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第3話 「戦士」

 火星と木星の間。小惑星帯アステロイド・ベルトには、数百万個に及ぶ小天体が公転していて、その多くは直径1キロメートルにも満たない、そう大きくない屑星だ。


 と言っても一つ一つの小惑星が、隙間無くみっちり集まっている訳じゃない。大きな航宙艦艇や、大きな機体RFだって、ちゃんと航路を選んで余程速度を出さなければ、問題なく避けて航行できる。


 旧世紀の跡だろうか。戦艦の建材や、航宙戦闘機に見える残骸がある。薄いとは言え暗礁宙域だ。マドナグにねられたくないし、ぶつからないように、気をつけよう。


 小惑星とデブリの隙間から、大きな赤い光が尾を引いて進んでいる。さらに後方には、少し小さな青い光が三つ。


 同じように尾を引いて、たまに青白いレーザー火線を伸ばして、赤い光を攻撃している。


 戦闘濃度のグローム因子散布を、各部の走査波で確認。有視界距離の通信に、悪影響が出るほどじゃ無い。


 それでも無線誘導兵器に、悪影響は出る可能性がある。この場所で制御不良の荷電粒子誘導弾プラズマミサイルとか、誘導が不安定になり、デブリ衝突で爆散する危険が高いから、とても使用はできない。


