同じスクールだったデン先輩が遠い所で、何か話している。かかりつけのロマ・ハッサン先生も居る。あれ、僕は家で寝ていたはず。
「いてて、な、なんで……?」
「お、目を覚ましたか。起きれるかな、アロー君」
「ロマ先生……ここは?」
見覚えがある。僕らの回収揚陸艦「アルカナクラス」の医務室だ。思い出した。マドナグに乗って、それで……。
「パイロットは死んだ……死んだ、か?」
脱出ポッドは動いていないように見えたけど。無我夢中で攻撃し過ぎてたから、全く確証が無い。どうなんだろうか。少し診察してくれたロマ先生に手を引かれて、ベッドから起きる。
「アロー。お前の、家族も知り合いも全員、無事だ。無事、だった。……心配は、いらねえぞ」
「そっか、あぁ……」
「むしろ驚いたぜ。お前機体の外で、白目剥いて浮いてんだもん。溺れてるかと思って、マジで焦ったぞ?」
「え、僕、マドナグの中に居なかったんですか?」
「何言ってんだ。オレっちが追いつく前に、機体ごとあの球体にお前が入れたんだろ。え、違うのか……?」
デン先輩の話によると、僕はバイザー付きが動かなくなると、マドナグを操縦して、あの緑の球体に戻したらしい。
呼びかけても出てこないので、おかしいと思って先輩が中に入ると、僕が中で浮いていたのだと、先輩は説明してくれた。
勝手に動いたんだろうか。いや、そもそもマドナグは、最初から勝手に動いていた。高度な自動AIでも積んでいるのか。後で整備の人に聞けば分かるかな。
「丸一日寝とったが、身体に異常は無いね。イルマ様が話を聞きたがっとる。着替えたら格納庫の方に行ってくると良い」
「今は敵の痕跡を辿って、暗礁宙域を航行中だ。気持ち悪くなったら、ちゃんと言えよ?」
着替えて先輩と一緒に、格納庫に来た。緑の球体が目立っている。整備員やスタッフさん達も、忙しそうにしていて、挨拶を返す。
撃破したバイザー付きや、先輩たちのムク。僕のムクもハンガーに固定されていて、イルマさんとリアが待っていた。
「来たね……よく生きて帰って来た。勝手に連れてきて悪いが、生命のやり取りをしちまった気分はどうだい?」
「連れてきたのは別に良いよ。でも、怖かったよ。そんなふうに、聞かれたくないくらいには……」
無我夢中で、頭が真っ白で怖いとか、考えてる暇もなかった。手が、震えて止まらない。
「そうかい。悪かったね。ま、そうだろうさ」
「イルマさん、僕は、人、をっ……?」
「気に病むな。連中について、分かってない事も多い。それに、力ずくでなければ、伝わらん事や、解決できない事もある、哀しいけどね」
イルマさんもリアも、いつもよりずっと身を寄せてくれる。気づけばリアを抱きしめて、彼女は泣いていた。
「辛ければ、私に相談に来な。いつでも」
ここは
死はすぐ隣にある。よく、知っている。
「連中はまだ調べてる途中なんだが、封鎖連盟の根腐れ資源不足ども、みたい、なんだけどね……」
経験豊富なイルマさんでも、確証は無いのか。
「旧世紀技術の強奪なんて、略奪と変わらん噂も聞いた事はあるが、昔っから何考えてるか、分からん連中だったからねぇ……」
地球圏ならびに月面都市軌道封鎖連盟。歴史の授業で動画を見た事がある。地球圏付近で内戦ばかりしている組織で、イルマさんも昔、追い払ったとか聞いた事があるけど。
「あのしろがね色……マドナグはこっちが分かる限り、旧世紀の代物で、グロームの怪物だとよ。チゲさんが言うにはね」
「グローム……」
グローム因子。今世紀に見つかった。ありとあらゆる物に含まれている因子。人間の脳波に感応する物質で、
「少し調べたが、あの緑色の液体は、高濃度のグローム因子を含んでいる。お前さんたちが耳を痛がったのも、そのせいだとさ」
「コイツは一体何なんですか。イルマ様……?」
「皆目見当もつかん。旧世紀の技術バカ共が、無茶やった結果なのは、間違い無いだろうが……?」
先輩とイルマさんが言う通り、よく分からない
「親父。どうだった?」
「中でライフルとシールドっぽい物も見つけて、おおよその性能も判明した。だが、機体内部のブラックボックスには、アクセスできんかったぜ」
「ブラックボックス?」
「自爆コード付きだ。機体封鎖用のEMP爆弾で、よほどの機密だったらしい。んで、開発名簿しか、探れなかった訳なんだが……」
「何か問題か、チゲさん?」
「二万人だ」
「すまん。もう一回言ってくれ、なんだって?」
「だから、二万人だ。誰が何を担当したかまではアクセスできなかったが、二万人が開発に協力したらしい、意味分かんねえだろ?」
全員ポカンとしてしまった。そりゃそうだ。船頭が多くて、船が沈むどころじゃない。専門家じゃないけど部品一つ一つを、下請けの会社を一人一人探っても、普通は千人も行かない。
