マドナグに乗り込んで三体撃破。後に操縦が従来機よりキツすぎて、気絶。
新作投稿だよ!! SF宇宙戦記物で、ちょいエロもありだよ!! 言動はガッツリエロだって!? うん、一部そうねぇ?
22話完結で書き終えてるので、夜もご安心。
これ書いてるの、すんごく楽しい(欲望まみれの邪心スマイル)。
願いを言う時は大きな声でッ!! 悪口を言う時は、もっと大きな声で、愛を沢山込めてッ!!
マドナグにアローくんが乗り込んだシーンは、アニメで見たい! (1回目) オープニングのBGM付きで見たい! (1回目)
Q。この小説のウリは? A。実在性の高い操縦猫写と、通信のやり取り。ヒロインの可愛らしさ「マドナグ」の変化。主人公「アロー」君の反発力などです。
初回の反応を見てから、毎日投稿を初めたいと思います。今回はストレス展開と言えるような描写はあんまり無いです。無いよね? (ヾノ・∀・`)ナイナイ。
あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!
以下その方法と、主人公「アロー」君とヒロイン「リア」ちゃん。ついでに「マドナグ」の初回ご挨拶と、次回予告です。
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アロー「はじめまして皆さん。恐縮だけど、応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」
リア「よろしくお願いしま〜す👋(ふりふり)」
マドナグ「👋(ガション、ガション)」
次回はマドナグの一部、敵対勢力の詳細も少し明らかに。宇宙艦艇からの出撃も、操縦と通信やり取りの実在性高く描写します。まさにロマン……!
次回「出撃」……