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第4話 「撃墜王」

 僕たちの操縦するロールRフッドFは「役割を持つ被り物」と言う語源が元になっている。そして、フッドは脚部を意味して、性能傾向の七割以上を占める脚部を中心に、全てのパーツが規格化されており、自由に換装できる。


 各パーツの組み換えによる、高い汎用性と拡張性を持ち、理論上だけは、あらゆる戦場に対応できる点から「戦術的な観点から見て最優秀の兵器」と評されている。


 極端な話、ただ脚部を換装するだけで、上半身が人型の車両兵器にも、水上船やジェットホイルよりもずっと高速で動ける。フロート型の水上兵器にも、時間をかければ換装が可能だ。


 実際、そこそこの小金持ちは、武装させずに遊び用や競技用、作業用に使っている人も多い。


 そんな最優の機体を、個別に高精度カスタマイズして駆る。世界で二九人しか居ない、たった一人で戦略を覆しかねない、常識外れのトップエース達。


 それが、目の前で通信してきた、傭兵ランカーエース。お金で雇われる、最強の兵士だった。


「嘘だろ……!!?」


 十個くらいの束ねたエンジン・ブースターが、マドナグの十二時の方向で、味方艦ドルムに向かって、バラバラに空中分解しはじめた。


 なんて奴だ。掟破りにも程がある。デブリによる宙域汚染とか、まったく考慮していないであろう非人道的な、最低最悪の攻撃方法。


「このっ……!!」


 照準の熱源探査ヒート・ソースが上手く利かない。コンソールを急いで切り替え、物理運動探査モーションに切り替える。


「させるかぁああッッ!!!」


 トリガーを何度も引いて、光束のレーザーが宇宙そらを駆ける。ライフルから放たれた6本の火線が、次々にデブリを焼いていく。だけど、大きい物理現象は、大口径のレーザー・ライフルじゃ焼き切れない。


「か、回避ーーー!!!」


「きゃああああああああああ!!?」


 メインの一番大きいブースターの残骸が、味方艦ドルムの脇腹に衝突した。艦橋とか、エンジンとかよりマシだけど、大きく船体が歪んで傷付いている。


「大火力ですね、連射性も高い。これは、一撃も貰いたくありませんね」


 コノヤロウ。人の宙域ウチにズカズカ乗り込んできたて、好き勝手に残骸ゴミ撒き散らして、他人事ひとごとみたいに、言うに事欠いてそれか。


 ──── 完全にアッタマきた。ブッ殺す。


「…………っ!!」


 ペダルを蹴り抜いて、かっ飛ぶ。距離を詰めれば、それだけ当たりやすくなる。最強の傭兵だか何だか知らないが、知った事かぁ!!


「速いっ……!?」


「いただくッッ!!!」


 距離100メートル以下。下の小惑星群に踏み込まれたけど、完全に捉えた。光速のレーザーが光る。この距離なら…………外れた?


「なぁっ……!?」


 飛び上がられた、上に、高く。

 光速が、光の速さが、通用していない。

 そんな、バカな、なんで光を避けられる!!?


「勢いは良い、ですが」


「うわっ……!!?」


 回り込まれ、接近警報ッ!!! シールドを!!


「機体の重さまでは、誤魔化せません」


「うわぁあああああああ!!?」


 間に合わなかった。シールドの峰ごと、器用にすくい上げるように、両足で蹴られた。ダメージ、ダメージなら下がって、ダメージコントロールを。


 これが、撃墜王エース。……強い。


「ぐぅうぅ……?」


「硬い、硬すぎる。何ですかその硬さ、通常では、あり得ない……!」


 動揺しているのか。落ち着け、頭を冷やせ。相手の足を見ろ。それで、性能傾向はちゃんと見える。


 逆足さかあし。膝関節が「ゝ」の字のような、左右逆関節の重心が低く、上下跳び上がりやすい、立体機動向けの脚部パーツ。


 憎らしいほど的確な選択だ。多くのデブリや小惑星群の中で使うなら、これ以上無くベストだろう。


 ダメージレベル走査、問題無し。── 戦える。


 敵機は右手レーザー・ハンドガン、左手レーザー・ライフル。僕も訓練で使ったベストセラー品セット。悔しいけど納得のセンスだ。僕もムクやシュミレーターなら、それを選ぶ。肩武装は……。


「舌が、ある……?」


 何だ、あの生き物が口を開けたみたいな、生物的なデザインの肩武装は? 