デン先輩の実父であるチゲさんが言うには、博物区で見かけるような古い技術類ではあるけど、同時に信頼性の高い、高性能な技術が多く使われている。
戦闘行動によるデブリ発生などの宙域汚染も、ほとんど考慮されていない。まさに戦うためだけの高性能戦闘機体らしい。
「頭部から撃ち出していた。アレも?」
「あれは「実体弾」ってやつだ。レーザーとかパルスじゃなくて、一発一発爆発物で、わざわざ撃ち出してやがるんだぜ。信じられるか?」
チゲさんの話では、レーザー粒子の周波数を乱して防ぐ、パルス・シールドとの相性は最悪で、ほぼ貫通してしまう。
あの連射性能では、弾丸がデブリになって宙域汚染になる。とんでもなく罪深い兵装だった。
「現状。整備はともかく、網膜認証しちまったから、アロー君しか動かせんのだがな」
「この子。目が覚めたばかりなんだよ」
「…………へ?」
ずっと耳を澄ませた体勢で、黙って話を聞いていたリアが。また、よくわからない事を言い出した。
「全部合ってるか分からないけど。戦うために生まれた。ここはどこ。君たちの所属は? 本機の倒すべき敵は? って、感じるよ」
「アロー。お前は何か、感じるかい?」
言われて耳を澄ませて見る。かすかに球体の方から何か聞こえるけど、言葉は分からない。
「音は感じるけど、あの時みたいにはっきりとは……」
「ふむ……。グローム感応値の差かね。リア、痛みは?」
「ぜんぜんないよ」
耳の痛みは僕も無かった。リアのグローム感応値は驚異の九十台後半で、僕の感応値は八十台後半。体調とかで増減するけど、これが平均だ。リアが異様に勘の良い子なのもそのせいで、というかそもそも……。
「リア。
「忍び込んできちまったんだよぉ。お前さん連れてくなら置いてくなって、これも血かねぇ、はぁ……」
げんなりした顔で、超ドヤ顔のリアを前に、イルマさんはため息を深く、それはもう深く吐き出し始めた。
なんとなく腹が立ったので、こめかみをぐりぐりしてやる。
「やーめーろーよぉー!!」
「この、じゃじゃ馬めぇ!! 今日という今日はその根性、叩き直して……!?」
「第一戦闘配備。繰り返す。第一戦闘配備。進路上の暗礁宙域で、艦隊による戦闘行動を確認。パイロットは搭乗機へ、各隊員は速やかに、所定の作業を開始せよ」
けたたましい音で、艦内の警報が鳴りひびく。同時に艦内放送が、低く通る男性の美声で、繰り返されている。
にちゃり、イルマさんが、張りの良い童顔を歪めた。
「ハッ、家の
顎を引いて、口端を最大限伸ばして、口をバックリ開けて、大きく持ち上がった頬のせいで、両目を鋭くしていて──
鬼や悪魔だって引いてしまうような、壮絶な欲塗れの笑顔。
「リア。アロー「できる事をおやり」他は任せな!!」
そんな顔のまま、彼女は車椅子兼用宇宙服を操縦して、あっという間に行ってしまった。僕は、まだあの顔はできそうに無いけど、マドナグの入っている球体へ向き直った。
◇◇◇
宇宙では、大人も子供もない。みんな等しく宇宙に生きる人間だ。遠慮なんかしている余裕は無い。
チゲさんから手渡された、宇宙用のパイロットスーツに着替えて、マドナグに乗り込んで、通信機能付きのヘルメットから、艦内通信を繋いだ。
「追ってる三つは良い、
「こちら、統和国軍、第三師団艦隊所属ドルム。救援を求めます!! 繰り返す。こちら、……」
「こちら、商業都市同盟軍所属アルカナクラス。そちらの救難信号をキャッチした。敵対勢力は……」
「助けてあげて!! 悪い人たちじゃ無いよ!!」
「ちょっ、お嬢!? ブリッジに入っちゃ!?」
リアの奴め、懲りずに緊急事態だってのに……いけない。こういう甘えた考えが、一番いけない。彼女もできる事を、彼女なりに真剣に、必死にやっている。今は割り切るべき、それだけだ。
「敵対勢力は封鎖連盟です!! きゃあっ……!」
「決まりだ、助けるよ。あんたたちは全速で、ケツ捲ってお逃げ。総員、作戦を伝える!!」
イルマさんが伝えた作戦は、とんでもない物だった。悪知恵で僕とマドナグは、チゲさんの発案……もはや悪ノリじゃなかろうか。まあコイツなら、使えそうではあるけどさぁ。
「頼んだぜ。弁当まで背中につけてやったんだ。必ず、帰って来るんだぜ?」
「宙域、宙航訓練は
「実戦はお前の方が先輩なんだ。頼むぜ、先輩……!」
「デン先輩。茶化さないで下さいよぉ!!」
本当は分かってる。先輩の声も、僕の声も震えている。通信越しの気のせいじゃない。でも、いつもの会話をわざとらしくやって、少しだけ気持ちが冷静になってくれた。
ゆっくりと意識して、深呼吸。
「メインシステム。戦闘モード。始動」