「そろそろだ。デンは作戦通り、俺たちについて来い。相対距離の確認を忘れず、絶対にケツを見失うなよ」


「は、はいぃいッ!!!」


「やれるな。アロー・イルマ少年」


「はい、離れるべきタイミングは、お任せします」


 偵察しているカニンガムさんが指示を飛ばして、落ち着いた声のスーズさんが、僕に再確認してくれた。作戦は頭に入っている。深呼吸も意識して、できる。よし。


「よーし。頼むぜぇ、実戦経験者。こっちも久々だからな。グロームの海におぼれ……!」


 カニンガムさんが、突然黙って一番先に動いた。

 照準波を検知。警報音が自動で鳴りひびく。

 光った。心臓が跳ね上がる。喉が、一気に渇く。


「えっ、え!?」


 隊列の真ん中に居た先輩だけが、動けなくて。


 短いレーザー火線が先輩の青いムクと、まったく見当違いの三時方向に、飛んで行った。


「仮にも暗礁宙域だぞ!? 新兵かよぉ!? 行け、アロー!!!」


「……了解ッ!!」


 先輩が慌てて小惑星の陰に動いた。僕も作戦通り大きな小惑星の陰に、できるだけ頭部センサーを遮らないで隠れつつ、移動を始める。


 各部の走査波をもう一度。今度は長めに。僕のマドナグは大型だから、センサーの探索範囲が2倍以上違う。


 レーダーに、グローム因子による不確定部分ブランクと、障害物の陰。よく全体を観測できる。


「皆さん、観測データを送ります!」


「頼む。……ここだな。良いか、スリーカウントで十一時方向に、一斉に撃ち込む。それまで絶対に、ブースターを吹かすなよ?」


「りょ、了解っ……!」


 敵から隠れるために、もうブースターは使えない。僕はここでは射角が取れない。作戦上も十八発の内、無駄弾は一発も撃てない。……頼む、先輩。


「3……2……待て、……1!」


 固まった唾を飲み込む。カニンガムさんの予測通り、マドナグのセンサーにもバイザー付きが二機。デブリの影から出て、みんなの目前を通り過ぎようとしていた。


「……撃てっ!」


 宇宙空間を切り裂いて、高出力の光速レーザーを、秒間十発の連射で照射。バイザー付きを火砲に巻き込んでいく。


 パルス・シールドを張る間も無く一機。運よく味方の影だった一機も、遅れてパルス・シールドを張ったけど、防ぎ切れず火砲に焼き尽くされた。


 爆発、閃光。宇宙空間なので、あらかじめ登録インプットした、爆発音が鳴る。

 撃墜、2機。生命の花が、二つ散った。


「や、やった、……はは」


「呆けるな、移動だ、デン。すぐ喰い付かれるぞ」


「はっ!? はいッ!!」


「厄落としは済んだな、訓練通り、残弾を確認しろ。予備弾倉に必ず弾を残せ。無くなったら言え。渡す」


「了解ッ……!」


「……どう見る。スーズ?」


「先ほどの射撃と、傍受できている暗号通信量の少なさからして妙だ。……誘いか?」


「二機やられてんのにか。だが、暗礁に慣れてねえって、線にしても。なぁ……?」


 マドナグが拾っている、解析できなかった暗号通信量も、極端に少ない。


 つまり、敵は連携が取れておらず、地の利を生かしきれていない。そういう罠かも知れないけど、現状そう判断するしか無い。


 冷静に形状を思い返して見ると、少し妙でもある。敵機のバイザー付きは、曲面装甲がムクより少ない。と言うより、無いに等しい。


 レーザーに対する装甲は、丸い装甲であるほうが入射角を拡散させて、エネルギー吸収率を下げるのが常識だ。


 生産性が容易とか、別の設計思想があるのかもだけど、それにしたって奇妙だ。そうで無いなら。


「雑っぽい事を……!」


「進路クリア。イルマ様、行けます!!」


「よし。。屑星の飛び方ってヤツを、連中に刻んでやりなッ!!」


 母艦アルカナクラスが、他の艦よりもずっと大きく光って、ド派手にエンジンを吹かして動き始めた。作戦は、第二段階に入っていた。



◇◇◇



 デブリと小惑星の隙間を、ぐるりと宇宙そらを泳ぐように、母艦アルカナクラスが進んでいく。


 操舵手ルトリックさんは、なんてクソ度胸なんだ。敵の射線を外すため、鋭角に船体を傾けながら進路を変更し続けている。とても真似できない、したくもない身も凍りそうな操船技量で、あっという間に駆逐艦三隻に肉薄していく。


 火砲の冷却が間に合わないのだろう。ほとんど母艦アルカナクラスは、敵のレーザー弾幕に晒されていなかった。


「主砲、副砲、荷電粒子プラズマミサイル。よーい!!」


 事前に聞いていたけど、やっぱり耳を疑った。一応ミサイルの放電量と数は目眩まし目的だから、相当ケチるって言ってたけど、イルマさんは敵を散々振り回す気だ。我が身内ながら、性悪で何しでかすか分からなくて怖い。


「撃てぇー!!」


 駆逐艦三艦の間を縫って、アルカナクラスがすれ違う直前。固形燃料から進む誘導弾が、派手に命中して荷電粒子プラズマを撒き散らした。主砲も何発か当たって、相手の主砲を大破させたようだ。


 駆逐艦三隻は母艦アルカナクラスを追って、慌てて180°回頭。イルマさんの読み通りだった。


 つまり、連中は背を向けた。この僕に。


 猶予はない。今なら直上後方、それも死角から敵艦隊に接近できる。固いフットペダルを強く、いや、徐々に踏み込む。反物質炉ジェネレーターが唸りを上げて、胸部の熱交換器ラジエーターが、機体の息吹を何度も吐き出す。


 三つの反物質ロケットエンジンに、タービンポンプから推進剤が流れて燃焼し、マドナグは宇宙そらを飛び始めた。


 作戦は今まで、すべて上手く行っている。先輩も無事生き残って、戦っている。でも。


 この作戦最大の問題点は、僕に人が多く乗る敵艦を、撃てるかどうか。


「作戦は、以上だ。……アロー。ド真ん中を撃ち抜くか。動力部だけを狙うかは、好きにしな。だが、これだけは言っとくよ「勝てるかどうかは、その手次第」さね。ま、できなかったら、あたしに任せな!!」


 イルマさんの言葉が、頭をよぎる。ガチガチに腕が硬い。喉が渇いて痛い。マドナグの大火力なら、きっとやれる。


 敵艦の砲塔も、こっち方向にはあまり対応していない。およそ搭乗者は一隻二百人。二百人だ。


 いや、仮に一隻に十八発全弾撃ち込んでも、緊急シェルターがあるから大破、全滅なんて。余程運が無いとあり得ないけど、でも、気休めだ。


 ここまで来て目をそらすな。当然の事実から。

 いや、そらしたって良い。でもやるべき事は、まだ見失うな。


 艦橋の形を確認。艦橋だけなら、きっと多くても三十人。僕自身とイルマさんとリアと、顔も知らない三十数人。残酷だけど、比べるまでもない。僕は残酷だ。マドナグも、残酷な兵器なんだ。


 僕は今日……初めて、戦士になる。


 深呼吸、熱交換器ラジエーターの息吹、深呼吸。熱交換器ラジエーターの息吹。…………ライフル。ロック、オン。


 僕とマドナグの息吹が、ひとつになった瞬間。ためらわずトリガーが、引けて。


 収束した重粒子が、光速の赤く太いレーザーとなって、敵艦の大口径レーザー主砲を。次にレーザー副砲。おそらく二つある内の、反物質ロケットエンジン一つを。


「マドナグ。エンジンのロックは、一つで良い」


 最後に、艦橋を撃ち抜いた。



◇◇◇



 敵艦撃墜、一隻。中破相当。


 目が痛い。一回、一回で良い。まばたきを、よし。フットペダルを全開に。残弾十四。護衛の敵機RFは三機。敵艦は回頭している。シールドを……!