 あんなの、見た事も聞いた事も無い。


 照準波を検知、撃って来るか。


「ええい、これならどうです!!?」


 レーザー・ハンドガンと、レーザー・ライフルを連射して撃たれたけど、シールドで防いで下がる。


 厄介なところに打ち込んでくる。やっぱり相当な技量だ、上手い。冷静に反撃を、そうだ。


「それならっ……!!」


 シールドを腕にマウントしつつ、火器管制FCSから、マニュアル狙撃モードに変更。


 両方のマニュピレーターでしっかりとライフルを固定して、2連射撃つ。撃っている途中で腕部を動かして、強引にレーザー照射範囲を広げた。


 足場の小惑星と、頭上のデブリに撃ち込んだ。レーザーで破壊した後なら、たとえ逆足でも上手く踏み台にできない。


「なんと、そう来ますかっ……!?」


「貰っ……え、あっ!?」


 電子音が高い音で鳴って、残弾1。弾がもう、無い。しまった。つ、使い過ぎた。


「っ……!? なにをしているのですか、撤退、撤退して下さい!!」


 敵機体エスペランサから放たれた、派手にカラフルに光る三つの信号弾に、マドナグのAIが自動で光量を下げてくれる。


「えっ、な、なんで……!?」


 あれは、確かその場から急いで離れろって色の信号弾だったはず。だけどなんで。


 振り返るとそこには、主砲を荷電粒子プラズマミサイルで破壊された敵駆逐艦が、強引に小惑星の間を抜けて、並んだ味方艦二隻に、接近しようとしていた。



◇◇◇



 考える間は無かった。気が付けば機体を反転させて、もう一度フットペダルを蹴り抜いて、マドナグを味方艦二隻の方向に、全速前進させていた。


 血の気が引いているのが、自分でも分かる。やめろ、やめてくれ。それだけは、絶対にッ!!


「主砲、副砲、荷電粒子プラズマミサイル、照準!!」


「停船なさい!! 勝敗は決しました!! そのような行いは許しません!! お止まりなさいぃい!!」


 さっきのブースター残骸の衝突被害が酷いのか、味方艦ドルムの動きが鈍い。艦内の通信オペレーターは、気丈にも停船を呼びかけてるけど、敵艦からは応答が無い。


 母艦アルカナクラスが敵駆逐艦の進路上に割って入って、砲口から大口径レーザーを連射している。荷電粒子プラズマミサイルも、発射口が開いている。盾……いや、防いで刺し違える気だ。イルマさんならそうする。


 間に合え。照準波を検知、敵機、バイザー付き、正面。しまった、撃たれる……!


「うがぁわああああああああああッッッ!!!」


 青いネイビー色のムク。先輩が、バイザー付きに突撃して、小惑星にそいつを強引に押しつけた。いけない。バイザー付きは逆手に、レーザー・ソードを抜いている。先輩が刺される。


 残弾1。先輩を避けて、撃てるのか。


「よくぞ、止めたぁあッ!!!」


 回り込んでいたカニンガムさんのムクが、先にレーザー・ソードで、バイザー付きの腕を小惑星に張り付けにした。


 味方艦二隻に向き直る。マドナグの足を止められたせいで、敵艦はもう間近で衝突コースに入っている。物理的に止める事は、もう……。


「聞こえるか、少年!」


「スーズさん!!!?」


「バックパックのマス・クリーバーを使え、それしか方法が無い!!」


 僕と背中合わせに敵に向けて、レーザー・マシンガンを撃ちまくっているスーズさんが、的確に指示をしてくれた。もう、やるしか無い。


 一息だけ、大きく息を吸う。火器管制FCSの『側頭部機関砲/レーザー・ライフル/未確認兵装Unknown Weapon/中止/その他』表示から、未確認兵装Unknown Weaponを選択。