スリープ状態から、コンソールに光が次々に立ち上がる。光学機器が、網膜のスキャンを開始。
「ジャイロ・コントロールを、宇宙用で更新。
もっと幼い頃。イルマさんに買って貰った、ラジコンヘリを思い出す。必ず飛ばす前に
「グローム感応反応。……良好。AI倫理セーフティーを、マニュアルに更新」
まるで騎士の聖句のように、
ふと、これから一緒に戦場を駆ける「彼」に、言葉を贈るべきだと、僕は自然に思えた。
「生命のやり取りを、僕としに行こう。マドナグ」
ギィンッ
複合センサー。光放熱素材のツインアイが、僕の言葉に応じるように、強く光ってくれている。
「各機、カタパルト射線確認せよ。整備兵は退避急げ。射出、1分前!!」
「手間は取らせないでくれよぉ、僕ちゃんたち」
「スーズ。M006。出るぞ!!」
カニンガムさんと、スーズさんのムクはもう先に、反対側のリニアカタパルトで出撃している。流石はベテラン義勇兵。僕らよりずっと対応が早い。
「第1ラジエーターが少し咳き込むぜ。それから……」
「わかったから離れねえとぶっ飛ばされんぜ!?」
父親であるチゲさんにブツクサ文句言いながら、先輩の準備も整ったようだ。青色のムクが、先にカタパルトに足を乗せている。
僕がリニアカタパルトをロックオンすると、マドナグのAIが物体を解析。スクリーン上に作業用のアイコンを表示してくれる。
『乗る/跪く/踏む/つかむ/その他/中止』などの表示から『乗る』を選択し、実行。
この艦のリニアカタパルトは、工業用に大型デブリを撃ち出す機能もある。なんとかマドナグの二十メートル級の大きさでも、無事に乗ることが出来た。
「アロー。リニアカタパルト。スタンバイ……!」
「シデン・ヘンリック。M008、行きます!!」
先輩が雄々しく声を張り上げて、出撃していく。
『
「
巡る星屑と
僕は初めてマドナグと一緒に、
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今回のまとめ
主人公アローくん気絶から目覚める。一行は謎の敵機の痕跡を調査へ。マドナグは2万人が制作したらしい。一体どういう事だ。
暗礁宙域で、封鎖連盟に襲われている船を発見。救援へ。
魂の初出撃。
題名は機動兵器に憧れてにしようかと思いましたが、憧れでは届かないと思ったので、主題を撃墜王の流儀へと、改めました。
アローくんが話しかけて、ツインアイが光ってるシーン。アニメで見たい(2回目)
人型機動兵器が一番イケメンな時はですねぇ! パイロットの思いに応えて、目を光らせる時なんですよぉお!! (諸説ありますよ、もちろん)
出撃BGMはお好みの物を脳内で、セルフプレイミュージックでお願いします。
ちなみに作者である私は、あ、ダメだ多すぎて選べないようっ……! よし、ガンダムSEEDの「GUNDAM出撃」で。
あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!
以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回は義母である「イルマ」さん、ついでに「マドナグ」の一言と、次回予告です。
PC版の場合は、次の手順です。
1・目次ページ下部の★123などと表示された、青い星と数字の項目をクリックする
2・作品ページにある「★で称える」の+(プラスアイコン)を押す
3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。泣いたほど喜んだ事あります。
アプリ版の場合は、次の手順です。
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✻注)PC版のように、★123などと表示されたアイコンをタップしても動きません。ご注意下さい。
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3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。泣いたほど喜んだ事あります。
アロー「リアの奴、勝手に乗り込んでさぁ……」
イルマ「まあ、許しておやりよ。お前と別れたくなくて、仕方ないんだからさ」
アロー「リアには甘いんだから。まあ良いや。皆さん、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」
イルマ「よろしくお願いだ👋(ふりふり)」
マドナグ「👋(ツインアイ、ギィンッ)」
次回は初の複数戦。星巡る
次回「戦士」……