「は、はは……」


 弾幕の雨に突っ込む。護衛のバイザー付き三機は、足を止めた応射ばかりで追いついて来ない。撃つ。バイザー付きの右半身が、吹っ飛んだ。


「はははっ、はっはぁあっ!!」


 やれる、やれてる。頭が破裂しそうでも。もう一隻。無傷の敵艦をロック。副砲。主砲。エンジン一つ破壊。艦……。


「アンカー、撃てぇええ!!」


「っ……!!?」


 敵艦の艦橋を撃ち抜く前に、通信越しのイルマさんの声で気がついた。もう良い、もう、もう良いはず。離脱、そう、離脱の時間が近い。大きめの小惑星に隠れて、360°を走査波で調べる。


 先輩たちも、無事合流ポイントに向かっている。母艦アルカナクラスも、虎の子のワイヤーアンカーを小惑星に撃ち込んで、ムリヤリ超急速旋回している。追跡も無い。行こう、合流できなくなる。


 火事でも起こしてしまった後みたいだ。

 僕の頭も、感覚もおかしい。完全にハイになっている。


 過度の渇きを検知して、ヘルメットが自動でストローから水を差し出してくれた。少し慌てて飲む。


 二時の方角に急ぐ。救難信号を出していた艦が見えてきた。軽巡洋艦……いや、重巡洋艦だろうか。ロックオンしてしまうので、コンソールを操作して味方識別信号IFFに登録した。


「いけない!! 逃げてぇえええええ!!!」


「えっ、リア……!?」


「高熱原体急速接近ッ!!? これは、オーバーブースター!?」


 本当に顔を向けていたのは偶然で、本当に一瞬だけ幸運にも、光の尾が見えた。


「っ……マドナァァグッ!!!」


 管制コントロールスティックを操作して、機体を向ける。また光った、放射状に……! 光の中心から切り離したブースターだけが、重巡洋艦みかたに突っ込んで来るッッ!!?


「IFF確認ッッ!! ……これは!? ランカーエース19ナインティーンカーヴォン!! 機体名は、エスペランサですッ!!!」


「見せて貰いましょうか」


傭兵ランカーエース……公衆回線オープンチャンネルッ!?」


「旧世紀の亡霊とやらが、どこまでやれるのかを」


 僕はこの日、産まれて初めて。本物で、歴戦のエースに、戦場で出会ってしまった。




────────────────────────────────


 今回のまとめ。


 小惑星帯は、屑星が一杯。敵機を二機、不意打ち撃破。だが様子がおかしい。


 イルマさん、アタマおかしいんじゃねえの(通常営業で航行攻撃中です)アローくん「戦士」を決意し、二隻撃墜。この時点で撃墜王エース確定ですね。


 伝 統 芸 能。


 アタマのおかしいやつには、アタマのおかしい登場するやつぶつけんだよ! 戦場にマトモなヤツが、のんびり居るわけ無いよね。フヒッ。



 葛藤、焦り、倫理、愛情、克己こっき、戦意、そして生命。それらすべてを飲み込んで、干さぬ戦場。

 そりゃなれてても、喉も渇くってもんです。Gレコとか、しょっちゅう飲み物飲んでるし。

 ちなみに、マドナグくん初め、RF規格の機体はGのレコンギスタや、ホワイトドールこと、∀ガンダムのようにスッキリとしたコックピット構造で、コアファイター機能も無いので、もっとスッキリしてます。


 生存重視で二人乗りも想定の構造で。ロボットと言うより戦闘もできる、小型ロケット兼狭い住居拡張機能付き汎用人型機。と言った方が正解に近いのです。だから色々できる人型の方が良いんですよね。ちょっとした栽培とかも用意があるので。宇宙で生きるって、マジ大変。


 どんな高性能な宇宙船作るよりも「地球号」に寄せる方が手っ取り早い。真の正解って、たまに目の前か、極論にしか無いのですね。


 あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!


 以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回は先輩である「シデンことデン」さん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。


 PC版の場合は、次の手順です。


 1・目次ページ下部の★123などと表示された、青い星と数字の項目をクリックする

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 3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。泣いたほど喜んだ事あります。


 アプリ版の場合は、次の手順です。


 1・レビュー項目を右スクロールする。

✻注)PC版のように、★123などと表示されたアイコンをタップしても動きません。ご注意下さい。


 2・作品ページにある「★で称える」の+(プラスアイコン)を押す

 3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。泣いたほど喜んだ事あります。


 アロー「助けた艦の人たち、どんな人でしょうね?」


 デン「美人の気配がする……!」


 アロー「だと言いですねえ。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」


 デン「よろしくお願いだぜ👋(ふりふり)」


 マドナグ「👋(ライフル。ズキューン!)」


 次回は初のエース戦。星巡る宇宙そらを駆ける、戦場の狂気。守るべき女性ひとのために、少年は「最強にして、最重量の流れ星」を、マドナグのその手に装備し、挑む。


 次回「撃墜王エース」……宇宙そらを飾るは、願い星。

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