 レーザー・ライフルを兵装取付具パイロンに格納。背中に吊り下げていた塊を、両手に装備させる。


 特大質量支柱実体剣斧マス・クリーバーと言う。大正義にして、馬鹿極まりない大間違い。


 異常な出力を持つマドナグを、人が扱えるようにリミッターとして背負わせている。過剰重量デッドウエイト


 要はコロニー用建材支柱を、床部品ごと引っこ抜いて、大きい床部分にロケットブースターを六つ、強引にくくりつけた。本来絶対に武器ですら無い、何か。


 全高実に11.7メートル。総重量、驚異の62.1t。マドナグよりずっと重く。ムクよりもデカい、鉄と植物混合の塊。


「──── 点火イグニションッ!!!」


 ロケットブースター六つに火をつける。チゲさんが即席で配置してくれた、カバー付きの黄色い点火ボタンを、カバーごと拳でぶん殴る。


 ぶっ飛ぶ。六つのロケットブースターに振り回されないようにフットペダルを、今までで一番強く蹴り込む。


 マドナグ本体と合わせて、計九つの熱核ロケットブースターが、宇宙そらの彼方に一瞬で飛び出して行く程の超々加速で、巡る宇宙ほしぞらを切り開いていく。


「ぶ・ち・ぬ・けぇええええええええッ!!!!」


 完全にコントロールは不可能。敵艦の甲板に向けて吶喊とっかん。直上から、限りなく全力全開全速で、大激突事故を引き起す。


 衝突警報と異常検知警報がめちゃくちゃうるさい。いろんな計器が乱れて、反物質炉の過負荷警告が点滅。マドナグのエネルギーレベルが、大幅に下がっていく。


「マァアドナァァアアアグッッッ!!!!」


 機体内部でも反物質炉ジェネレーターが大絶叫を上げて、胸部の熱交換器ラジエーターが、排熱いぶきを限界以上に吐き出している。


 勇気づけるためだろうか、それともただ、異常を検知しての偶然か。複合センサー。光放熱素材のツインアイが、僕の叫びに応じるように、強く光ってくれた。 


〝すごい。まるで、流れ星……〟


 誰の声だろうか。リアか、イルマさんか、あの傭兵か。それとも別の誰かか。


 閃光の向こう。くの字に折れ曲がった敵駆逐艦が大破炎上し、小惑星に激突している。僕は味方艦二隻を無事守り抜く事を、無我夢中でみんなと成し遂げていた。




────────────────────────────────


 今回のまとめ


 カーヴォン君のとんでもない汚染攻撃に、アロー君初めての戦場ということもあり、キレる。


 互いに撃ち合い。なかなかの妙手に一進一退。


 マドナグ固い。敵艦は停船警告に従わず、無言で特攻。これを、流れ星事、特大質量支柱実体剣斧マス・クリーバーで、撃墜。



 そらもう。流れ星のシーンはアニメで見たい(3回目) オープニングか、特殊BGM付きで(2回目)そろそろこうやって何回目か書くのが、楽しくなってきましたねヒャッハァー!!


 案ずるより折るが易し。いっそ祈るくらいに。願い星ですからね。


 点火とか宇宙船っぽくていいですよね。今作のテーマの一つが、宇宙と人との関わりなので、カーヴォン君はマジで、カマしてくれましたね……。


 居住区の近くでやったら、裁判沙汰の行動ですからね。傭兵は自由で、それゆえにモラルがたまに悪い。まあ、理由があるのですが、わざわざカーヴォンは語らないでしょう。


 いくつか思いついたのは土壇場でしたが、なかなか良い締めになったと自負しています。皆様に楽しんで頂けたのなら、これ以上の事はありません。


 では、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!


 以下その方法と、今回は謎の仮面傭兵「カーヴォン」と「マドナグ」の一言と、次回予告です。


 PC版の場合は、次の手順です。


 1・目次ページ下部の★123などと表示された、青い星と数字の項目をクリックする

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 3・★を付与する。★★★3つだと、とっても嬉しいです。実際に泣いたほど喜んだ事あります。


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 カーヴォン「ははははっ、どうも、仮面枠のカーヴォンです。勝利を楽しく求めるのがモットーなので、今回も頑張りました✨️」


 マドナグ「………………(💢)」


 カーヴォン「では、あんまり語っちゃうとネタバレになるので、ご挨拶で。今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」


 マドナグ「👋💢💢(無言の側頭部機関砲、カーヴォンに向けて、スタンバイ中)」


 次回は、生き残った事を噛み締めつつ帰還。宇宙に咲くヒロイン様ご来訪。美脚で勝負。封鎖連盟の異常性も、一部明らかに。


 次回「貴婦人ヒロイン」……宇宙そらを飾るは、願い星。

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